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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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嘘つきの罠

――ガタンッ――


「――どういう事なのアル、答えなさい!」


字波美幸が椅子から立ち上がり、そう白猫へ鋭く問う…感情豊かな彼女では有るが、今回は普段に増して〝落ち着きが無い〟…普段の彼女らしい、人間味に溢れ、しかし心地の良い冷たさは微塵も感じられない…それもそうだ。


「落ち着き給え〝字波美幸〟…激情を抱くのは構わないが現状を見失うな…〝本体〟から何時も言われていた事だろう?」


その本体が今、敵の手中に堕ちたのだから…しかしだからと言って現時点でのプランを崩すのはリスキーだ、絶対にしては行けない。


「でも――」

「〝良いから〟…今は激情の出番は無い、〝知恵と合理〟の出番だ…〝アル〟…一つ〝問おう〟…先程のメッセージで本体からの通信は以上なのか?」

「『……あぁ』」


気に逸る彼女を押し留め、私はアルへ問う…それにアルは簡素だが確かにそう答え、沈黙する…成る程。


「――オーケー、把握した…では現状の優先目的は依然〝変わらない〟」

「――ちょっと!」

「――考え給え、相手は〝本体〟を掌握した…搦手で有れ、何で有れ相手には〝莫大な知識〟と言う重要なリソースが相手の手に渡った…加えて〝本体〟を相手の指揮系統に組み込まれれば先ず間違い無く〝奇襲〟は出来ない…目下我々が為すべき最善策は〝来る日の大規模戦闘〟における〝民間人の被害を限りなくゼロに抑える〟事だ」

「ッ……でもッ………いいえ、そうね…」


私の言葉に字波君は複雑な表情で、何とか落ち着く…いや、落ち着く〝努力〟をする…。


「――まぁ、ソレはソレとして…〝本体〟を救出する上で〝戦場の混沌〟とは模造品とは言え高水準に複製された私でさえ予測出来ない〝無限に構造を変える迷路〟の様な物だ…最善を尽くしてもふとした綻びが〝勝敗を分ける〟事も有り得る…我々は〝計画〟を万全にした上で、その〝混沌〟を待つ…ソレが今出来る〝最善策〟だ」


私の言葉は所詮〝模造品〟だが、恐らく本体もこの様に振る舞う筈だ。


(――それに、先程から〝妙な感覚〟がする)


〝私〟は所詮〝不身孝宏〟が創造した魔道具に過ぎない…鏡の所有者の形を〝象る虚像〟で有り、〝本体と私〟は〝実像と虚像〟の様に繋がっている……筈だ。


――なのに。


(何故……〝本体〟と繋がらない?)


私と繋がる〝糸〟の先には一体〝何が居る〟?…。



○●○●○●


――ザッザッザッザッ――


〝試練〟は終わり、私は他の参加者達と別れ…一人、〝影〟に案内されながら無人の〝研究所〟へと足を運ぶ。


「『さて……〝何から〟聞こうか』」


研究所は周囲の〝製錬された建築様式〟とは異なり、何処か〝古臭い〟…物置と書斎を足して割った様な雰囲気を醸す一室…そんな部屋の中、〝私〟の眼の前で…〝暗闇を纏う人間〟はそんな声を投げ掛ける…。


『――何を聞かれようが構いはしないだろう、我々は〝同志〟なのだろう?』


そんな彼へ私がそう〝聞く〟と、彼…ないし彼女は沈黙して…視線を此方へ向けている…様な気がする…いや、顔が見えないので分かりはしないが。


「『………〝1つ〟…我々の仲だ、〝同志に嘘を吐く事〟がどういう意味かは知って居るだろう?』」


彼…便宜上彼とするが、彼の言葉に私は顔を顰める…無論、知っている…それは〝裏切り〟で有り、組織の全てを敵に回す行為であろう…何故、ソレを私へ問うのか…私の〝思考力〟がソレの意図を推し量り、その真意を解釈する。


『理解に苦しむ、〝何が言いたい〟』


私はそう問いながら、彼へと冷たく問い掛ける…つまりは、〝私を疑っているのか〟……と。


「『――君は…〝何者〟だ?』」


その言葉への彼からの返答は〝重く〟、〝鋭く〟…私の身体を縛り付けるかの様に〝芯に響いた〟………その〝感覚〟は、何処か…覚えがある様な気がしたが…そんな小さな疑問は露と消え…私は彼の言葉に臆するも、欺瞞も無く〝応える〟…。


『ただの〝研究者〟で、君達の思想に〝共感〟する〝魔術師〟さ…それ以上でもそれ以下でもない』

「『……君は、〝裏切り者〟か?』」

『〝否〟…私は君達と協力関係を気付くために君等の誘いに乗ったんだ…〝誓っても良い〟』


私がそう〝誓い〟を立てると…暫し、奇妙な沈黙がこの室内を駆け抜けた…やがて、漸く納得したのだろう…彼は私へ軽い謝罪を述べる。


「『――そうか…いや、済まなかった…我等の〝崇高なる使命〟が成されるまで後数日故に、少し神経質に成っていた』」

『――良いとも、〝謝罪〟を受け入れよう……所で〝新参者〟故に事情が分からないのだが…〝崇高なる使命〟とは何だ?』


彼は謝罪の後から一転、先程までの警戒心に満ちた様子とは裏腹に、上機嫌にの前に椅子を用意して語る。


「『それは〝これから話す〟……其処で必要な〝君の役割〟と我等が使命の邪魔をする〝障害物〟についてを』」

『ならば早速〝話に入ろう〟』


その語り口を私は、出来うる限りの集中力で彼の言葉に耳を傾けていた……。




●○●○●○


――バンッ――


「どういう事ですか〝如月〟先生…!」

「うん〜?……嗚呼、何々〝来美〟ちゃん…そないに怖い顔して」


学園の〝教員室〟…其処では、普段余り起きない〝教員の諍い〟が珍しくも起きていた……尤も、その当事者は当学園に所属する者達…では無く。


「――とぼけないで下さいッ、今日の〝訓練場〟での事です!」


片や少女程の姿、見た目相応の容姿を持つ他所の学園の教師と。


「ふ〜ん?…今日の訓練場……さて、何か有ったかな?」


片や、スラリとした長身痩躯に蛇の様な細い目と胡乱な口調で惚ける怪しい美男の、これまた他所の学園の所属教師。


「――貴方の生徒達の〝危険な行動〟!…アレは貴方の差し金では無いのですか!?」


その言葉には、周囲の教師達も興味か、或いは野次馬根性でも刺激されたのか、遠巻きに眺める…その少女の言葉に対して、謂れのない言葉を告げられた男は困った様に、そして態とらしく少女を〝非難〟する。


「――えぇ?…僕はな〜んもしてへんで?…なんの勘違いかは知らへんけど、そんな根も葉もない〝デタラメ〟を人前で吹聴するのは良くないと僕は思うわ……ちゃんとした証拠でもあんの?」

「ッ……それは…」


そんな彼の言葉に少女が口を濁す…すると。


「――ほら、無いやろ?…駄目やでそんなデマカセは、コレがもし事情も知らへん一般人とか、マスコミ何かに撮られてみ?――家の学園の名誉はボロボロ、訴えられるかも知らへんなぁ?」


その一瞬を逃さず如月秋久がそう言葉を捲し立て…苦渋に満ちた少女の顔を覗き込んで言う――。


「――何か訴えたかったら〝証拠〟、持ってきぃや?」


と……そう言うと、怒りと恥辱に震える少女を置いて…如月秋久は通路に差し込む昼の日差しに溶け込み…その場から姿を消してしまった…。

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