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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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裏切りと謀略

――ゾロ…ゾロ…――


ゆっくりと進軍する、少年少女達…その光景の要素だけを抜き取れば、それは〝通学〟と言っても良いかも知れない…尤も、〝深夜〟にこれだけの数が、しかも〝紛争中〟の戦場で現れたとあってはその和やかな要素も陰ると言うもの…。


「『……』」


何よりも彼等の顔は暗く、澱み…幽鬼の様に虚ろな表情からは、彼等が〝正気〟を失っている事を十二分に指し示している事だろう。


「一体、コレは……!?」


そんな生徒達の行進を見ながら、そう呆然と混乱を呟いた日鶴江理佳はその時、何かに気付いたかの様に周囲へ目を遣る…其処には――。


――………――


たった数秒前までは、己の隣に居た筈の〝人物〟が影も形も無く、霞の様にその場から消えていた…。


「クッ…しまった…!」


その事に気付き、そう呟いたその瞬間…日鶴江理佳が動き出すよりも早く、空気が〝揺れる〟…。


――ビキビキビキッ――


そして周囲に満ち溢れた〝暴力的な魔力〟と〝圧迫感〟がその影響下に居た全ての人間へと作用し、それに留まらず硝子をも罅割れさせる…その亀裂はまるで、〝凄まじい怒り〟を示すかの様に細かく長く刻まれ…江理佳はその窓の外の…〝学生の群れ〟の前に立ち塞がる〝紅の女帝〟を見ていたのだった。



○●○●○●


『そうそう、〝字波〟君』

『何かしら?』


今朝の、彼の言葉を思い出す…今となっては最早遅い言葉を。


『君等の所で起きると思うんだけどね、相手が〝生徒達〟を使ってくる可能性が有るから、その際は君は手出しせず京都の司令塔に徹して欲しい…うん、そうしてくれると助かる』


事も無げにそう言うと、彼は私を見た…その目に籠もった感情は、何処までも私を知り尽くした彼だけが持つ…一種の〝諦念〟だった…。


私が教え子を放置して置くこと等、出来ないと分かっているとでも言う様に……。


「――〝隠れても無駄よ〟」


私の言葉に、生徒達の行進がピタリと止まる……私はそんな彼等の上を睨みつけると次の瞬間、〝何も無い空間〟から、一人の男が現れて此方へ苦い笑い顔を向ける。


「――嘘やん…コレでも僕、隠蔽系は得意な方なんやけど…」

「残念ね、家にはそれ以上の〝使い手〟が居るのよ」


胡散臭いその口調で、胡散臭さを隠そうともしない、狐の様な男がその細い目から銀の瞳を覗かせる…誰あろうその男は、この七日間の〝交流会〟を主導した〝男〟…〝如月秋久〟その人だった…。


「あ〜…〝孝宏〟先生ね…あの人ホンマに人なん?…何であの魔力量であんな強化術使えんの?」


その男はまるで世間話でもするかの様にそう言い私の前に立つ…一見不用心に見えるその行動に私が眉を寄せると、彼はその顔を歪めて私へ告げる。


「いやぁ、流石五百年生きる〝吸血鬼〟…人情的やけど、不用意に手を出さへん思慮深さは尊敬モノやね…攻撃してたら死んでたで…〝君の生徒〟の誰かしら」

「ッ……そういう事」

「うん、そう言う事♪」


そう言うと如月秋久は私の前で嘲る様に、道化のような大袈裟な身振りで自身の〝手札〟を語る。


「〝共有(リンク)〟…条件を満たした物、モノ、者と同期する〝技術〟ね」

「そ♪…コレはそれよりも更に強力で、〝術者〟が〝隷属〟させた〝対象〟にマイナスを押し付ける事ができるんよ…いやぁエゲツナイ」


そう言うと如月秋久は懐からナイフを取り出し、その切っ先を己の指に押し当てる…すると。


――ポタッ…ポタッ…――


如月秋久の近くに居た子の指先から赤い雫が滴り落ちる。


「ッ……如月…!」

「おぉ怖ッ…そないに睨まれたら力加減間違えて〝押し込んでまう〟かもせぇへんよ?」


如月秋久の外道な行動を、私はただ黙って見る事しか出来なかった…そんな私を嘲る様に、如月秋久は冷たく私を見据えて言う。


「ホンマ…何百年生きたと思えへん位に〝甘い〟な字波理事長…折角君の大事な参謀さんが〝警告〟してくれたのに、〝此処〟に来たらアカンやろ」

「……どういう…」

「――アンタの所為で、〝犠牲が増える〟って言ってんねん…後ろ見てみ?」


彼の言葉に私は振り向く…その瞬間、私の心が強く、痛いほど強く鳴り…思わず声が出る。


「……え」


そんな私の目の先には…〝八葉上魔術師学園〟の〝玄関〟から此処まで、ゆっくりと進軍する…〝山狗の魔術師〟達と……。


「――没落した〝詐欺師〟も、今日という日にはちゃんと働く様ね…〝如月秋久〟」

「だから何べんも言うてるやろ、君等が落ちぶれたのは君等の落ち度やって…僕の家はただ〝交渉上手〟やっただけやろ、枯れ華の〝白河来美〟?」


その無垢な少女の様なあどけなさとは反対に、まるで支配者の様に高慢で自身に満ちた立ち居振る舞いをする…〝白河来美〟の姿が有った…。



○●○●○●


「――成る程、〝鼠〟は2匹居た訳だ」


私は上がる息を吐き出しながらそう言う…周囲の建物は凄まじい破壊と攻撃の痕跡を残し、至る所に切り裂くような斬撃の名残を残す中…私は眼の前の、この惨劇の〝創造者〟へと言葉を投げる。


「――降参しろ〝不身孝宏〟…貴様の魔力は其処等の〝魔術師モドキ〟共と同程度だが、その〝知恵〟は我等に並ぶに値する価値が有る」


その人物は私へそう言いながら、己の手と融合した〝触媒〟を私へ向ける。


「――我々の〝軍門に下れ〟…貴様ならば我等が宿願、その先の世を導く者に成れる」

「――要は私の〝知恵〟を利用する為に、人質を使って〝交渉の真似事〟をしている訳だ…」


事実として、今この現状…追い詰められた私と字波君には打つ手が無いのも事実なのだが……しかし。


「……フフフッ、参った、参ったねコレは…こんな身の毛のよだつ様な〝脅迫〟…善良で人道的な私は思わず苦渋の葛藤の後に受け入れてしまいそうだ」


私はそう言い彼と、彼の瞳の奥の〝黒幕〟を見て思わず頬が緩む…全く。


「チェスや将棋なら〝王手(チェックメイト)〟と言った盤面だが……しかし」


全く…心底〝面白い〟よ。


「〝コレ〟は〝盤戯〟じゃない…最後まで立っていた者が勝つ〝戦争(ゲーム)〟だ」


王手、チェックメイト?…ハッ、言ってろ馬鹿者共。


「〝人質〟如きで〝私の計画〟は崩れない…答えは〝NO〟だ三流悪役(ヴィラン)

「……そうか…では――」


私の返答に彼は駆け出す…その目に確固たる〝殺意〟を浮かべて。


「〝死ね〟」


その腕が…風の渦巻く鋭い長爪を備えた爪が私の眼の前にまで迫る……その瞬間。


――『ドオォォンッ』――


私の遥か背後から…一発の〝銃声〟が響き渡った…。

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