真摯な嘘
一つ……彼等は優れた〝魔術師〟で有る…八葉上魔術学園と引けを取らないレベルで、その〝戦闘能力〟は優れていた…。
扱う術式は旧式の代物だが、優れた魔力量と魔術のセンスがソレを十全に扱うとなれば…新型の〝私製魔術式〟を一通り習っただけの生徒なら遅れを取るだろう。
下地は良質、個人的にも心底に教え甲斐の有る〝生徒達〟で有ることは確かだった…。
……その〝選民思想〟さえ無ければ。
「いや〜うんうん♪…さっすが〝魔術主義〟…過激な思想は頂けないが〝魔術〟に傾倒するだけ有って〝魔術師〟としては〝一級品〟の卵揃い」
――ボシュンッ、バチンッ――
訓練場内で私の生徒達と模擬戦の鍛錬を行う彼等を見ながら、私は頷く…時折来る〝鍛錬の余波〟を打ち消しながら…。
「『――オイ』」
そんな中、ふと私の背後から私へと冷たい声が飛ぶ……コレはビックリした。
「おやおや、随分と早かったねぇ…〝愛弟子〟達」
「まな…んなこたどうでも良いんだよ」
「態々〝僕達〟だけを呼び出した理由は何ですか?」
「ご丁寧に〝ダミー〟まで用意して」
一体コレはどういう事無のだろうか…私の背後の〝影〟から私を呼ぶのは…5人の我が〝愛弟子〟達……しかし、それは有り得ない…何故ならば〝彼等〟は――。
――ピキピキピキッ――
「ハッハァッ…やるじゃねぇか〝小僧〟!」
「ッ……貴様も餓鬼だろうが!」
今正に訓練場で苛烈な〝模擬戦〟を繰り広げて居るのだから…そう、〝有り得ない〟…。
「〝写し身の呪人形〟かな?……と、お巫山戯は程々にしておこうか♪」
何時までも〝如月君〟の目を誤魔化す事は難しそうだからねぇ…手早く彼等に〝仕込む〟としよう。
「突然だが、君達には〝本体〟の描いた〝劇場〟の〝登場人物〟に成ってもらうよ…悪いがこれには〝字波〟君への報告も無しだ…〝君達〟が必要だからね、彼女が知れば許可しないだろう」
私の言葉に彼等は皆、その顔を懐疑と警戒…〝緊張〟に染める……まぁ確かに、胡散臭い上に怪しい事この上ないのは認めるが…生憎それでも、君達は首を〝横には振れない〟…。
「――〝大勢の生命〟と〝犠牲者達〟の救助が掛かっているんだから、恥も外聞も取り繕っちゃいられない…〝君達に頼みたい〟…〝力を貸してくれ〟」
『ッ…』
君達は〝善人〟だからだ…怪しむ事は出来ても、〝信頼と誠実〟に弱い。
「………先ずは、話だけ…聞かせて下さい」
「勿論だ…手短に話すよ…私の〝隠密結界〟を万全に展開出来る時間は少ないからね」
私は…君達と言う〝蝶〟を策謀と言う〝蜘蛛の巣〟に捕らえる…悪い〝蜘蛛〟だからね…君達の〝善性〟を利用させて貰う……その罪業の精算は〝本体〟に支払って貰うがね。
○●○●○●
「……ふむ」
――ギリィィンッ――
甲高く鳴り響く〝金属音〟…それに続くように放たれる、幾十の〝魔術〟を〝虫籠の外〟から、彼等は興味深そうに其処で足掻く〝人間〟を見て目を細める。
「シィッ!」
――ギィィンッ――
「あの〝男〟…良い身の熟しだな」
「身体強化込みでも相当〝使い慣れてる〟動きだね…見た目以上に〝強者〟だな…」
三人の内二人は、〝化物〟の矢面に立ちながらも容易く攻撃を躱す〝老練な武芸者〟へと目を向け、そう称賛する。
「ご、〝ゴーレム使い〟の彼女も興味深い…基本的な〝土塊の魔導機〟ですが、その生成速度と〝操作練度〟…加えて――」
そしてもう一人の、黒いフードの痩せた男はその化物を囲む様に配置された〝土塊の軍隊〟を見てそう言い、ソレを操る〝淑女〟を見る。
「――〝自爆〟」
「『――』」
途端、化物の手足を攻撃していたゴーレム達はその心臓部の〝結晶〟を眩く輝かせて〝爆散〟する…しかし、それだけに終わらず、次の瞬間、土煙から〝黒い何か〟が姿を表し、化物へと肉薄した。
「〝土塊融合〟――〝土塊の人狼〟!」
「――〝無数の核〟と骨肉の〝土塊〟を再編して構築する〝上位魔導機〟…それの構築も…〝凄まじい〟」
三者三様に、新たな逸材へと白熱する…そんな中で…ただ一人、〝最奥の座〟に座して黙する男は…苛烈な試練の中で唯一の〝虚無〟を見る。
「『……』」
「………」
其処に居るは一人の男、怪物の切り離された肉体を〝観察〟する…ただ一人の〝非戦闘者〟…ソレは此方と目を合わせてはいない…だが〝観ている〟…どういう訳か此方を〝観ている〟と感じる…。
「『……何者だ?』」
その男はそう…一人、沈黙の思考を巡らせ…そして、何か思い付いたのか…その目からは〝警戒〟が取れる……その些細な〝変化〟を視認出来たのは……〝ただ一人〟――。
(ふむ……何か〝企んでいる〟な?)
解析を片手間に、私は彼等を観察する…前座の三人は注意は必要だが要警戒では無い…だが、〝彼〟は別格だ…。
(〝物陰〟で姿が見えないのかと思ったが…違うね…逆だ)
〝暗闇〟を纏っているから〝姿が見えない〟……おまけに、常に満ち渡る〝濃密〟な魔力に覆われて〝彼の魔力量〟を測れない。
〝未知の敵〟程恐ろしい物は無いね……兎も角。
『――〝知恵〟、〝紅葉〟…〝充分〟だ』
今は眼の前の〝彼等〟を処理しなければ…。
「「ッ――〝弱点〟は?」」
私の報告に、彼等が視線を向けて問い掛ける…〝弱点〟、そう〝弱点〟だ…。
『今〝見せる〟――「〝■§¶€#$〟!」』
私はそう言い、土塊のゴーレムを足場に化物の眼前まで肉薄して、そう〝未知の言語〟を紡ぐ…私の行動は、凡そ周囲の人間には理解されないだろうし、理解出来ない〝言語〟だろう……だが。
「『―――〜〜〜ッ!?!?』」
眼の前の〝蠍の複合獣〟には〝効果〟は有った…〝彼女〟は先程の〝狂乱〟から一変し…驚愕と困惑に満ちた様子で私の方を見て呆然とする…。
「――〝此処〟だ」
――ドッ――
その一瞬の隙を突いて、私はその蠍の化物の顔の上に伸びる人型の胸部に〝腕〟を減り込ませる。
「『――アァッ、ヤメテッ』」
「〝##€■§〟――〝起動〟」
そして、その胸部から腕を引き抜くと…化物を蹴って距離を取る……その瞬間。
――ドパッ――
化物の〝核〟――その一つである〝人型の核〟が破壊され…化物の身体を抉るような破壊痕が残る……其処には。
――キラッ――
宝石の如く輝く……緑の血に塗れた〝化物の最後の核〟が微かに露出し…再生と共に埋もれ始めていた……。
「『――〝二人共〟』」
そして……私が呼ぶよりも早く…紅葉の〝剣技〟と知恵の〝ゴーレム〟が、その核を覆う骨肉へと鋭く重い…〝致命の一撃〟を見舞う……そして。
――パキンッ――
〝化物〟の死と同時に、我々を多い囲っていた〝土の虫籠〟は砕け散った…。




