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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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造花の少女は哭き叫ぶ

――ビキビキビキッ――


「――うわぁお…コレちょ〜っと不味い流れ?」

「見て分かるでしょッ!」


眼の前で膨れ上がる…〝人型の瘴気〟の塊に、如月秋久と字波美幸は冷や汗を流す…肉と血の異界で空間を脈動する心音と、永遠に取り憑いて離れない視線が二人を囲い…まるで見世物を楽しむ様な〝悦楽〟を滲ませた不快な子供の笑い声が彼等の耳を擽る。


「『――〝何故〟?』」


眼の前の〝瘴気〟は問う…その声は、あどけない少女の様に、その声音は放心と疑問を滲ませる様に…その空間に居る知性体全てへ問い掛けるように響く。


「『何故、何故…〝何故〟…〝私を見捨てたの?〟』」


その声には、酷く静かで深い〝悲哀〟を込められていた。


「『何で、私は〝報われない〟、何故…私だけが〝報われない〟?…望まれて、望まれたように在ったのに、貴方の為に、貴方達の為に尽力したのにッ、〝何故〟、〝何故何故何故!〟――〝私を認めてくれなかったの〟!?』」


そして、その言葉が嘆く独り言は次第に熱が籠もり、憎悪に満ち…憤怒を発露して、狂気的に轟く…その感情の増大に比例して、脈動する〝瘴気〟もその胎動を強くする。


「……何を言ってるの…?」

「あ〜……僕等に言ってるんじゃ無いでアレ…多分〝幻覚〟か、〝昔の思い出〟でも掘り起こされてるんやない?」

「『――望んだくせに、〝華の様で在れ〟、〝可憐な童〟で在れと望んで私を〝こうした〟癖にッ…こんな身体にしたのは貴方達でしょうッ!?…私が望んだ〝姿〟じゃない!』」


苦痛に嗚咽が混じり、人型の顔からは赤い血の涙が頬を伝い流れ落ちる…既にその人型…白河来美の眼には、如月秋久も、字波美幸も映らずに居るのだろう…その身体を暴れさせて彼女は叫ぶ。


「『――そう…〝私は何処までも認められない〟のね…〝ただの玩具〟だった…そう、そう…なら―――』」


――モウ、〝全部ドウデモイイ〟ワ――


その最後の言葉は明確に、確実に〝此方〟へ向けて言われた言葉だと…二人は理解する、そしてその瞬間に起きたその〝白河来美だったモノ〟の変化…否、〝変態〟に瞠目する。



――クスクスクスクスッ――


その姿は…人間的だが、〝人間〟では無かった…小さな少女の様な〝人形〟が其処に有った…その姿はまるで、白河来美の様な肉体的特徴を有していたが、その顔に取り付けられたパーツは、人間特有の〝感情の起伏〟を一切宿していかった…それはそうだろう。


――ギィッ、ギィッ、ギィッ…――


「「……」」


その〝少女の人形〟は、所詮〝操り人形〟であり、その本体は少女の人形の遥か上に浮かんでいたのだから。


「『アハッ、アハハッ!――ドウ、ドウカシラッ、ワタシノ踊リハ、イッパイ、イッパイ練習シタノ』」


その少女の頭上に浮かぶのは…二つの顔が混ざりあった、〝化物の上半身〟だった。


「『フフッ、ウフフフフッ――滑稽、無様?…哀レヨネ、ドレダケ優レタ踊リデモ、ドレダケ綺麗ナ歌声デモ…ワタシハ父ニモ母ニモ飽キテ捨テラレタノ』」


その化物は、その顔を笑みを浮かべてそう言ったかと思うと、嘲る様にそう言い少女の人形の首を捩じる。


「『アラアラッ、見テ見テ〝ワタシ〟!…彼処ニ〝オ客様〟ガイラッシャルワ!』」

「『――ソウネ、素敵ナ〝オ客様〟…馬鹿ナ〝ワタシ〟ヲ殺シニ来タノネ』」


二つの声はそう言い、眼の前の〝二人〟を二つの眼で見詰めると、その目を〝狂気〟と〝殺意〟に満たして言う。


「『遊ビマショ、遊ビマショ!―踊ッテ、歌ッテ、オ話シテ、オ茶会!――素敵ダワ、素敵デショウ?』」

「『殺シマショウ、殺サレマショウ、醜ク、惨ク、悍マシク、悪意ヲ込メテ…〝裏切リ者〟ト、〝化物(ヒトデナシ)〟ヲバラバラ二引キ裂キマショウ」


――ギィッ、カンッ――


「「『『〝叫ビナサイ(歌イマショウ)〟!』』」」


そして、その言葉の後に〝人形〟の口が開き……〝次の瞬間〟…。


「『※※※※※※!!!!!』」


空気を切り裂く金属を引っ掻くような音が響き渡り、少女を中心に瘴気の雪崩が二人へと差し迫って行った…。




●○●○●○



――ゾッゾッゾッゾッ――


「――おやまぁ…コレはコレは予想外…〝肉体〟が変質し始めている様だ」


私は身動きも取れないこの狭苦しい〝暗闇〟に満ちる…昏く薄汚れた瘴気に触れ、そう言葉を紡ぐ。


――ザッ――


「――何故恐れない?…このままでは死ぬぞ?」

「死ぬねぇ…確かに」

「――何を考えている?…貴様が助かる道は〝一つだけ〟だ……〝私を使え〟、そうすれば〝助けてやる〟」


そんな私に対して〝悪性〟が私へそう唆す…確かに、この状態の私には打つ手は無い…それは事実だ。


「――私の力で助かる方法は確かに、〝一つ〟だ…〝悪性〟…つまりは〝善性()〟が制御している〝悪性()の性質〟を解放すれば良い…そうすればいままで抑制に使っていた魔力リソースも〝自身の為〟に回せる……そうなれば、この〝侵食〟を止められるだろう」


だが…その欠点は明白この上ない。


「しかし、そうすれば〝私が〝悪性〟に偏ってしまう…その際の〝影響規模〟がどうなるか…予想が着かない程馬鹿ではない」


先ず間違い無く〝人類の敵〟に成る……そうなれば〝字波君〟は私を殺さねばならないだろう……それは不味い。


「彼女にそんな真似をさせる訳には行かないからね…その案は絶対に無しだ」

「――何時までそう言っていられる……選択の時間は後数分も無い…完全に〝変質〟させられてしまえば貴様は〝終わり〟だろう」


私の拒絶に、尚もしつこく〝悪性〟は言うと…私へ手を伸ばす。


「――私を〝使え〟…貴様に選択の余地は無い」


その手が私の胸の〝心臓〟に伸びる…次の瞬間。


――バチィンッ――


「――そんなに怖がるなよ〝悪性〟…君は何時までも学習しない男だねぇ」


私の言葉と共に、凄まじい拒絶の音を立てて〝悪性〟の手が弾き飛ばされた。

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