表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
159/318

災禍は何時も唐突に

その日は、風の無い生温い空気が満ちる夜だった。


――ゴゴゴゴゴッ――


そう……不気味な程に、無風で…〝不穏な夜〟だった…それは、気の所為だったかも知れないし、単に虫の知らせで有ったのかも知れない…少なくとも、無知のままで有ったならば、我々は今夜、少なくとも〝この場所(東京)〟で――。


「――全員、配置完了した」

「しかし、戦線が二つ有るのは気掛かりだな」

「仕方無い、〝彼処(京都)〟は〝紅月〟等に任せよう」


「『――その通りだ、諸君……我々が真に警戒するべきなのは、〝此処〟だ』」


――こうして来る災厄を待ち伏せる事は無かっただろう。


「『ッ――さぁ、来るよ!』」


そして、我々が予測していた最悪は唐突に…その毒牙を剥き出す。



○●○●○●


――ザッ…ザッ…ザッ…ザッ…――


雑踏過ぎ行く人の群れは、喧騒に濡れ…人々は皆、和気藹々と夜の世界に新しい話題、旧い冗句を踊らせる…しかし。


其れ等は直、〝過去の物〟と成る…その始まりは、たった一人の〝男〟から始まった……。


――ザッ……ザッ……――


フードを目深に被り、ソレは露骨な胡散臭さを醸し出しながら人に避けられ進む。


彼へ突き刺さる冷たい視線は数多有り、多くの人間が不審な男へ意識を向ける…しかし、そんな非難轟々の視線を受けても、男は何一つ、〝口にしない〟……その時。


――ヒュオォォォッ――


刹那の間を一陣の強風が吹き荒び、男のフードを吹き攫う…その瞬間。


――カチッ――


その場にいた〝全ての人間〟が、この世界に仕込まれた〝闘争の火種〟へ、炎が燃え上がる音を聞いた。


「――ゲヒッ…ゲァァァッ」

「ッ!?――〝不死者〟!?」


その場にいた誰それが、その〝名を紡ぐ〟…其処に居たのは不審者でも、人間でも無い…〝死肉の化物〟だった。


「ッ――敵襲だ!」


その声が響き渡るや否や、其処に居た大多数の人間が懐から〝銃火器〟を取り出し、不死者とその場にいた人間へと乱射する…。


「ッ何!?」

「おい嘘だろうッ!?」


その突然の騒乱に、その場にいた残りの人間もまた予想外と言うふうに動転し、迫る弾丸の雨に抵抗せんと魔力の障壁を構築する。


真夜中に響く銃声の交響曲は、人々が栄華を極める〝人間の都〟…その中心で〝前奏曲(プレリュード)〟を奏でるのだった。



●○●○●○


「『此方は〝始まった〟…〝ソチラ(京都)〟は?』」

「――えぇ、此方も始まったわ…ソッチは本当に民間人の避難が出来て居るのですか?」

「『当然、予想される戦線地域の住民には既に伝達し避難させている…残ってるのは〝鋼の翼〟と〝崇高なる知恵〟の連中だけさ』」

「……そうですか」


戦火が燃え上がる…人の街は次々に火を吹き出し、阿鼻叫喚の〝戦乱〟が広く広く伝播する…日鶴江理佳はその光景を忌む様に、鋭く見つめながら少し沈黙する。


「『――思う所は有るだろうが、忘れては行けない…〝最重要〟は〝民間人〟だ、〝テロ組織の構成員〟では無い…如何なる状況で有れ、彼等は明確な危険を孕んだ〝爆弾〟だ…分かっているね?』」


そんな彼女へ、電話越しから淡々とした男の声が響く、その機械の様に冷たい声とそれが連ねる〝無慈悲な言葉〟…何より、ソレを何とも思っていないと言う態度に、彼女は鋭く叫ぶ様に応える。


「ッ…分かっています!」

「『……宜しい、引き金が重ければ下がり給えよ、〝無理をする程の事〟じゃない』」


そんな彼女の言葉に、相手の男は怒る様子も無く彼女へ月並みな配慮を鋼鉄の口から紡ぎあげると、その通話を終わらせる。


「『――クカカッ、そうだ我が主よ、引き金が重ければ我が引こう、その為の〝我〟だ…で有ろう?』」


何かを言い掛けた彼女は、通信機を睨みながら言葉を詰まらせる…そんな彼女の背後からは、〝黒い医療仮面(ペストマスク)〟を着けた大鷲の羽を持つ男はその異形の姿を彼女の前に現しそう愉しげに言う、それに。


「ッ……馬鹿にしないで〝ジュード〟…私はそんなに〝卑怯〟じゃないわ…!」

「『――クカカッ、無論承知だとも、しかし主よ、貴様は〝人間〟だ、我は〝人間〟を良く知っている…人間は〝脆い〟、心身共にな…平気を取り繕おうと、積み重ねたソレはやがて弾け、身を滅ぼす事になる…人間は〝罪〟に脆い生き物だ…コレは〝そう言う話〟なのだ』」


そう返した彼女、その言葉を面白そうに聞き知る男はしかし、その瞳に温かい配慮を込めて己が主へそう告げ、大鷲の翼を強く羽撃かせる。


(その脆さこそが〝人の証〟なのだ……ソレが無い人間は最早、〝人間とは言わない〟……だからこそ、〝奴〟は〝恐ろしい〟のだ)


その翼が向かう先は地上に描かれた細い根に逃げ惑う無数の〝敗残兵〟…しかし、その異形の〝使い魔〟はその瞳を敗残兵に向けるものの、その先に有るのは〝唯一人の男〟の影だった。


(〝狂いながら人で在る〟…その矛盾を併せ持つあの男が)



○●○●○●


「――〝混戦〟か」

(〝予想外〟だが…しかし、〝想定内〟だ)


そして、混戦を眺める人影はもう一つ…その男はたった一人で戦火を眺めながら、その卓越した思考で戦局を汲み上げる。


「戦局が拮抗すればする程、〝死〟は積み重なる」


〝大いなる目的〟の為には必要な犠牲だ……と、その男は独り言を呟きながらほくそ笑んでいた…既に多くの死体が其処に積み重なっていたが、しかし…その時男の笑みがふと陰る。


「――待て、何だと…?」


その視線の先に有ったのは…一人の〝死体〟だった。


――ガチャンッ――

――ババババババッ――


銃を乱射し、其処にいる敵魔術師や不死者を狙うその男は…確かに死んでいた…だが、その男は〝動いている〟…〝動く死体(リビングデッド)〟…もしそうで有るならば、ソレは〝魔術師側〟の工作の筈だった…しかし。


「馬鹿な……〝魔力が無い〟?」


その不死者には〝魔力の流れ〟が感じられなかった…〝死霊術〟は使われていなかったのだ…。


「……どういう事だ…?」


その光景に男は疑問を口遊ぶ…その疑問はやがて戦地の魔術師達にも伝播し始め、戦局の天秤に〝混沌の手〟が差し込まれ…〝戦場の魔物〟は、その眠りから目覚めようとしていた…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ