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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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血肉の世界に撃鉄は唸る

――ゴゴゴゴゴゴゴッ――


『……』

「……」


5人と一匹が相対し、その魔力が衝突し、吹き荒れる…互いに沈黙し、相手の動きを一瞬たりとも見逃さないと瞬きを極限にまで抑えながら。


異形の四肢が伸びるが速いか、若き魔術師の術が速いか…緊迫した空気が極限まで高まり…問答から一分と経たずに闘争の火蓋が切って落とされ――。


――ピクッ――


「……厶?」


ようとした……途端、異形の怪物が構えを解き、周囲を見渡す様にキョロキョロと首を揺らす…その動作に全員が当惑を抱いた…その瞬間。


――ドクンッ!――


血肉の異界が急激に脈動し、空間を異常な振動が揺らす。


「今度は何!?」

「――ッ膨大な数の〝瘴気反応〟…十、二十ッ――いや、それ以上ッ!」

「敵の領域だ、増援はそりゃ有るだろうが――」


その異常が止んだ、それから僅か数秒と経たずして、先程とは異なる〝振動〟と共に、大量の〝瘴気〟がこの場所目掛けて迫ってくる……そして直ぐに、その反応は、彼等の前で…その未知のヴェールを剥ぎ取った。


『※※※※※※※!!!』


ソレは…肉々しい〝獣達〟、四肢を地に着け、駆けずり回り飢えた獣の視線を5人の少年達へ向ける…見紛う事無き〝敵〟……しかし、その姿は。


「ッ――酷い」


見るも悍ましい物だった。


大地を駆ける四肢は人間の手足、蹄、或いは爪は人間の爪と骨、姿形は〝動物〟を模している…〝人間の身体〟を、歪に変形させて。


「――〝肉獣〟…此処ノ造成主ガ生ミ出シタ憎悪ノ欠片…〝人ガ人デ在ル事〟ヲ憎厶存在、ソノ支配下二アル獣モマタ、同ジ二」


そんな異形の群襲を眺めながら、異形の怪物は言い、その魔力を滾らせる……その矛先は――。


「――実二、〝不快極マル〟」


目の前の〝異界の異物(5人の人間)〟では無く…〝異界の同胞(肉の獣達)〟へと向けられた。


「――〝オ前達ハ〟…〝邪魔ダ〟」


瞬間、その異形はその場から姿を消し…刹那。


――スパァァァンッ――


小気味良い空の音を響かせながら…己等へ牙を剥く、その全ての〝肉の獣〟達の首が跳んだ。


「――〝ツマラナイ〟…〝知恵〟モ無ク、肉体機能モ〝基準以下〟…タダノ〝醜悪〟、〝非効率ナ機能ノ混在〟シタ〝欠陥品〟」


――シュウゥゥゥッ――


そして再び、怪物の声が響き渡ると…彼等はその怪物の興味が、有象無象の塵芥から、〝己等〟へと向いた事を理解し…増していく熱意の猛る視線に、武器を構える。


「――実二〝無価値〟ナエネルギーノ消費ダッタ…ダガ、シカシ…〝損失〟ヨリハマシダロウ」


ソレは次第に理性に熱狂の狂気を含ませ、塗り潰し…狂気と好奇心に満ちたその魂を震わせながら己へ刃を向ける5人の〝可能性〟を目にし…悦に歪ませる。


「――オ前達ハ〝未知〟ダ、〝未知二満チテイル〟…ソノ一点デ私ヲ惹キツケ、私ノ憎悪ノ鎖ヲ解イタ…サテ、長話ハ無用ダ――サァ、是非、是非……」


そしてまた…その場から姿を消した……その恐るべき俊敏を、彼等5人は遂に〝捉え〟――。


「〝心満チルマデ〟……〝探シ求メヨウ〟♪」

「「――ハァァッ!!!」」


刃と穂先が化物の〝手〟へと振るわれる…先程よりも明確に〝余裕〟を持って。


(良しッ、今度は〝抑えた〟!)

(相手の動きを捉えた――)

((〝戦い〟は、〝成立〟する!))


二人の顔が微かに〝緩む〟…ソレは一方的な〝蹂躙〟から〝対等な闘争〟へと転換した状況への安堵からか……兎も角、彼等は警戒こそすれど、過剰な危機感を薄れさせる…。


――ギリィィンッ――


強い衝撃と、奔る火花…甲高い金属の唸り声は、その衝突が生き物の肉と鋼の刃である事を感じさせない…。


「――〝素晴ラシイ〟…良イ〝適応能力〟ダ…シカシ――」



その時、怪物の声が嫌な程耳に通り抜ける…その声は称賛と驚き、好奇と興味を多分に纏い……しかし、その声は…酷く冷たい嗜虐的な〝批評〟を込められていた。


「〝目二見エル武器〟ダケヲ、警戒スルノハ悪手ダ――〝恐ロシイ敵〟トハ――」


その時、偶然か…或いは彼女の中にまだ大きな警戒心が残っていたのか…春野椿は、背後から生じた〝聞き逃しそうな程小さな異音〟に気付き、視線をやる。


「〝目二見エナイ武器〟ヲ隠シ持ッテイルモノダ」


「――ッ!?」


ソレは正に、〝狡猾〟に毒を纏い静謐に迫る蟲の牙…ソレが地面の中から這い出し…眼前の〝大きな脅威〟に意識を奪われた彼等の首へと迫る。


同仕様もない〝詰み〟…と、思うだろう…事実、彼女には目前に迫った奇襲を防ぐ様な術は無い、植物の種子が成長するのに微かな時間が必要だ……しかし、その微かな時間が与えられることはない。


「――皆ッ…!」


最悪の結末を脳裏に、少女は叫ぶ……しかし、ソレが結末を揺るがすことはない、彼等彼女等では、この〝戦況〟を変える事は叶わない……。




そう………彼女達〝だけ〟、では…。



――『パァァァンッ』――


「ッ厶!?」

『ッ!?』


彼女達が振り向く…それは、少女の警告が届いたからでも、己等の首筋に毒牙が貫く痛みからでも無く……ただ〝一発〟の銃声によって。


――ボトッ――


「――今のは…」

「〝銃声〟!?」


――カチンッ――


「――いやぁ危ない危ない…化物共の進軍を追って来ていて良かった良かった♪」


薬莢を片手に遊びながら、声の主は姿を表す……その気品を帯びた熟練の仕え人の様な様相とは異なる、胡乱な砕けた口調で怪しく笑いながら…執事服の〝男〟は、5人の男女と、一匹の〝化物〟に目を向ける。


「――さて、遅くなったが無事かね〝少年(ボーイ)少女(ガール)〟達?…とまぁ、見れば分かる状況確認は置いておこう」

「テメェは――」

「〝ウップス(おっと)〟、〝一つ〟…事態は深刻な危機に陥っている、〝二つ〟…〝我々の目的は一致している〟、〝三つ〟…〝私達〟が君達を害するつもりは無い…此等を併せて問答は省こう…重要なのは最低限の損失で大惨事を〝防ぐ事〟だ…つまり、〝我々〟は互いに〝協力〟して目の前の〝彼〟を倒さなければならない…〝OK〟?」


そして、そう言い終わらぬ内に謎の男は再び引き金に指を掛け…一寸の躊躇も無く、片手の拳銃を異形へと発射した。

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