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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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表舞台と裏舞台

――ドドドドドッ――


轟く足音に目が覚める…寝惚けた思考で天井を見上げ、その天井で蠢く〝生々しい脈動〟を見ると…急速に思考が冴えてくる…。


「此処は――!?」


目が覚めると同時に、直ぐ近くで渦巻くドス黒い気配ともう一つの強大な〝魔力〟の抱擁を感じ、私の思考が乱れ…思考に空白を生む。


「――起きたのね、〝江理佳〟」

「ッ――字波殿…!」


混乱の最中、不意に聞き馴染みの言葉が耳に届く…それに安堵と安息感を覚えるも、直ぐに香る〝血と死〟の匂いに平静と冷静へと思考を切り替える。


「状況はッ…!?」

「――〝街全体〟が〝異界化〟したわ、〝夜門〟に近い性質で、〝此処の核〟は〝アレ〟よ」


紅月…字波美幸はそう言いながら、迫る妖魔達の猛攻を巨大な結界で防ぐ、その視線の先に居る〝強力な瘴気の塊〟を見ながら、私は彼女が〝求める答え〟を弾き出す。


「――つまり、〝周囲の妖魔を掃討する人手〟が必要だった訳ですね」

「流石…出来るわね?」


――ゾッ――


美幸殿の言葉に返礼する様に、私はその身から魔力を噴出させ、〝魔術陣〟を構築する…無論、そのオーダーは〝可能〟だ。


「当然……我々は〝対妖魔〟を想定し組織された〝組織〟ですので」


そして私が大地に生み出した魔術陣が怪しく輝き…其処に〝黒い煙〟が渦巻く。


 「『――〝目覚めたか〟…いやはや、退屈だったぞ我が主よ』」


そして、そんな声が聞こえたかと思うと刹那…煙は晴れ渡り、1人の〝人型〟が私の前に跪く。


「悪かったわね〝ジェード〟……いいえ、〝魔喰らい(デビル・イーター)〟」

「『――ほうッ♪……その名で呼ぶと言う事は…〝我が主〟…』」

「えぇ……〝その通りよ〟」


短い問答、意味有りげに問う私の使い魔へそう答えるとその瞬間…私の眼の前で怪し気な細身の男、ジェードはその身体から〝黒煙〟を噴き出し始める。


「『〝黒煙の身貫きし聖杭は〟』」

「〝絶対者の権限により抜錨される〟」

「『〝魂啄む嘴を抑えつける祈りの口枷は〟』」

「〝密約の誓いによって解き放たれる〟」

「『〝災う六つの眼覆う縛帯は〟』」

「〝忠誠と信頼の契りにより解かれる〟」

「『〝苦悶の病纏う翼の磔は〟』」

「『〝無垢成る者への〝不仇〟の念を以て羽撃くを赦そう〟』」


彼が紡ぎ、私が謳う…その度に、黒い身体な浮かぶ白い銀の紋様が粒子に変わり、ジェードの姿が変貌していく。


「『〝歌え、謳え人の子よ〟』」

「〝汝は魔の海より来たれり災禍〟、〝支配無き死喰らい〟、〝意思持つ天災〟…〝滅びの体現者〟――〝名は〟…」


そして、既に人間の形を保たなくなった〝黒煙〟の塊に、私はその〝真名〟を紡ぐ。


「〝魔喰らいの鴉(デビル・イーター)〟…〝ジェード・アドルニカ〟――魔の主さえ恐れる〝厄獣〟よ、異界の空に羽撃くが良い」

「『――〝承諾〟した、〝我が主〟』」


――バサッ――


その言葉と同時に、〝何か〟が風を仰ぐ…その瞬間、黒い煙は吹き広がり、空高くへ黒い〝鴉の異形〟がその巨大な羽を広げて見据える。


「『――おぉ、うむ…この姿に成るのは何時ぶりだ…?』」

「――私と江理佳が貴方を捕まえた日以来ね」

「『カッカッカッ、そうであったな♪…どれ、あの日の再戦を――』」

「〝ジェード〟、世間話の時間は無いのよ」

「『――うむ、うむ…分かっている、分かっているとも……〝要求〟は――』」

「〝周囲の敵を掃討しなさい〟」

「『〝容易い〟』」


私の言葉にそう言うと、巨大な鴉はその6つの目を黄色色に輝かせ、空を飛び回る…。


「『〝腐りの黒煙〟』」


その飛翔する身体から噴き出す黒煙が、周囲の獣達に降り注ぐ……次の瞬間。


『『『『――ッ』』』』


――グチャッ――


アレだけ蔓延っていた獣達が一斉に沈黙し、叫び声を上げるよりも早く、粘性を帯びた肉の泥に変わり果てる。


「『――ふむ…久しい本領であったからな…些か〝時が掛かる〟ぞ?』」

「それだけ動けるなら十分よ…ジェードはそのまま雑魚達を掃討…字波殿は」

「――えぇ、〝結界〟の維持はお願い」

「――タイムリミットは〝二分〟です」


そして…長い、永い夜の劇場…空座の舞台劇、その〝終幕〟は齎される……。


「――〝充分〟よ」


その垂れ幕は赤く紅く…鮮血の様に鮮やかな色をしていた……。



○●○●○●


――ズズズズッ――


「ハッハッハッ♪――いよいよ〝不味い〟な♪…等々私の〝表層〟までに飽き足らず〝深層〟にまで食い込み始めたな!」


苦悶の声、憤怒の叫び、悲哀の嘆き、憎悪の囁き…其れ等は私の五感を絶え間なく刺激し、精神を苛もうとする…事実〝少し〟煩わしい…こうして虚勢でも張らなければストレスで狂いそうだ……だが。


「ガアァァァッ!?!?!?」

「――おや、君の方はそろそろ〝危険〟かな?」


目の前で叫び回る〝ソレ〟よりはまだマシだろう……愚かな〝私〟、浅慮な〝私〟、浅ましく馬鹿な本能の私が地面をのたうち回り頭を掻きむしる様は〝無様の極み〟と言えよう。


「〝形〟を保っている所を見ると…まだ少しは抵抗の余裕が有るらしいが…それも〝直に潰える〟かな?」

「オォォォォッ……クソッ、クソクソクソッ……この、私が……折角、あともう少しで〝肉体〟を奪えたと言うのにィィィィッ…!!!」

「ハッハッハッ、良いねぇ…野心的でいる事は評価しよう、その野心が企んだやり方は冷笑に値するがね……さて、我々の侵食は〝とても不味いライン〟まで迫っている…この状況下では私達は動けず耐え忍ぶしか出来ない訳だが……君…このままでは〝消える〟ねぇ?」

「ッ……巫山…戯るなァ!」


私の言葉に彼は怯えと恐怖と怒りに満ちた血眼で叫ぶ…嗚呼、巫山戯た末路では有るとも…。


「――〝死にたくない〟のかい?」


そう……分かる、分かるよ君ィ…無念の死等死んでも御免だろう、野心家な君なら殊更〝生き延びたい〟だろう……だったら、だ。


「――だったら…〝助けて上げようか〟♪」


私の言葉が暗い淀んだ世界に響く…その瞬間、まるで世界から音が消えたかの様に〝無音〟が蔓延する…。


「……どういう…意味だ…」


そして無音を破る…〝悪性〟の声が問い掛けた…その顔は呆然と…しかし何処か〝希望〟を手にした様な微かな輝きを浮かべていた……。


「仔細が聞きたい?――大変結構♪」


その顔へ、私はそう言いながら悪性へと言葉を紡ぐ……その顔の皮の内側に秘めた、悪辣の一切を完全に覆い隠して。

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