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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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同胞の儀式

――カッカッカッカッ――


一目見て…私は再確認する。


「「「……」」」


この〝組織〟の〝歪〟を。


組織に欠かせないのは〝主従関係〟だ…従は主に忠誠を誓い、主は従を指揮する…双方が双方共に利益と損益を比較して役割を熟す事が〝健全な組織〟の基本構造だ…しかし。


――『――――』――


「〝黒羽〟様、以前仰られていた〝エデン・ガードナー〟の調整案です」

「お、おぉ…す、素晴らしいですよ皆さん…で、ですが僕は新たな〝同志〟をリーダーや幹部達と会合させなければ行けませんので…後で、拝見致します」

「ッ!――はい!」


見た所では、部下と幹部の上下関係こそ有れど〝互いを尊重し合っている〟風に見える…しかし。


(〝真っ黒〟だなぁ…コレは)


私達の〝目〟には…その白く造られたハリボテの皮の奥…其処に滲むドス黒い〝悪性〟が目に見える。


下っ端は幹部へと盲目に近い忠誠を捧げ、幹部は長へと狂信的な忠誠を誓う…損得を無視し、自己犠牲を神聖視し、組織の歯車に仕立て上げる手腕は恐ろしく、ある意味で優秀だ…。


――そして。


――ギギギギギッ――


「『〝選別〟御苦労…〝死霊者〟よ』」

「は、ははぁッ…有難き御言葉、です…!」


そんな歯車の〝王様〟は…厄介な事に〝悪魔絡み〟だ…。


――ガクンッ――


視界に映るのは五つの〝椅子〟と〝三人〟の〝魔術師〟…そして、その奥から凄まじい〝魔力〟を放射する〝何者か〟…。


『フフッ…ただの魔力放射でこの〝圧力〟か…とんでもないな』


私達三人はその圧力を身に受け、そう反応する…身に這い寄る恐怖の感情が身体を鈍くさせ、焦りが思考を妨げる…だが、その程度の影響化で済んだことは〝幸運〟だった…問題は。


――ハァッ、ハァッ、ハァッ…――


この〝圧力〟に負け、膝を付いた彼等の方だろう…その恐怖が心身を満たし、四肢を縛り…呼吸でさえ〝封じられる〟筈だ…。


――キィィンッ――


「『ほう…』」

『それ以上は無意味だろう、そろそろその魔力を納めておけ』


私がそう言い、彼等の口に〝風のマスク〟を嵌めてやる…すると、呼吸器に半ば無理矢理送り込まれた酸素が彼等の窒息を打ち砕く。


「『嗚呼、済まないな…最終選別は我手ずから行うのだが…何時もやりすぎてしまうのだ……しかし、素晴らしい…よもや我が〝魔力〟を受けて尚、他の者を救う余裕が有るとは』」


その男は生憎と〝暗闇の奥〟に居るので声だけしか届きはしないが、その心には少なくとも悪意は感じなかった…この状況では大してアテには出来ないが。


「『うむ…此処に来た以上は最低限我々の〝同胞〟としての資格を有していると理解した…が、しかし…だ』」


そんな彼はそう言い、奥で何かを〝動かす〟…その瞬間…。


――ドドドドドッ――


彼等言う所の我々〝資格者〟を囲う様に無数の〝土の壁〟が押し上がる。


「……破壊は無理です…ですわね…」

「そうらしい…で、ただ閉じ込めた…って訳でも無さそうだ」


全員がその壁の中に囚われた、その囲いが完全に作り終えられた…その時。


――ブゥンッ――


滲み出すように、〝黒い魔術陣〟が浮かび上がり…〝魔力を噴き上げる〟…。


「『君達には〝役割〟を与えねば成らない…皆一様に〝兵士〟として運用する…と言う訳にも行かん、魔術で敵と戦う事が得意な者も入れば、魔術研究に才を開く者も居る…言わばコレは〝多様性〟の確認だ』」


(〝多様性〟…ね)


洗脳支配が当たり前の割に随分と耳心地の良い言葉を使う……いや、詐欺師ならばそれが常套か……問題は、だ。


「『〝仮に〟……〝死んでしまおうが〟問題は無い…〝死霊者〟で有れば〝早期の死体〟を〝蘇生〟出来る…安心して〝死ぬ気で挑む〟が良い』」

「「『……来る!』」」


凄まじい〝瘴気〟が膨らみ…その〝召喚陣〟を覆い隠して脈動した…その瞬間。


「……へ?」


――ドチュッ――


瘴気の中から、一本の〝何か〟が飛来し…触媒を構えていた魔術師の女性の頭を吹き飛ばした。


(〝早い〟…〝生態反応〟の比較は…ヒグマ何て目じゃないな、やはり〝複合獣〟か…)

(それだけじゃない…今のは確かに〝一番警戒心の薄い者〟を狙った…コレには〝知性〟が有る)


『「〝断ち切る風〟」』


――ブツンッ――


早くも1名が脱落し、その死体を穿った〝何か〟を切断する…すると。


――「『ギシャァァァッシシシシッ!!!』」――


その〝何か〟…いや、〝尾〟の切断面からは緑色の体液を噴き出し、暴れ狂う様に瘴気が撒き散らされて〝その化物〟は姿を表す…其処に居たのは。


「ッ……何でもかんでも繋ぎ合わせれば良いってもんじゃ無いぞ!?」

「……醜い、ですわ…」


予想通りに〝複合獣〟…しかしその構成には、無数の獣型妖魔とベースの〝蟲型妖魔〟…そして。


――「『ヤアァァァァァァッ!?!?!?』」――


金切り声を上げる…〝人間〟だった…。


「『嗚呼、私の顔、私の目!――イタいイタいイタいッ!――嘘よウソッ…コンナ醜い化物ッ…何で、ナンデッ私ナノヨォォォッ!?!?!?』」


……嗚呼、やはり〝悍ましい〟…半狂乱な魂を無理矢理繋いで居る…このやり口は見覚えしか無い…。


「『ユルサナイッ、カエセッカエセカエセェッ――私の顔をカエセェェェッ!!!』」


まさしく、〝悪魔の所業〟だ。


『――〝2人〟に〝命令〟――〝私〟の護衛を、解析を開始する』

「「ッ――時間は?」」

『〝2分〟だ』

「OK……カップラーメンよりは早く済むかッ」


そうして唐突に始まった…〝選別〟の最終試練…業の化物との殺し合いが…。


「〝製錬〟――〝魔鋼の刃〟…〝知恵〟」

「〝隆起せよ〟、〝土塊の兵士〟……私は〝フォロー〟と〝護衛〟を、〝紅葉〟は遊撃をお願いしますわ」

「了解した――〝身体強化〟…〝野戦者の足技(レンジャー・ステップ)〟」


それと同時に2人は駆け出し、少し遅れて生き残りの魔術師達も魔術で応戦する…そんな〝虫籠の戦争〟を、その飼い主達は〝楽しげ〟に見据えていた…。

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