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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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無知なる獣の知恵喰らい

「恐れる…だと…?」


私の言葉に彼はそう言う…その目は微かに怒りを孕み、その真顔の裏で渦巻く〝憤怒〟ともう一つの〝感情〟を、私は読み取る。


「馬鹿を言うな、この程度の侵食等恐れる事など――」

「では何故、其処まで私の〝抵抗〟に執着する、答えなくても良い、状況を見れば一目瞭然だ…現段階に於ける〝侵食の影響〟を一番強く受けるのは〝君〟だからだ」


それは〝恐怖〟…悪意の化身が恐怖するとは、皮肉な物だが…相手の身からすれば分からなくもない事だ。


「私はこの通り、〝肉体と魂〟を分離され肉体の奥底に縛り付けられた…君と違い〝侵食元の瘴気〟と反発し合っている…だが、君はどうだろう、私の〝悪性〟たる君は、その侵食を反発するでは無くこれ幸いと〝同調〟した…後先考えてからその判断を下し給えよ…相手が〝主導権〟を握っているんだ…飼い犬を殺すも売るも、飼い主次第…此方側の〝保険〟を用意しておかねばどうなるか……其処の所は〝悪性〟の君が一番良く知ってると思ったのだが……まさか目先の欲に駆られるとは、コレでは君も人間を嗤えないな♪」

「ッ――黙れッ!」


私の言葉に彼は取り繕う顔の皮も無く、焦りを滲ませた顔で私へ迫る。


「良いから〝手を貸せ〟ッ、このままではどの道貴様も死ぬのだろうが!?」

「〝NO(嫌だね)〟…生憎私はまだまだ余裕が有る、それに…多少力を削がれようが、〝悪性を消費〟出来るならそれはそれで〝好都合〟だ…だから私は〝手を貸さない〟」

「ッ〜〜〜貴様ぁッ…!」

「ほらほら、抵抗しなくて良いのかい?…君にそんな余裕が有るとは到底思えないがね?」


私の挑発に顔を赤くしていた〝私〟は、しかし…この空間に満ち始めた〝異物の侵略〟の気配に顔を青くさせる…正直に言えば、私と瓜二つの姿でみっともなく狼狽えるのは止めて欲しい…。


「さて、後は〝彼女達〟に任せるとしよう…フフッ♪」


何…可能性は〝3割〟…猿にタイプライターを叩かせて詩を作る様な〝綱渡り〟では無い…。



○●○●○●


――ズロロロロッ――


脈動する肉々しい世界で、5人の少年少女は剣を構え、杖を構え、魔術書を構えて相対する……眼の前で〝生まれ落ちた〟…その〝異形〟へ強烈な嫌悪感を抱きながら。


「……趣味悪いなぁオイ…」

「下劣ですね…」


ソレは、所謂〝複合獣〟の様な性質を帯びていた…単一の生物で完結しておらず、〝無数の生物の特徴〟を有する歪な〝獣〟…その性質を帯びてはいた……だが、その姿は現代において流通している〝複合獣〟のイメージとは大きくかけ離れた、〝異常〟とさえ言える程に〝特異的な化物〟の様相をしていた……彼等が〝悪趣味〟だと感じる事も、無理は無いだろう。


――カサカサカサカサッ――


長い尾は百足の様に伸び、その〝脚〟を構成するのは〝人間の手〟…。


大地を踏み締める脚は、屈強な鷲の様に筋肉質で鋭く硬い爪を備え。


胴部はまるで〝大蛇を束にした〟かの様に捻じれ、隙間からは人間の血走った目と口が覗き…宛もなく視線を彷徨わせ。


その顔は、暗い〝闇〟の仮面に覆われ、赤々と輝く目と、天へ反り上がる巨大な双角が、その異形の化物の威圧感を更に増していた。



「『………』」


その化物は、その身体から噴き出す瘴気を収めると…沈黙し、自身の身体を確かめる様に動かし始める…やがて、その行動に一定の満足を覚えると…その瞬間。


――ジィッ――


その赤い双眸を、5人の少年少女達へと向けた――。


「「ッ――!?」」


●○●○●○


――タンッ――


軽く、地面を跳ぶ音が聞こえた…ほんの一瞬、私は…〝春野椿〟は瞬きをした…油断は無かった…筈だった。


――ジィィッ――


次の瞬間…眼の前には〝ソレ〟が居た…恐ろしい姿の、怖い〝化物〟が…その両手を氷太郎君と結美ちゃんへ伸ばしながら…私の目と鼻の先に顔を突き出して、私をジッと…不気味に見詰めていた。


――ゾワッ――


「ッ〜〜〜!?」


恐怖に声が出なかった、恐ろしくて身体が言う事を聞か無かった…私を含めて、誰一人と反応出来ずに、眼の前の化物へ呆然と視線を向けていた。


「『s#ㇵ◆※∇』」

「ッ――〝フレア〟!」


九音ちゃんがそう言い眼の前の化物を振り払う刹那…ボソリと、その化物が〝言う〟…その言語は何処の言語でも無く…ただの〝雑音〟の様に響き…私の脳に直接刻み込まれる。


――「『〝ソレは、嫌いだ〟』」――


と…そしてその化物は、不死鳥(フレア)の炎から逃れる様に距離を取り…緊迫した空気が私達を包む。


『………』

「『―――』」


全員、その視線を〝化物〟へ向ける…先程以上に〝全霊〟で…そして、私含め全員が静かに察する……〝目の前の化物〟は…〝私達では勝てない〟と。


――ドクンッ…ドクンッ…――

――ゴポッ、ゴポゴポッ――


だからこそ、今…眼の前でその身体を蠢動させる〝異形〟を見て…私達は脚を踏み出す事は出来なかった。


「『※◆#∇§……〝§#×¢¶〟…Aa…〝アァ〟――〝面白イ〟…〝音ノ震エデ意思ヲ表現スルノカ〟……〝非効率ダガ、面白イ生態ダ〟』」


すると、突如…私達を前に沈黙し、佇んでいた〝化物〟は、その身体全体から〝言葉〟を放ち、私達へとそう問い掛ける。


「彼奴…〝言葉〟を…!」

「〝高度な学習能力〟が有るのか…」

「『――コトバ…ソウカ、コレガ〝言語〟カ…成ル程、覚エタ…ソシテ』――〝言語〟ヲ用イルノハ頭部部位ノ捕食機構デ、ナノカ」


そんな化物への私達の反応に、ソレはまたもそう言い、今度はより明瞭に私達へそう紡ぐ。


「サテ……次ハ何ヲ試ソウカ?」


そして、その無機質で不安定な声色に無邪気な好奇心を滲ませて…ソレは私達へと赤い知性を帯びた瞳を向けてそう言った。

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