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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第一章:謎だらけの教職者
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化鼠と野良猫

――ザリッ…――


「私はとても悲しいよ、一夜の友を〝妖魔〟に殺されて酷く悲しい…まるで心が張り裂けてしまいそうだ♪」

『ッどの口で――!?』


――ボンッ――


「あぁ、許せない、赦せない…せめて〝彼の仇討ち〟をせねば、彼の心は浮かばれないだろう♪」

『クッ!?』

(何だ〝コイツ〟は!?)


白猫は迫る〝礫〟を躱しながら今尚〝術〟を構築するその〝化物〟へ目を釘付けにする。


「成る程、たかが音速程度ならば避けらるか♪…なら!」

『フシャァァァァ!!!』


アレを早く殺さねばと、己の本能が警鐘を鳴らす…その本能は正しいのだろう…〝アレ〟は間違いなく〝脅威〟だ。


そうして、白猫はその強靭な肉体を駆使し…今、術を放とうとした男の腕を切り裂かんとした…その瞬間。


――キュィンッ――


「ッ―――♪」

『ッ!?』


男の腕に触れた瞬間…その腕に魔術陣が浮かび上がり、反応の余地無く起爆する。


――ボンッ――


『ギニャァァァ!?!?!?』

「君は私を〝殺したい〟…ならばその習性を利用しよう♪」


顔が熱で蝕まれる…熱い、痛い…苦しい…そんな己の叫びの中でも、ソレはまるで楽しむ様に此方を見る。


「君は〝魔術〟を行使出来る知恵が有る…そして、現に君は〝金級〟の魔術師と〝銀級〟を一人倒した…しかし、その〝肉体〟だけで彼等を倒したとはとても思えない…どうやったんだい?」

『〝ナァァァゴォォォ〟!!!』


男の言葉など知らない、今はただ逃げなければ…傷を癒やさねば成らない…彼奴を弱らせて仕留めるのはその後――。


「――成る程!…〝魔獣〟を襲わせて削ったのか…良いねやっぱり君は利口だね…確かに、魔術師は魔力が無ければ所詮ただの〝人間〟だものなぁ!」


その背後から響く〝声〟に思わず白猫はその目を向ける…己の方を見ながら、その男は笑い、四方八方から来る魔獣共の事など欠片も〝気にしていなかった〟…。


「だがね〝君〟…如何に魔獣と言えども、その存在は通常の〝動物〟から多少逸脱しただけだ…特別な能力は何も無い…となれば、その量での足止めが精々だ…しかし」


――ザッ――


「〝ソレ〟も…今この状況では〝無意味〟だよ」


男が一歩踏み出した…その一歩は呼び出した魔獣共との距離を狭める…しかし男は一切の危機感も無く、その歩を止めない…。


そして、その男へ魔獣が一匹飛び掛かろうと足を前に出した…その瞬間。


――ドォォンッ――


大地が〝弾けた〟…弾けた破片が周囲の魔獣達をも貫く、〝一度〟だけでは無い。


――ドドドドドッ――


二度三度、四度…男を囲んでいた至る所に〝破壊〟は起き…男はその中を悠々と歩いて来る。


「〝彼〟はこの術の真価を理解指定ない…否、世界に存在する魔術師達の多くは、〝魔術〟にのみ目が行き〝可能性〟を見誤っているのだ…ソレは〝勿体ない〟事この上ないと思うんだ♪」


――ザリッ――


白猫は見誤っていた…その存在を…〝鼠〟の延長だと、何時も通りの手で殺せる存在だと…。


「私は君に興味が尽きない…君は〝知恵〟を獲得し、剰え〝魔術〟と言う知恵の先を手にした…では、君は一体どれ程の〝魔術〟を行使出来るのか、どれだけの知恵を持っているのか、その肉体に眠るさらなる能力は、妖魔と言う存在の特性は?…是非識りたい♪」


その〝化鼠〟はそう言い…周囲の礫を一纏めにして空へ撒く…そしてそれは瞬間炸裂し、頭上の廃材を振り落とし背後の出口を完全に塞いでしまう。


「さぁ…恐らく〝邪魔〟が入るまで2分と有るまい…それまでに君はどうにか私を倒さねばならない訳だ…否が応にも実験には協力してもらうよ?」


そう言う男の顔は…まるで空に浮かぶ三日月の様に弧を描きその目を悪意の無い〝狂気〟で満たしていた。




●○●○●○



「……」

「あの…字波さん…何か有りましたか?」

「ッ…いや、何でもないわ…」


横並びに走る二人の影…その影の一人の言葉に、もう片方の影…〝字波美幸〟はハッと気付きその言葉を濁す。


「ッ…此処からでも〝瘴気〟が感じ取れますね…!」

「そうね…一体中で何が有ったのかしら…急ぎましょう、夜門が何か変化する可能性も有るわ」

「はい!」


二人はそう言い、その速度を増して本来ならばもう処理されている筈の〝夜門〟へ向かう…。


『〝無論止めたよ?〟』


字波美幸はその男の言葉を脳内で何度も反芻させ…思考を深める…。


(確かに…貴方は〝止めた〟でしょうね)


ソレは、字波美幸が〝不身孝宏〟と言う男の本質を誰よりも良く知っているからこその〝危惧〟…。


不身孝宏と言う存在は、所謂〝逸脱者〟だ…良くも悪くも〝普通の人間〟の枠組みには入らない。


常識を理解し、倫理人道を正しく認識しながら、彼はソレを躊躇無く〝無視〟出来る。


自らの生命を度外視し、自らが決めた何かのためならば例え自身が死のうと彼は気にしないだろう…そして。


〝自身に関わりのない他人の命〟ならば…より一層彼は気にも留めないだろう…ソレは以前の〝彼〟と何一つ変わらない…だが。


『〝止めた上で強行されちゃどうにも出来ないだろう?〟』


それでも字波美幸は己の認識から違和感を感じずには居られなかった…。


その何処か〝愉悦〟を孕んだ声…ソレは普段の孝宏とは逸脱した…〝邪気〟が籠もっていた様に字波美幸は感じた。


「字波さん、見えてきました!」

「ッ…入りましょうか」


そうして二人は、〝侵食を停止した夜門〟へ直行し…その扉へ入っていった…。



○●○●○●


「ハハッ、ハハハッ!…アッハハハッ!」

『グゥッ…コイツ――!?』


己へ迫る何十の〝魔弾〟をその速度で以て躱しながら…白猫はその出鱈目な魔術とソレを成す化物へその目を向ける。


「流石だねぇ!…ソレに持久力も半端じゃない!…もう少し肉体面を突き詰めるだけでも、君は人類にとって〝災害〟に等しい脅威と成っただろうな」

『――フシャァァッ!』


そう呑気に言葉を紡ぐ男へ、白猫はその爪を振るう…しかし。


――カッ――


『ッ…邪魔な…!』

「良いねぇ、学習能力も上等か…益々結構!」


その男の身体に刻まれた魔術がその爪を阻む…。


「君が私を殺すのに必要な物は何か?…答えはシンプルだ、放出系統の魔術…ソレだけで私の反爆魔術リアクティブ・アーマーは効果を成さない…君にとってはかなり苦しいだろうね…魔術師の統計では〝肉体面〟に作用する魔術を行使する魔術師は〝放出〟系統の魔術を行使するのに不向きだ…コレはその個人に刻まれた〝魔術回路〟の問題だが…それでも不向きなだけで〝使えない〟訳じゃない」


――だからほら、見せてみろ――


言外にそう言いながら、その化物はまた魔弾を放とうとした…しかし。


「ッ…あらら…コレは残念だ」


その声は突如、その狂気的な高揚を沈め…残念そうな様子で肩を竦める…その瞬間。


――ゾワッ――


凄まじい〝威圧感〟がこの世界全域を包み…思わず膝を折る。


『何…だ……コレは…!?』

「〝字波美幸〟…日本最強の魔術師、そして…500年を生きる〝吸血鬼〟だよ…しかし…ふむ、成る程…」


そんな威圧感を感じさせる中で、ふとその男はそう言い…何かを考えると――。


『ッ!?…』


――グニャリ――


と、顔を歪める……そして。


――ズオォォォォッ――


この一室に…膨大な〝瘴気(魔力)〟が密集する。


「おぉ…良いね、読み通りだ…やっぱりこの〝瘴気〟…〝妖魔の混ざり者〟でも扱えるらしい…コレなら、もしかしなくても〝アレ〟を試せるね…!」


そう言いながら、その男は嬉々としてその〝手〟を動かし〝言葉〟を綴る。


「〝人代の理術〟、〝解き明かす者達の暦〟、〝想起と破壊〟〝その答え(証明)〟…〝其は神を殺すモノ〟」


その言葉は〝祝詞〟と成り、その男は祝詞を紡ぎ上げながら、〝術〟を繋ぐ……その、膨大が過ぎる〝魔力〟の大瀑布がその世界に満ちた重圧を辛うじて軽減する…しかし、逃げるにはもう〝遅かった〟…。


「〝始まりの熱〟、〝天使の炎〟、〝焔賜の英雄〟…〝その尽くの訣別の時〟…〝神よ、我等が業を刮目せよ〟」


――ジュオォォォッ――


〝燃える〟〝炎える〟、〝焔える〟…尽くに燃える、その熱は凄まじく…瞬く間も無く残骸を溶かしてゆく。


〝乾く〟、〝渇く〟、〝干く〟…大気の水が、大地の水が、生命の水が、世界の水が刹那に蒸発する。


ただ〝顕現〟するだけでソレは乾き果て、周囲の全てを〝溶かし〟て行く。


逃げられよう筈がない…逃げた所で、その余波を躱しきれる訳がない…。


「〝科学理論式(人史魔術)〟…『〝今此処に、炎司の神は死せり〟』――ッ♪」


そして、〝太陽〟はそのまま己を押し潰し…凄まじい焔がこの〝異界〟に満ち溢れた―。


『化…物…め…』


最後の最後…己が〝消える〟その刹那…〝我〟はそう言い…そして意識を喪っ――。


――ガシッ――


――う事は無かった。


『ハッハッハッ!…流石に同感だね、自分でやっていてドン引きだよ♪』


己を掴む〝ソレ〟に我は目を見開き思わず叫ぶ。


『ッ!?…貴様、何を…』


其処にはあの化物が、己の〝魂〟を掴み…そして苦笑しながら引っ張っていた。


『いやね君、字波君の邪魔が入ったとはいえ君にはまだまだ伸び代が有るだろう?…だからこのまま消すのは勿体ないじゃないか!…だからほら、私の〝使い魔〟にしようかと!』


その言葉に、一瞬…心臓が高く跳ねる……〝冗談じゃない〟…誰がこんな化物の使い魔に等なるか。


『ッほざけ、誰が貴様なんぞ『残念、もう縛ったから拒否権は無いよ!』――ッ!?貴様ァ――』


そう否定するよりも早く、その化物が我の〝魂〟に細工し、否定の余地無く〝使い魔〟にされてしまう…ソレへ憤りをぶつけようと男を見たその瞬間。


『…と言う訳で、今日から君は私の〝飼い猫〟だよ!…君が死ぬ迄精々面倒見てあげようじゃないか!』


その男の〝言葉〟に…憤りが一瞬で萎えてしまう…それが益々〝不愉快〟で。


『ッ…貴様、何時か殺す!』


〝我〟はそう言うしか無かった…。

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