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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第一章:謎だらけの教職者
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人参と豚と狩人

――ギィィッ――


「ッ――!?…こ、此処が〝夜門〟…?」


先すら見えない〝扉〟の先を進み…刹那、広がる〝世界〟に俺は震えた声でそう言葉を漏らす。


あたり一面、出鱈目に張り巡らされたパイプ…粗雑に置かれた廃材に腐ったゴミ…そんな何処にでもある様な〝棄てられた工場〟に思わず尻込みしてしまう。


何故ならば、そんな有り触れた世界を明確に〝非日常〟へ塗り替える…底冷えする様な冷たい雰囲気で満ちていたのだから…。


「ッ…出口が…!?」


そんな〝異様〟に背後を見た…其処には〝出口〟何て跡形も無く…背後には何処かへ続く道だけが伸びていた。


「ッ――いや、いやいや…何ビビってんだ俺ッ、コレは〝チャンス〟だ…!」


己に転がり込んできた〝好機〟だ…名家出身の俺を正当に評価しない〝八咫烏〟の連中も、俺が〝夜門〟を除去したと成れば評価せざるを得ないだろう…。


「ックフフ!…そうだ、俺は〝優秀〟何だ…出来ねぇ訳がねぇ…!」 


そう思えばこんなチンケな廃工場なんざ怖くも何ともねぇ…。


「出て来いよッ、妖魔共ォ!!!」


廃墟の中を、俺の言葉が響き渡る……。


――ドドドドドッ――


「ギシャァァァァァッ!!!!」

「フシャァァァァッ!!!!」

「「Gyuuuuuuuuu…!!!」」

「ハッ、数だけは多いな畜生共が!――だが!」


――バッ――


その男はそう言い、その顔をニタリと歪ませてその銀の指輪の嵌められた手を前に出し、言葉を紡ぐ。


「〝爆ぜろ〟――〝爆塵〟!」


――カッ!――


その言葉と、魔力が指輪に集約され…そして男の手から魔術陣が現れた…その瞬間、莫大な閃光と同時にその場から〝音〟が消える――。


――グラグラグラッ…――


男はその光景に、爆発が生み出した炎の先を見て高笑いしながら言葉を吐く。


「ハッハハハッ!…弱い弱いなぁ雑魚共がァッ、この程度じゃ俺の玩具にもなりゃしねぇぜ!!!」


その声は静まり返った工場に響き渡る…その言葉へ、返答は何一つと帰っては来ない…当然だ、その言葉に答える存在は其処には〝居ない〟のだから。


「ハッ、あの雑魚野郎に目にもの見せてやるぜ…この〝夜門〟を潰し終わったら土下座させて謝罪させてやる…あぁ、愉しみだ♪」


男はそう言い、警戒する素振りも無く先へ先へと進む…。


『……』


その光景を、背後の〝影〟から…金の双眸は〝見つめて〟居た…。


『〝ニャァァァ〟』


そして一声鳴く……その声はその異界の中を駆け巡り…そして、その後に周囲からワラワラと〝魔獣〟達が一点目掛けて駆けて行き……その〝双眸〟の主は闇の中に溶け消えて行った。



○●○●○●


「よっと…大丈夫かい?…〝お嬢さん〟?」

「迷惑掛けてごめんねぇ魔術師さん」


――シュタッ――


「はい到着、もう安全だよ少年?」

「ママ!」

「道弘!…あぁ、有り難う御座います!」


――ドサドサッ――


「全く…避難勧告出てるんだから喧嘩してないで避難したまえよ全く!」

「「「「……(ピクピクッ)」」」」


避難所に逃げ遅れた老婆、逸れて迷子に成った少年、警告に従わず喧嘩に明け暮れる不良集団を丁寧に…或いは半ば無理矢理に避難所に送る事暫く…漸く周辺の逃げ遅れを確認できなく成った私は〝夜門〟の元へと進路を変え、進んでゆく…序でに字波君の経過報告を聞いて。


「『――もしもし?…此方は近隣住民の避難を終えた所だよ…何時頃に到着するんだい?』」

「『速いわね!?…まだ〝10分〟も経ってないわよ?』」

「『そりゃあ救助だけなら簡単な話さ…でだ…私的にはそろそろ〝夜門〟の侵食が活発化する頃合いだと思うんだが…どうしようか?』」

「『……待って、〝相方〟は?』」

「『勝手に〝夜門〟に入っていったよ…無論止めたよ?…止めた上で強行されちゃ同仕様もないだろう?』」


私は事実を述べ、そう言うと字波君は少し沈黙し…そして続ける。


「『取り敢えず、私は後5分で到着するわ…それまでは貴方の判断で突入するかどうか判断して』」

「『了解…なるべく早くお願いするよ、僕はか弱い研究者だからね』」

「『どうかしらね』」


そうして軽い問答の後に通話を切り、私は〝夜門〟の観測と共に早足で向かう。


「依然として〝夜門〟の侵食は続いている…がしかし彼が入る前よりは緩やかだね…ふむ…派手に暴れているようだが〝そろそろ頃合い〟かな?」


――ギィィッ――


そして、閉鎖された廃工場に飛び込み…一片の躊躇も無くその足を〝異界〟へ踏み込んだのだった…。


「うわぁお…コレは中々熱烈な歓迎かな?」


そして…入ってそうそう映り込んだその〝光景〟に思わずそうツッコミを入れてしまうのだった…。



●○●○●○


「チッ!…うじゃうじゃ湧きやがって!」


――ズドォォンッ、ドンッドガァァンッ――


「「「「ギシャァァァァァ!!!」」」」

「しつこい!」


群れ、迫る魔術へ何度目かの爆撃が撃ち込まれる…その爆撃の中で男は…〝安土大晴〟は苛立ちと焦燥感に舌打ちする。


「チッ!…」

(どんだけ居やがるコイツ等は!?…クソッこのままじゃ魔力が保たねぇ…!)


先程まで余裕綽々な様子で調子良く魔術を放っていた姿は何処へやら、男はそう言い最低限の魔術でどうにか周囲の魔獣達を牽制してゆく。


「ッ…!」

(このままじゃ…死んじまうッ、それだけは冗談じゃねぇ…!)


男の内には、今や明確に浮かび上がる〝死〟と言う可能性がチラつき…男の集中力を削いで行く。


そうこうしている間にも魔獣達は湧き…そしてその牙を爪を男の肥えた腹へ突き立てんと迫る……そしてとうとう。


「クソッ、コレでッ…〝消し飛べやぁ〟!!!」


男は今残る魔力の大部分を用い…強烈な〝爆撃〟を食らわせる…すると。


「ハァ……ハァッ……」

『………』


――ゾロゾロゾロゾロッ…――


周囲の魔獣達が〝止まる〟…そして止まって暫くしてその群れはまるで波が退く海の如く、後退り…闇に溶ける。


「ハァッ…ハァッ……ハッ、ハハハッ!……どうだ、ざまぁ見やがれ畜生共!」


脅威は去った…そう思い、男はそう強がりを言い…深く息を整える…その表情は死が遠ざかった事への〝安堵〟で満ちていた。


「ハァッ……だが、この俺も魔力が消耗し過ぎちまった…取り敢えず、何処か、〝出口〟か…休める場所……を……」


そしてそう言い、〝安土大晴〟は来た道へ踵を返し…出口へ進もうとした…その瞬間。


――ジィィッ――


「……は?」


その、〝金の双眸〟を…殺意に血走った〝金の瞳〟を見て…間の抜けた声を漏らしてしまう。


――ペタッ…――


その瞳を見た大晴は、その身を硬直させ立ち尽くす……まるで蛇に睨まれた蛙の様に…その〝蛙〟を見ながら…〝蛇〟はその存在を徐々に顕にする。


「あ…嘘だ…まさか……」


其処で男は気付く……その、同仕様も無い〝事実〟に…。


魔獣達が〝去った〟のは…己の魔術に恐れを抱いたからではない…〝コレ〟へ恐れを抱いていたから〝逃げた〟のだと。


そして、もう一つ……同仕様も無い程に手遅れな、その〝事実〟にも…〝気付いてしまった〟…。


何故、無尽蔵に思える程に魔獣達が迫って来たのか…その理由…〝己を消耗させる為〟…〝抵抗する武器を奪う為〟に…〝コレによって仕向けられた罠だった〟…と、言う事にも。


ソレに気付いた瞬間…男は身の毛のよだつ恐怖に駆られ〝叫ぶ〟…。


「あぁ、アァァァァッ!?!?!?」


しかし一歩、一歩と〝ソレ〟は近付いて来る……まるでその絶叫を楽しむ様に…。


「は、〝爆ぜろ〟!…〝爆塵〟!!!」


その言葉に、なけなしの魔力が指輪に集う…そして、ソレが収束し…いざ放たれようとした瞬間。


――ベチャッ――


男は一瞬…何が起きたのか分からなかった…魔術が消えた…消えてしまった…そして、何かが〝落ちる音がした〟…その音に、まさかと下を見て…男はソレな何なのか〝知った〟…。


「ッ〜〜ギヒィィィ!?!?」


ソレは〝己の手〟だ…切り落とされた手だ…ソレを認識した瞬間、男はその痛みに膝を降り…痛みに苦悶の叫びを上げる…。


『グルルルルルル…』


そして、跪く形で空を見上げ…男は絶望を知る…。


其処に存在する…〝化物(己の死神)〟のその悍ましい姿形に……。


そして化物は、その口角をグチャリと歪め……己の〝肉〟へ牙を突き立てた…。

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