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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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殉ずる狂信

――バババッ――

――パリンパリンパリンッ――


弾丸が進む先、その全てを薙ぎ倒していく…人も障壁も、建物さえ削り取る様に。


「クッ……〝大地の欠片よ、我が力に呼応し、打ち払う礫の雨となれ〟…〝土塊の雨撃(ガイア・バレッド)〟」


科学の尖兵に、神秘の尖兵はお返しとばかりに魔術の弾幕を張る、それもまた進む先全てを破壊し尽くす…筈だった。


――パラパラパラッ――


土煙と瓦礫の微かな音が静寂に鳴る…その沈黙は神秘の尖兵たる彼等の勝利を匂わせ、彼等はそれを疑わなかった…だが。


――ザッ――


土煙から踏み出す様に現れた〝脚〟が、その予想を否定する…あの弾幕を真正面に受けて尚、生き残った〝ソレ〟に魔術師達は驚き緊張を奔らせる…だが、次の刹那現れたその〝姿〟を見て、彼等の驚愕は一瞬にして〝動揺〟に塗り替えられてしまった。


「な、な、な…!?」

「……」


其処に居たのは、一人の男…いや、〝男であろう人間の死体〟…其れ等が無数に起き上がり、覚束ない足取りで眼前の〝魔術師〟へと歩を進める…しかし。


「〝眼前〟と言うのは、笑えない冗談だったかな?」


笑えないと言いながら少し口を緩めるその人物の言葉が虚空に消え…周囲の人間は〝彼等の姿〟に目を剥き、絶句する。


――ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…――


彼等は皆、〝死体〟だった…それだけならば、稀ながらに有り得た事例だった…しかし事、この現状の〝問題〟は――。


「〝頭部〟を失って何故〝動ける〟!?」

「それに何故…〝魔力が無い〟!?」


その死霊達には、自立行動を取らせるのに必要な〝脳〟が無く、挙げ句には〝魔力が一欠片と存在していなかった〟のだ。


「ば、馬鹿な…自然発生した死霊だとしても、いやそれでも有りえない、〝瘴気〟を受けて動くならばその反応が有る筈ッ」


崇高なる知恵の彼等はそう口々に喚き、狼狽する…〝魔力を持たない死霊〟…それは〝本来〟有り得ない事なのはこの世界の全ての人間が知っている常識だ。


では……彼等は〝何なのか〟…混乱する彼等は凡そ、その理屈を解明出来ないだろう…そしてそれは、彼等だけではなく、戦局を静観し、機会を伺っていた〝公務魔術師〟達も同様にそうだろう…。


「「ふむ……」」


その場に居合わせた〝二人の研究者〟を別にして。


●○●○●○


「――成る程…刃君、悪いが一匹…〝あの死体〟を持ってきてくれないかい?」

「――は?…いや、だが」

「良いから良いから…場が混乱している今がチャンスだよ」


私は眼の前の大男へそう言い彼を動かす…すると、彼は混乱ながらに思考を割り切り、ものの数秒で銃弾乱れる苛烈な戦場から一体の〝死霊モドキ〟を調達する。


「……ふむ……フフッ♪――成る程成る程、そうか…うん…もう良いよ、〝充分〟だ」

「は!?――もう何か分かったのか!?」


私の言葉に刃君がそう叫ぶ、そんな彼の声に周囲の仲間達もどういう事かと此方を見る…まぁ、隠し立てして何かメリットが有る訳でも無い…情報共有は戦場で最も価値の高い〝資産〟だからね。


「――〝至極単純〟な話だよ、諸君…尤も、単純で有るがその発想は外道の極みの様な代物だがね」


私はそう言い、首無し死体のその〝首〟へ腕をねじ込み…〝ソレ〟を引き抜く…すると彼等は私の腕に月光を受けて煌めく〝ソレ〟に目を向け、何だソレはと小首を傾げる。


「〝結論を言ってしまおうか〟……コレは〝科学の死霊術〟だよ…コレを考えた人間は底抜けの悪党、いや悪魔だね…私でさえ思い付いても実行はしないよ」


それが例え、〝理論上可能〟で有ったとしてもね。



○●○●○●


「〝小型インプラント〟を〝神経〟へと接続し、〝指示機〟からの電気反応を通して神経を刺激し〝動かす絡繰り〟か…理解して尚〝えげつない〟な」


ビル群から眺めながら、その傍らに崩れ落ちる死体から拾い上げた〝小型チップ〟を握り砕き、己は口元を歪めて紡ぐ。


「やっている事は死霊術と大差無い…だが、その発想自体が〝外道のソレ〟だ」


躊躇いがない、悪びれてもいない…極単純に〝その行為が正しい事〟だと考え、一切の良心の呵責無く〝実証〟出来る精神構造…その精神は〝狂気の沙汰〟だ。


「……人の事を言えた身では無いだろうが、しかし…フフッ…嗚呼…〝恐ろしい〟な全く」


正義を盲信する〝人間〟とは、此処まで外道畜生に堕ちられるのか…と、己の心はざわめき歌う…何故に、私の心はこうまで沸き立つのだろうか…私の一欠片の理性は、抑えきれない笑みをその耳に捉えながら…そう疑問を提起する……しかし、その答えは返ってくることはなく…私は笑みを抑えて〝事態を把握する〟…。


「事態は〝把握〟した…今の混乱で此方の兵力はやや劣勢か…なら、癪だが〝手札〟を切るべきかな…〝死霊者〟殿…出番だ」


そして、私はそう言い…遥か彼方にいる〝同胞〟へと合図を送る…その合図から数秒経って、その時――。


――ドクンッ――


水面に浮かぶ波紋を相殺するかの様に、戦場には〝此方の混沌〟が顔を出した。


「〝目には目を、歯には歯を〟――」

「『〝死霊には死霊を〟…で、でしょう?』」


そう言い声を殺して笑う〝死霊者〟の言葉と同時に、戦場の中心では〝濃密な黒い魔力〟が吹き出して〝一匹の死霊〟を取り囲む。


●○●○●○


「〝膨大な魔力反応〟を確認しました…アレは!?」

「――〝魔力の密度〟、〝量〟共に〝A級妖魔〟クラスだねぇ…向こうも等々〝ヒートアップ〟してきた訳だ」


我々はそう言い、全員が警戒しながら敗残兵を刈り取って行く……そんな中で私は、主戦場に生まれた新たな波紋を前に、観察に集中する。


其処に居たのは…一見〝見窄らしい痩せた死霊〟の姿…。


「見た目は一見普通の〝動く骨(スケルトン)〟の様だが…しかし、〝違う〟ね」


明らかにその魔力は〝ゲーム〟何かで見掛けるその辺りの雑魚キャラの代名詞の域を超えている…何方かと言えばアレは〝動く骨〟と言うより――。


「〝死霊の狂王(エルダー・リッチ)〟…って所かな?」

「『――――ッ!!!』」


私の独り言とタイミングが被るようにして、その〝骨の化物〟は古枯れた杖を片手に、もう片手には何も持たず手を広げて顎をカタカタと鳴らす…その奇妙な動きのその瞬間。


――ブワァァァァッ――


その〝王〟を中心に瘴気が駆け巡り…地面に転がる死体へ無差別に〝入り込む〟…すると。


――ザッ――

――ザッザッ…――

――ザッザッザッ…――


――ドンッ――


たった20秒其処らで、〝王〟を守る様に〝死霊の群〟は組織され…その場に〝屍の軍〟を創り出す。


「数はざっと〝200匹〟前後…性能は並の妖魔よりも良い…即席の〝軍〟にしてはやるね」


感心する私がそう言った…その頃には既に、〝偉大なる骨の王〟の勅令によって屍の軍隊は〝敵勢力〟の掃討を〝開始〟していた。


「――〝チームα〟…〝首尾〟は?」

「『問題無く…〝作動〟しますか?』」

「宜しい…流石に此処まで熱が昇れば一手のミスが大火傷に成る…我々も遂に〝気を張らねば〟行けない事態に成ってきた…〝隔離結界〟を〝起動〟せよ」

「『了解』」


そして遂に……我々もその身を戦火に投じる〝時〟が来た。


「『〝総員〟…〝戦闘準備〟』」

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