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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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迫りくる戦火の音

――パタパタパタッ――


「――ムゥゥゥッ…不快、不愉快…私は、探偵じゃない」


――カリカリカリカリッ――


無数の書物と、周囲に立ち並ぶ電子機器から無尽蔵に垂れ流される文字と数式の山…其れ等を高速で動く瞳で捉えながら、白髪の少女は不機嫌そうに手を動かす。


「『〝理知〟から〝記憶〟へ――〝崇高なる知恵〟の〝現存兵力〟を更新』」

「『〝狡知〟から〝記憶〟へ――〝崇高なる知恵〟の技術レベルを上方修正』」

「『〝影〟から〝記憶〟へ――〝勢力衝突〟の時間制限を仮定義、残り時間〝4日…』」

「……〝面倒臭い〟」


〝記憶〟…不身孝宏が創り出した〝個体〟…己をメモリアと定義する少女はそう文句を言いながら、その手を止めず…高速で全ての情報を〝記入〟、〝更新〟していく。


「『〝影〟から〝記憶〟へ―――〝鋼の翼〟の拠点データを送信』」

「ん…」


常人ならば既に情報量に耐え切れず、脳が焼き切れて居るだろうソレを、少女は気怠げに処理し…更には隙間に空いた〝思考〟を使い、全ての情報から己の見解を紡ぐ。


「――〝2勢力〟間の〝兵力〟は互角……〝物量〟と〝特異性〟…戦場は〝二つ〟、〝京都と東京〟…範囲は凡そ……其々中心から半径〝20Km〟……戦局は〝二つ〟……此方も戦力を割かれる」

(何方か〝片方に黒幕が居る〟…でも何方?…思考しろ、必ず〝黒幕が残る要素〟が有るはず……)


少女はそう言い、電子地図に浮かぶ〝二つの主要地〟を睨む……その時。


――ブンッ――


「ッ!?――〝影〟から?…〝緊急伝達〟…?」


少女の眼の前に半透明の〝ディスプレイ〟が浮かび上がる…其処には、〝影法師〟と名を連ねる人物からの通知を知らせるインフォメーションと、その人物が送ったメッセージ…そして。


「〝コレを見ろ〟?……ッ!?」


〝1枚〟の…〝地形情報〟が有った…訝しむ少女はしかし、次の瞬間その目を大きく見開き…己の持っている電子地図とソレを見比べる…。


「ッ――〝間違い無い〟…〝東京〟…!」


その地図に画かれていたのは、東京の土地を埋め尽くす程の大量の〝拠点〟…しかし、その拠点のマークは、何処か〝規則正しく立ち並び〟――〝一つの陣〟を築き上げ…ソレを電子地図の上に映し出す…。


「〝大規模魔術〟……それも、既に〝起動〟してる……ッ、〝記憶〟から〝影〟に伝達――〝魔術陣の解析を開始〟する…事態鎮圧の計算を〝影〟に移譲」


『〝移譲受理〟』


少女はソレを食い入る様に見つめ、その脳髄の全てをその、東京に浮かぶ巨大な魔術陣へと注ぎ込む…その目には、相手の未知なる野望に対する焦燥と、己の知らない〝術理〟に対する〝好奇心〟が映っていた。



●○●○●○


「え〜っと…うん、コレで全員に配ったね!」

「次は……〝Bクラス〟の皆だね結実ちゃん」


二人の少女が忙しなく通路を進む…その手に何かを梱包した箱を手に持って。


「2年生と3年生は氷太郎君と九音ちゃんがやってくれるでしょ…月人君は先生達だね」


そんな二人の少女は駆け抜け様に聞き取った生徒達の会話にその顔を顰める。


「そう言えば聞いたか?…〝鋼の翼〟とか言う科学主義の奴らがまた湧いてきたらしいぜ」

「ハッ、〝科学如き〟で魔術師相手にするとか馬鹿だろ」

「でも最近じゃ魔術師が銃殺されたって事件も増えて来たじゃない?」

「そんなの、土御門家や巌根家の前じゃ相手にもならないわよ!」


見て分かる〝生徒達の変化〟、聞いて分かる〝悪意の伝播〟に少女達はその顔を顰めて足早にその場を去る…いや、正確には〝去ろうとした〟…が正しいだろう。


「――ッてうわ!?」


少女達はその場から離れようとした、しかし、通路を曲がった丁度その時…少女達の前に一人の〝人影〟が現れ、その身体へ黒乃結実はぶつかる…。


――ドッ――


「――キャッ!?」


少女の衝突に、その人物は驚いた様な声と共に尻餅をつき、尾骶骨と乱れた髪の毛を払いながらその目を衝撃の元へと向ける…その人物を、二人は知っていた。


「〝来美ちゃん〟!?」

「結実ちゃん、仮にも先生何だからちゃんと先生って呼ばないと…」


その人物は、この学園に交流を目的に滞在している〝白河来美〟だった…彼女は二人の言葉に苦笑いを浮かべ、年齢に見合わぬ少女の様な身体を立ち上がらせて二人へ軽く頭を下げる。


「良いよ二人共…こっちこそごめんね?、新田先生に頼まれて翅野先生を呼びに行く途中だったの……二人は何を?」

「私達は〝孝宏〟先生に、〝1年生全員〟にコレを渡して欲しいって言われて御手伝いしてたの!」

「それは……〝御守り〟?」


黒乃結実が言葉と共に見せた、その朱色の布で作られた小さな〝御守り〟に、白河来美は不思議そうに小首を傾げて問い返す。


「そうです、その…先生が次の合同練習に使うから、全員に配布して欲しい…と、ソレの手伝いを私達が申し出たんです」

「え〜偉〜い!…優等生だね二人共〜…家の生徒に成らない?…私の生徒何て皆私の事を珍竹林扱いして、本当に生意気なんだから…!」

「「あはは…大変ですね…」」


そして気が付けば、三人はそう談話しながら通路を歩き…姦しい雰囲気と共に職員室まで歩いていく…。


「そうだ、折角だし御茶でも飲んでいく?…先生の御手伝いをする良い子には特別にお茶菓子もあります!」

「え!?――あ、でも…」

「――すみません来美先生、コレを配り終えたら一度孝宏先生に報告する様言われていて……また明日のお昼御飯でお話しませんか?」

「あぁ…そうなの……じゃあ仕方無いね、それじゃあ明日のお昼一緒に食べましょう!」


そして二人は白河来美からの御茶のお誘いを断り彼女へお辞儀をすると、そのままタイル張りの廊下を足早に駆けていく…。


「……」


その様子を、白河来美は微笑ましげに見詰めていた…。

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