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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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死人の口は雄弁に語る

――ザッ…ザッ…ザッ…――


「……此処が、目的地なのか?」

「どっからどう見てもただの〝廃墟〟じゃねぇか…ホントに合ってんのか?」


――ザッ、ザザザッ――


『――いや、此処は比較的〝当たり〟だ…丁度今、通信に0.数秒の遅延が入った…念入りに〝隠蔽〟をしていた名残が今も残っていると言う事は、少なくとも4、5年以内に作られた拠点の筈だ』


木を隠すには森の中…とは良く言った物で、隠し事をする際、ソレと共通点を持つ無数の別物に紛れ込ませる方法は恐ろしく効果的な偽装と言える……ソレは事、〝建築物〟においても例外では無い。


「本気か……ただの〝家〟にしか見えねぇが…」

「俺の目から見てもただの〝家〟にしか見えんな…魔力反応も何も感じねぇ」


時刻は深夜、人々が寝静まった時間…住宅街の片隅の寂れ果てた廃墟の玄関口で、翔太君と調査員の男性はそう呟く。


『其処は流石〝秘密組織〟…存在の発覚から数十年、大した情報も手に入らなかっただけの事はある…個人的な主観だが、彼等の隠蔽能力は当時の時点で世界の数歩先を言ってたのでは無いかな?』


所謂〝特異点〟だ、歴史における〝万物の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ〟の様に、世界を変革させる程の能力を備えた者が彼等の中に居たのかも知れない。


『そうで有れば実に口惜しい、そんな〝稀有な人間〟とは是非お近付きに成りたかった物だ』

((お前もその〝特異点〟じゃねぇのか?…))


そうこう言う内に、我々は怪し気な廃屋の扉を開き…中に侵入する……次の瞬間――ッ。


――ギィィィッ――


……特に、何が起きるかと言う事もなく…我々を出迎えたのは寂れて汚れ、誇りの溜まった玄関口と何処か淀んだ冷たい空気だった……うむ、一見すれば完全に売り手の着かない〝売れ残り物件〟と言った様子だ。


「やっぱ普通の家じゃねぇか」

「完全に〝外れ〟だったか…」


そんな家の内装に彼等は口々に落胆を口にする…しかしそれは違う、実に〝勿体無い〟早とちりだ。


NO(違う)、そうじゃあ無いね諸君、此処は正しく〝当たり〟だ、否!――もしかすればジャックポット(大当たり)だって狙えるかも知れない――君達に配給した〝道具〟を見せて欲しい』


私の言葉に彼等は小首を傾げる…しかし、私の確信めいた発言に彼等は懐から一つの〝リング状の機械〟を取り出す…すると、驚く程に明確に、その機械からは何かの反応が返って来る。


――ピコンッ、ピコンッ――


『反応は〝青〟…つまり此処でこのアイテムは何らかの〝再現〟が可能だと言っている訳だ…さてさて、それじゃ早速〝起動〟しよう』


その反応に目を見開く彼等を唆し、そのリング状の〝機器〟のスイッチを押す…その瞬間。


――ポタッ――


起動した機器を中心に、〝赤い血の紋様〟が染み出した…その紋様は〝不気味〟極まり…その血の紋様は床を壁を天井へと伸びてゆく。


『――OK、起動を確認した』

「「ッ!?」」

『諸君、言いたいことは山程有るだろうが先ずは〝全工程〟を終えてから抗議を聞くよ』


察しのいい彼等は既に〝気付いた〟だろう…この〝機器〟の仕掛けを。


無から有は作れない…当然の法則だ、〝消費と生産〟こそが万物の理、全てはソレの連鎖、巡転によって紡がれている。


無論、この機器も例外では無い…〝環境の再現〟には精密な情報は必要不可欠だ…しかし、彼等を追う我々には、彼等の影は見ることが出来ても実像は捉えられない…。


『――死人(Dead men)に口( tell no )無し(tales)何て言葉は、私の世界には存在しない』


――では、〝其処で果てた者達〟は?…。


非業の死を遂げ、未練を残し…輪廻へ向かう事さえままならない者達ならば〝どうだろうか〟?…。


『〝死人は(Dead men)語る(tell tales)〟…この場、この時、この世界に於いては…ソレが〝事実〟だ』


機器が同期する…この〝世界(一つの住宅地)〟に隠された残酷な世界を暴き出さんが為に…周囲に彷徨う死者の未練へ甘い言葉を掛けながら…。


ー―キィィンッ――


 そして、その試みは上手く言った…刹那に輝く機器は電光の眩しい輝きでこの家を包み込むと…その後、先程までの現象が夢幻であったかの様に沈黙する…。


「あ?……おい、何もねぇ――」


翔太君がそう疑問を口に出そうとしたその瞬間…。


――ギィィィッ――


背後の〝ドア〟が開く…ソレに慌てて振り向いた二人の、その視線の先には…一人の男に向いていた。


『………』


その姿はごく一般的なサラリーマンだったが、彼等の目に映るその人物は凡そ〝人間〟と言える程の〝生気〟を纏ってはいなかった。


「ッ!?…敵――」

『じゃあ無いよ…所詮コレは〝再現〟だ…彼等が見た光景がそのまま〝再現される〟』


「『ただいま、美恵、凛』」

「『おかえりお父さん!』」

「『おかえりなさい貴方…もう御飯出来てるけど…』」

「『そうか?…う〜ん、なら先に御飯にしようかな』」


蚊帳の外の我々は、そうこう言いながら眼の前で繰り広げられる仲睦まじい華族の団欒〝ごっこ〟を眺める…すると、不意に父親だろう男の声が沈む。


「『……〝黎斗〟は…まだ〝駄目そう〟か?』」

「『……えぇ…』」


その言葉に母親はその顔を困った様に歪めてそう言う…どうやら至極順風満帆な家庭とは言えないらしい…しかし、そんな家庭でも食事の時は自然と笑みが溢れる様で、楽しげな談笑と共に彼等は何気ない日常を過ごしていた……。


「『………』」


〝唯一人〟を残して……。


『彼がこの家庭に根差した〝亀裂の種〟だね…ふむ』


その青年は活気のあるキッチンの明かりの陰を踏み…その談話を何やら怒りの籠もった様相で盗み聞きし…その後人知れず階段を上がる…。


「あの小僧……」

「嗚呼、〝何か企んでる〟な…」

『何、まだ断定は出来ないよ……もう少し様子を見よう』


そして、日常は巡り……〝夜〟が来た。

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