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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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終幕は目前に

――ギリィィンッ――


「――チッ!」

「硬ッ!?」


正気の沙汰では無い、こんな地獄に数人の…まだ成人すらしていない者達を放り込む等。


朽ち果てた〝泥の残骸〟へ…そう吐き捨てる、しかしその言葉とは裏腹に、己の理性は眼の前の〝小娘達〟に警鐘を鳴らす。


――〝彼等は危険だ〟――


……と、…こんな子供達が、〝己と同等〟だったあの〝泥の男〟よりも危険だと…何よりも〝己の脳〟がそう告げる。


そして、その巫山戯た警鐘は次の瞬間――。


「〝破術の弾頭アンチマジック・バレッド〟」


――パァンッ――


己の展開した障壁が、たった一人の青年ガ放った〝弾丸〟に破壊された事で、確信に変わる。


「〝魔術の破壊〟に特化した術式…」

「「――ッ!」」


――バチィンッ――


障壁の破壊が起きると同時に背後から〝二つの刃〟が迫る…連携の精度も〝子供以上〟…。


「――〝厄介〟で…〝面白い〟」


同時に振るわれたその武器を〝受け止め〟…剣の少女と槍の青年に目を遣る。


「類稀な氷結の使い手、天井知らずの努力の剣…魔術師との戦い方を心得ている」


その直後、私の頭上で強烈な熱波が押し寄せ…二人の奇襲者は刹那、飛び退く。


――ゴオォォッ!――


「〝死祓いの生炎〟!」


そして、私の視界を炎で満たす…それも、ただの炎じゃない…〝生命の力を多く含んだ炎〟が。


「『…〝土御門九音〟…土御門家長女にして優秀な魔術の素養に満ちた少女…従える使い魔は幻獣〝不死鳥〟…成る程、肩書だけで大層な実力を伺い知れる…だが、実際は〝ソレ以上〟か』」


余程優れた〝師〟だったらしい…だが。


「『〝残念極まる〟…君も、君達も…今この場で殺さなければならないとは』」

「ッ!――〝九音〟ちゃん!」


少女の声が警鐘を鳴らす……しかし、もう〝遅い〟…。


――グバァッ――


既に天の少女目掛けて、〝死霊の蛇〟は飛び掛かっているのだから…。


「――クフッ、クフッフフフッ!…敵が一人とお思いとは…お、お目出度いですね…!」

「――油断しない方が良いぞ〝死霊者〟…彼等はあの歳で〝金級〟は優に超える手練れだ」

「も、勿論ですとも〝研究者〟殿…ッ!?」


私の隣でそうニタリと笑っていた黒羽朔郎は、ふと…その死霊の蛇に起きた異常に目を見開き…その視線を空に向ける…。


「――〝枯吸の根〟」


その瞬間、死霊の蛇がブルリと震えると…その身体は突如、痩せ細り、渇いたかの様に小さく脆くなり…蛇だったソレは、己の自重に耐えきれなくなったのかその身体を砕き落とす…。


「わ、私の〝強化屍兵〟を一瞬で…!」

「…素晴らしい」


その破片を踏み締めて、私達と彼等は…真正面に相対し…その魔力が唸りを上げ、火花を散らしていた…。



○●○●○●


「――〝人質〟を解放しましょう♪」


白河来美はそう良い、薄っぺらい笑みと細めた目で私を見詰める…その胡散臭さは、彼女の隣りに居る男と良い勝負だ。


「……要求は?」

「――♪…フフッ、要求は〝コレ〟よ♪」


私の言葉に彼女はその懐から一つの〝黒い玉石〟を取り出す…。


「……〝汚い〟わね」


ひと目見て分かる、その玉石は〝穢れた力の塊〟で有ると…〝魔に堕ちた者()〟は…そう直感で理解する。


「フフフッ……でも、拒否権は無いわ…貴女が〝コレ〟を飲めば、人質の〝支配〟を解いて上げましょう」

「――まぁ〝飲まん〟でもえぇんやない?…その場合は〝此処の子等〟全員死ぬやろけど」



二人の言葉が私の神経を逆撫でする…分かっている…コレは〝罠〟だと、コレを〝飲めば不味い事になる〟と…だが。


『大を捨て、小を救うか』

『小を捨て大を救うか』

『何方を選んでも人は死ぬ』


〝彼等を見捨てろ〟と言うのか…それだけは〝有り得ない〟…。


私は葛藤し、そして結論する…。


「――〝良いわ〟」


私は〝今眼の前の生命〟を救う事を選んだ。


「へぇ…♪」

「…フフッ♪……それじゃあ、コレを」


私の言葉に二人はその笑みを深くし、私へ黒い玉石を渡す…そのおどろおどろしい、〝悪意の種〟は、私の手を転がり、鈍く輝いていた…。


「さぁ――〝取り込め〟…字波美幸…彼等を解放したいでしょう?」

「………」

「さぁ!――やりなさい!」


私はその言葉のままに、その玉石を傾ける……その玉石は重量に従い、私の舌へと躍り出る…。



……筈だった。



『〝らしくないな〟…〝字波君〟』

「ッ――!?」

『〝全員救う〟…ソレが君の答えだろう?』


私の耳元で……〝声が言う〟…その声はそう優しく囁くと…風に消える……それに瞠目した、その刹那。


――キィィンッ!――


「「ッ!?」」


私を囲んでいた彼等の〝胸元〟で…〝首飾り〟が淡い蒼の光を放っていた…。


「何が……!?」

「起こって……」


白河来美は、その突然の出来事に驚き一歩後退る…私と彼女がその突然の出来事に困惑していた…その時。


――トスッ――


「えい♪」

「「……は?」」


白河来美と私は…そんな素っ頓狂な、〝呆然〟を口から漏らす…何故ならば。


「――何を…やって…」

「如月…貴方…」


その瞬間、何の不自然も無い様な自然な動きで、何の邪気も持たないと言う風なごく当然の様な仕草で…〝如月秋久〟が、仲間で有るはずの〝白河来美〟の胸に鈍色の刃を突き立てて居たのだから。


「あら?……どういう事やろか?…なぁんで〝来美ちゃんの支配〟が、〝無効化〟されてんやろか?」

「ッ――まさか…〝如月〟…!」

「いやぁ、可笑しな事も有るもんやわぁ…まさか、〝偶然〟、〝偶々〟…〝来美ちゃんの支配〟が〝無力化〟されて、〝偶然〟、〝偶々〟…僕の〝剣〟が突き刺さるなんてなぁ♪」


そう態とらしく言う如月とは対照に、何かに気付いたのだろう、白河来美はその口端に赤い涎を垂らし…その顔を不釣り合いな憤怒に染めて、私の隣に歩いて来る〝如月秋久〟を睨み――。


「〝如月ィィィイイイッ!!!〟」


そう…怒り叫んだ…それに対して、如月秋久は何処までも薄く怪しい、胡散臭い笑みを浮かべて鬼の形相で睨む白河来美へ――。


「そんなに叫んで元気やなぁ?――何か良い事でも有ったんか?」


そう、嘲りを〝口にした〟…。

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