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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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髑髏の工房

――グチュッ、グチュグチュッ――


「フフッ、フフフッ…素晴らしい、均衡の取れた筋肉に、質の良い肌…髪も魔術媒体として利用出来る程、良く手入れされている…」


薄ら輝く明かりが、暗闇を仄暗く変え…其処に隠された〝醜い所業〟をも、白日の目に晒す…。


――ズズズズッ――


それは古来、人が禁忌として来た悍れの〝術法〟……世界の理を逆行し、歪める〝外法の理術〟


「〝贄は此処に〟…〝無辜の魂を以て外法の術は果たされる〟…〝悪業と共に甦れ〟、〝我が同胞よ〟」


〝生と死の流転〟…即ち〝死霊魔術〟…その力の一端が今、為される…。



「……ッ!?――え?…此処は……」

「此処は〝僕の工房〟ですよ…新しい〝同志〟」


禁忌は為され、死を帯びた肉の器は自然の摂理を否定し、無数の魂を喰らい甦る…まるで、つい先程起きた〝惨たらしい死〟等、欠片も起きていないかの様に…。


「僭越ながら、僕が君を蘇生した…そう、君は一度〝死んだ〟のだよ…覚えているかな?」

「死ん…だ……ッ、あ…あぁ、そうだ、私は確か…あの時、何かが来て…!」

「そうだとも、君は死に、しかし蘇った!…我が禁忌によって、我等がリーダーの意思によって、資格者たる君は、我等が組織の新たな同胞と成った君は晴れて、死からの脱却を果たしたのだ…おめでとう!」


男の言葉に女性は身震いし、その恐怖は困惑を併せ持ちながら、興奮した様に語気が強くなる男の言葉に耳を傾ける。


「――と、言う訳でだ、君は晴れて我が同胞、そして我が〝派閥〟へと配属された…早速仕事だ…先ずは君の〝身体〟を調べさせて欲しいッ…何処を改造すればより強い〝兵士〟となるのかを!」


やがて、その男の言葉は狂気を含み初め…今し方死から回帰した女性へとその牙を向き初める…その暴走に女性は恐怖し、逃れようとするだろう……しかし、何も持たないその身では、逃れる事も出来はしない…だが。


――パンッ!――


「〝其処まで〟」

「「ッ!?」」


生憎と、〝仲間内〟での殺し合いは〝非効率〟だ…到底看過出来る物ではない。


「おや、おやおやおやおや…〝貴方〟でしたか…名前は――」

「〝研究者〟で良い――しかし〝死霊者〟殿、貴重な〝同志〟を屍兵(レブナント)に作り変えるのは〝非効率〟では無いか?」


私の言葉に、彼は沈黙し…目を泳がせる、そしてその口からは何とか反論しようとか細い抵抗の意思を見せ、私へ言う。


「……しかし、これ程の有望な〝魔術師〟は、〝屍兵〟として優秀な素体に――」

「――目下、重要な物は何か…知らない筈も無いでしょう、重要なのは〝同志の結束〟で有り、〝同志の屍兵〟では無い…それに、貴方は既に規定量を超えた〝屍兵〟の確保に成功したと聞き及んでいますが?」


その弁明にも成らない弁明をバッサリと切り捨て、未だ其処に倒れている同志へ衣服を充てがう。


「――現状、〝屍兵〟は充分な数を確保出来ています…しかし、ただの〝屍兵〟では恐らく…我々の〝目的〟を達成する際の妨害となる〝八咫烏〟含めた無数の勢力を打破するには力不足だ…従って貴方方には〝屍兵〟の強化を図って貰いたい」


私はそう言うと、背後の死霊者へ懐から無数の紙束を取り出し彼へ渡す…。


「屍兵の強化……しかし、強化には様々な素材が足りないので……は…」


私の言葉へそう呟きながら紙束を読み進めていた彼は、初めは何処か不機嫌そうだった表情を次第に驚愕と好奇心に染め上げて行き、最後には鼻息荒く、興奮の声を上げて私に詰め寄る。


「何だこの〝改造〟は!?――こんな簡単な事を今まで思い至らなかったとは…面白い、面白い発想だ、これなら確かに、同志を屍兵にするよりも面白い研究結果が出来そうだッ!――君、君!…君も勿論コレを創るのだろう!?――僕と一緒に〝創らないか〟!?」

「無論、その為に此処へ来たので…私が〝リーダー〟より課せられた任務は〝計画の最終調整〟です…そしてその足掛かりとして〝主戦力〟の増強を第一に始めるつもりでしたので…貴方に言われるまでもなく御手伝い致しますよ」

「そうか…!」


私の言葉に彼はその顔を喜ぶ様な、不気味な笑顔に歪ませるとその場に残った女性へと実験動物に向けるような興味を失くし、指示を出す。


「君ッ、君は〝複合獣〟の管理チームに行きなさいッ…さ、さぁ行きましょう〝研究者〟さん、いち早くコレを試したい!」


そう言い終えると彼は部屋の扉を開け放ち、背後を確認する事も無くその場から立ち去る…。


「……兎に角、貴女は言われた場所へ行き、其処の同志に話を聞くと良い…彼は私が見ておくよ」

「あ、ありがとうございます…その貴女は…いや、男…?」

「ん…あぁ、いや失礼…少し前に〝何かの改造〟を試して以来、身体の形が変化する様に成ってね…何の研究だったかは〝忘れた〟が…まぁ、私の事は気にしないで〝研究者〟と呼んでくれ」

「あ…はい、ありがとうございました〝研究者〟殿!」


そして私も、新たな同志の感謝を背にしながら…その部屋を後にした……。



――ズキッ――


「ッ!………何だ…今、頭痛が…」


部屋を出たその直後、私の脳髄が何か神経痛の様な痛みに襲われ…少し目眩がする…それに気の所為だろうか…。


「……何か、声が聞こえた様な………いや、〝幻聴〟だろうか?」


結局、理由を探せども見つからず…私はその頭痛の原因を探す事を止め、通路の奥に消えていった〝幹部〟を追って歩みを再開した……。




●○●○●○


――オォォォォォッ――


其処は……有り体に言えば〝地獄〟の様だった…うん、〝地獄〟だね…間違い無くそうだ。


「何処までも悪趣味極まる…地獄的な美的センスだ……君も好きだねぇ?」


何万もの人間を重ねた様な、人の集合体の様な空間…響き渡る生命の苦悶の叫びを垂れ流されながら…私は鎖に縛られた己の身体のまま…眼の前の〝ソレ〟を見る……。


『………』


其処に居たのは、可笑しくも、数奇にも、奇妙にも…〝私の身体と瓜二つな人間の姿〟が、其処に有った…。

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