終幕は目前に
――ギリィィンッ――
「――チッ!」
「硬ッ!?」
正気の沙汰では無い、こんな地獄に数人の…まだ成人すらしていない者達を放り込む等。
朽ち果てた〝泥の残骸〟へ…そう吐き捨てる、しかしその言葉とは裏腹に、己の理性は眼の前の〝小娘達〟に警鐘を鳴らす。
――〝彼等は危険だ〟――
……と、…こんな子供達が、〝己と同等〟だったあの〝泥の男〟よりも危険だと…何よりも〝己の脳〟がそう告げる。
そして、その巫山戯た警鐘は次の瞬間――。
「〝破術の弾頭〟」
――パァンッ――
己の展開した障壁が、たった一人の青年ガ放った〝弾丸〟に破壊された事で、確信に変わる。
「〝魔術の破壊〟に特化した術式…」
「「――ッ!」」
――バチィンッ――
障壁の破壊が起きると同時に背後から〝二つの刃〟が迫る…連携の精度も〝子供以上〟…。
「――〝厄介〟で…〝面白い〟」
同時に振るわれたその武器を〝受け止め〟…剣の少女と槍の青年に目を遣る。
「類稀な氷結の使い手、天井知らずの努力の剣…魔術師との戦い方を心得ている」
その直後、私の頭上で強烈な熱波が押し寄せ…二人の奇襲者は刹那、飛び退く。
――ゴオォォッ!――
「〝死祓いの生炎〟!」
そして、私の視界を炎で満たす…それも、ただの炎じゃない…〝生命の力を多く含んだ炎〟が。
「『…〝土御門九音〟…土御門家長女にして優秀な魔術の素養に満ちた少女…従える使い魔は幻獣〝不死鳥〟…成る程、肩書だけで大層な実力を伺い知れる…だが、実際は〝ソレ以上〟か』」
余程優れた〝師〟だったらしい…だが。
「『〝残念極まる〟…君も、君達も…今この場で殺さなければならないとは』」
「ッ!――〝九音〟ちゃん!」
少女の声が警鐘を鳴らす……しかし、もう〝遅い〟…。
――グバァッ――
既に天の少女目掛けて、〝死霊の蛇〟は飛び掛かっているのだから…。
「――クフッ、クフッフフフッ!…敵が一人とお思いとは…お、お目出度いですね…!」
「――油断しない方が良いぞ〝死霊者〟…彼等はあの歳で〝金級〟は優に超える手練れだ」
「も、勿論ですとも〝研究者〟殿…ッ!?」
私の隣でそうニタリと笑っていた黒羽朔郎は、ふと…その死霊の蛇に起きた異常に目を見開き…その視線を空に向ける…。
「――〝枯吸の根〟」
その瞬間、死霊の蛇がブルリと震えると…その身体は突如、痩せ細り、渇いたかの様に小さく脆くなり…蛇だったソレは、己の自重に耐えきれなくなったのかその身体を砕き落とす…。
「わ、私の〝強化屍兵〟を一瞬で…!」
「…素晴らしい」
その破片を踏み締めて、私達と彼等は…真正面に相対し…その魔力が唸りを上げ、火花を散らしていた…。
○●○●○●
「――〝人質〟を解放しましょう♪」
白河来美はそう良い、薄っぺらい笑みと細めた目で私を見詰める…その胡散臭さは、彼女の隣りに居る男と良い勝負だ。
「……要求は?」
「――♪…フフッ、要求は〝コレ〟よ♪」
私の言葉に彼女はその懐から一つの〝黒い玉石〟を取り出す…。
「……〝汚い〟わね」
ひと目見て分かる、その玉石は〝穢れた力の塊〟で有ると…〝魔に堕ちた者〟は…そう直感で理解する。
「フフフッ……でも、拒否権は無いわ…貴女が〝コレ〟を飲めば、人質の〝支配〟を解いて上げましょう」
「――まぁ〝飲まん〟でもえぇんやない?…その場合は〝此処の子等〟全員死ぬやろけど」
二人の言葉が私の神経を逆撫でする…分かっている…コレは〝罠〟だと、コレを〝飲めば不味い事になる〟と…だが。
『大を捨て、小を救うか』
『小を捨て大を救うか』
『何方を選んでも人は死ぬ』
〝彼等を見捨てろ〟と言うのか…それだけは〝有り得ない〟…。
私は葛藤し、そして結論する…。
「――〝良いわ〟」
私は〝今眼の前の生命〟を救う事を選んだ。
「へぇ…♪」
「…フフッ♪……それじゃあ、コレを」
私の言葉に二人はその笑みを深くし、私へ黒い玉石を渡す…そのおどろおどろしい、〝悪意の種〟は、私の手を転がり、鈍く輝いていた…。
「さぁ――〝取り込め〟…字波美幸…彼等を解放したいでしょう?」
「………」
「さぁ!――やりなさい!」
私はその言葉のままに、その玉石を傾ける……その玉石は重量に従い、私の舌へと躍り出る…。
……筈だった。
『〝らしくないな〟…〝字波君〟』
「ッ――!?」
『〝全員救う〟…ソレが君の答えだろう?』
私の耳元で……〝声が言う〟…その声はそう優しく囁くと…風に消える……それに瞠目した、その刹那。
――キィィンッ!――
「「ッ!?」」
私を囲んでいた彼等の〝胸元〟で…〝首飾り〟が淡い蒼の光を放っていた…。
「何が……!?」
「起こって……」
白河来美は、その突然の出来事に驚き一歩後退る…私と彼女がその突然の出来事に困惑していた…その時。
――トスッ――
「えい♪」
「「……は?」」
白河来美と私は…そんな素っ頓狂な、〝呆然〟を口から漏らす…何故ならば。
「――何を…やって…」
「如月…貴方…」
その瞬間、何の不自然も無い様な自然な動きで、何の邪気も持たないと言う風なごく当然の様な仕草で…〝如月秋久〟が、仲間で有るはずの〝白河来美〟の胸に鈍色の刃を突き立てて居たのだから。
「あら?……どういう事やろか?…なぁんで〝来美ちゃんの支配〟が、〝無効化〟されてんやろか?」
「ッ――まさか…〝如月〟…!」
「いやぁ、可笑しな事も有るもんやわぁ…まさか、〝偶然〟、〝偶々〟…〝来美ちゃんの支配〟が〝無力化〟されて、〝偶然〟、〝偶々〟…僕の〝剣〟が突き刺さるなんてなぁ♪」
そう態とらしく言う如月とは対照に、何かに気付いたのだろう、白河来美はその口端に赤い涎を垂らし…その顔を不釣り合いな憤怒に染めて、私の隣に歩いて来る〝如月秋久〟を睨み――。
「〝如月ィィィイイイッ!!!〟」
そう…怒り叫んだ…それに対して、如月秋久は何処までも薄く怪しい、胡散臭い笑みを浮かべて鬼の形相で睨む白河来美へ――。
「そんなに叫んで元気やなぁ?――何か良い事でも有ったんか?」
そう、嘲りを〝口にした〟…。




