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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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舞台裏の下準備

「――と言うのが〝事のあらまし〟だよ、理解してくれたかね?」


そして場面は逆戻り、私は眼の前の彼女へとそう告げる…無論〝深い場所〟は伏せた上でだ。


「――話は理解しました、しかし」


私の説明に、彼女は一定の理解を示し…しかしその目を務めて〝非情〟に維持しながら〝侵入者〟である私を睥睨する…成る程、やはり彼女は〝逸材〟だ。


「待った、〝証拠が無い〟、〝確証が無い〟、〝私が重大な犯罪を犯すかも知れない〟、懸念点は数多く有り、規範が〝生死を撫でる〟君達の城ではおいそれと動く事がままならないのは事実だ…だから〝こうする〟」


私はそう言うと、1つの〝圧縮術式装具(プログラム・スフィア)〟を取り出して起動する。


「〝宣誓〟する、今この場で告げた〝惨劇〟が鎮圧及び無害化されるまでの間、〝無関係者及び発生地が所属する国家〟への〝敵対的行動〟は一切起こさない……〝宣誓を破った代償は〟――〝自らの死〟を以て〝代償とする〟と…〝保証人〟は――」

「ッ!?――待ちなさいッ!」


そして、彼女の静止を聞くより早くこの〝契約〟を終わらせ、彼女を指差す。


「〝日鶴恵梨香〟――〝君〟だ」


その瞬間、〝消耗型魔術媒体〟から噴き出した〝契約魔術〟の術式は私の身体全域を這い回る〝制約の枷〟と成り、彼女の手に〝保証人を示す瞳の紋様〟を刻む。


「さて、国家所属者の君ならばこの〝宣誓〟がどれ程の絶対性かは理解してくれるだろう…そして今から私は幾つかの〝規則違反〟を行うが、容赦して欲しい…少なくとも〝事が終わるまでは〟…ね」


私はそう言うと、その身体を〝修復〟しながら立ち去り〝妖魔の収容房〟へと向かう。


――カッカッカッカッ――


「『〝セキュリティ〝ロック〟…解除キー〟と〝生態データ〟を提示して下さい』」

「ッ待ちなさい〝不身孝宏〟!…自分が何をしているのか分かっているのですか!?」

「分かっているよ……分かった上で〝こうしている〟のさ」


私は監獄長へそう告げながら、眼の前の重厚な封鎖〝扉〟へと突き進み――。


「〝我、其処に在って(ホロウ・ゴースト)其処に無き故(・シュレディンガー)〟」 


その扉を〝擦り抜ける〟…いや、扉だけでは無い…床も地面も通り抜けながら、私はこの〝監獄の底〟を目指す。


(――字波君と言う〝最強の手札〟が有りながら、此処に妖魔が収監されているのには理由が有る)


それは〝極めて厄介な性質〟を持ちながら〝ある種の不死性〟を持っている物か、或いは――。


彼女(字波君)でさえも破壊し得ない〝強度〟を持っているかだ」


そんな代物はそう多く無いだろう、〝純血の吸血鬼〟からその〝存在全て〟を継承した彼女は、〝混血の吸血鬼〟で有りながら〝純血と同等の力〟を秘めているのだから。


しかし、何事にも〝例外〟は存在する…。


例えばそれは〝彼女と同じ手法で至った妖魔、魔人〟で有ったり。


不死性を持つ者もそうだ、殺せはしても活動停止へ追い込むには不死性を無力化せねばならない…そして。


「今〝必要〟なのはソレじゃ無い」


此処に始めて足を踏み入れた時感じた小さな〝気配〟…。


この地に馴染み無い者の〝異質〟の気配…今この一件に必要なのは〝ソレ〟だと〝私の悪性〟が囁いている。


アスタロトの記憶によれば、この気配には数少なくも覚えが有る。


『悪魔に仇なす物』

『しかし神の創造に無く、人の手により造られた〝狂気の沙汰〟』

『父母を悪魔に殺された幼子がその一生涯を全て捧げて生み出した〝無名の呪物〟』


得られた文献はこの程度しか無く、その存在は抹消されたのかどの場所にもソレらしい文献は無い…どの〝土地〟にも根差さない放浪の〝呪物〟…。


――ゾッ――


「ッ――随分と〝気が立っている〟ね」


幾つ有るかさえ定かに無い〝悪魔だけがその存在を知る忌みの異物〟…敢えて、悪魔の呼び名で言うならば――。


「『〝名も無き悪魔狩りネームレス・エクソシスト〟』」


だろうか……この心中に恐怖を植え付けられる感覚…凄まじいね。


「いやぁ、はじめまして〝無名の遺物〟君」


――ゾッ――


私は眼の前に鎮座する濃密な〝殺意の発現者〟にそう言い自己紹介する……刹那。


――ズパンッ――


その殺意が〝実体〟を以て私の身体を寸断する…生み出された経歴から鑑みればまだ首を狙わないだけ有情かな。


「寛大な処置に感謝しよう……しかし悪いが私は今から君を怒らせなければ成らない…上からお冠な〝監獄の女帝〟が来る前に、私は〝事を済ませなければ行けない〟のだよ、悪く思うなよ?」


私は寸断された身体を繋ぎ合わせながら、眼の前に鎮座された、封印結界の中の〝長剣〟を掴む…その刹那。


――ズバババババンッ――


私の手足が斬り落とされていく、否…手足に留まらず腸、胴体までも刻まれる様な痛みに襲われる。


「――君の憎悪は〝理解〟したとも」


しかし私はその手を離さない…私を憎悪の刃で斬りつける〝ソレ〟を強く強く握り…私は己の〝全霊〟を魂から引きずり出す。


――ドロッ――


「『ダガ、喧シイ――〝黙ッテ従エ〟』」


私は耳鳴りの様に不快に騒ぎ立てる憎悪の剣にそう呟きながら、その剣に己の〝魔力〟を込める…その瞬間。


――スルッ――


その剣から〝鞘〟が抜け落ちていった…。



○●○●○●


ソレは〝悪魔を殺す〟為だけに造られた存在だった…必要な物は殺す為の〝刃〟と悪魔でさえ〝食い尽くせない憎悪〟…己の全存在はソレだけで構成されていたと〝ソレ〟は理解している。


何世代とそう存在し続けた…魔も神も失せた時代でも、ソレは古びた骨董品として存在し続けた。


世界が逆さに戻った時…それは偶然にも〝魔を殺す刃〟として汎ゆる土地を回っている最中に人の手によって此処に辿り着いた。


歯痒くも沸き立つ憎悪は、眼の前に居る同じ境遇の〝憎むべき敵〟を殺す事も叶わず、ただ悪戯に憎悪を燃やし続けた…。


そして今……己の憎悪が〝魔〟を喰らわんとしていた…その筈だ……なのに、〝何だコレは〟?…。


――ギチギチギチギチッ――


〝悍ましい〟……己が見た中で最も〝悍ましいソレ〟は、確かに〝魔〟であった…だが、己の〝憎悪〟はコレを〝人〟だと言う。


巨大で濃密、〝醜悪な蟲の集合体〟…継ぎ接ぎの獣の様で獣で無い姿…〝狂気の怪物〟…今目に映るのはソレだ…ソレが己の中へ入り込んでくる。


〝従え〟……〝従えばお前の憎悪に意味をやる〟


そう告げる〝狂気の主〟は…唾棄すべき〝悪性〟で有りながら、同時に己の心が融解するのを感じる…。


そして愚かにも、微かにでも……その〝悪性〟の言葉に〝歓喜〟した…それは良くも、悪くも…己の〝現在〟を揺るがす事に成ってしまったのを…己は…〝憎悪の復讐〟たる〝己〟は知覚してしまったのだった。



●○●○●○


――ガコンッ…ギギギギギッ――


「――ッ!?」

「――思っていたより〝早い〟ね…」


開け放たれた〝封鎖扉〟の中で、そう言う〝男〟を私は見た…。


――カチャッ――


「〝一つ〟……処罰は受けよう、しかし〝コレの返却〟は出来ない…コレは私に〝必要〟だ」


その手に握られた〝異様な剣〟を見た直後に、私は理解した…いや、〝私達〟は理解した。


――ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ――


この男は……〝不身孝宏〟と言う魔術師は。


「そして〝約束〟する…この分の〝贖い〟は必ず果たすよ…だからその銃器を下ろし給え…〝コレ〟が私に従っているのか確証が無い以上…〝暴走〟するかも知れないからね」


何れ、〝敵味方〟かは分からないが〝間違い無く〟…何か、〝大きな災害〟を振り撒くだろうと…その、凄まじい〝憎悪〟を纏った〝剣〟を観る〝瞳〟を見て、そう直感した…。

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