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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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正義と言う熱病

ある男が居た、その男は同仕様もない程に魅入られた……〝生命の創造〟と言う〝神々の御業〟に。


まだ人が〝世界が砂場の一(宇宙を形成する)粒の小石(小さな一要素)〟と知らなかった頃にその夢を見た男はその〝狂夢に果てた〟…。


人は人を一人では造れない、その構造は〝生命に入力(プログラム)された生命の因子〟であるが…その意味では〝生命の創造〟と言えただろ。


しかし、男はソレだけでは満たされなかった…男は願った、望んだ、求めた、溺れた…〝単一の己による生命の創造〟を。


狂った賢者とは恐ろしき物で、男はただ刹那に夢見た〝業〟の為に汎ゆる財貨を薪に焚べた、地位も、名声も、金も、富も、愛する者も、愛した者も、憎んだ者も、憎まれた者も…。


コレが或いは、人がまだ溶けた鉄の先を知るより前ならば、男は此処までに狂わなかったろう。


コレが或いは、空の摩擦が神々の怒りで有るとされていた時ならば、男は此処までに〝誤らなかった〟だろう。


なまじ人々が〝神を暴く知恵(偶像の証明)〟、その先触れに触れてしまったが為に、その先触れの先の先を…賢者が〝思い描けてしまった〟が為に、男は〝賢者〟から〝愚者〟へと成り果てた。


だから、コレは悍ましい…〝人が生んだ狂気の子〟だ。


肉を繋ぎ、歯車の鼓動を打つソレは…確かに〝生命〟で、確かに〝怪物〟だった…。


夢想の怪物、〝惨めな者〟…その業は決して晴れてはならず、しかしその業を裁く術を〝審判者〟は知らず……当然であろう。


紙束の中の者を果たして、どう裁けと言うのだろうか?……。





●○●○●○


「――嗚呼、だからこそ〝面白い〟、〝不愉快だ〟、〝興味深い〟、〝狂っている〟!!!」


悍ましき哉、恐ろしき哉!…沸き立つ程に、煮え滾る程に〝吐きそうだ〟…!。


「生命、生命かコレが!?――その様は醜悪だ、滅茶苦茶だ、しかし優美だ、されど穢らわしい…人の粋だ、人の粋、文字通り、言葉通り、意味通りにコレは〝人々の醜悪の粋〟だと私は謳おう…そして!」


私の声が虚ろな世界に響く…この魂と言う私の根幹が善悪二つの感情が私の口と脳髄を支配する。


コレを〝善たる私(不身孝宏)〟は〝悍ましく、唾棄すべき悪〟と糾弾しよう。


コレを〝悪たる私(アスタロト)〟は〝素晴らしく、悦ばしき美〟で有ると称賛しよう。


相反し、双極化する私の心はこの世界に満ち溢れ…二つの相反する意思が〝同じ結論〟を提起する。


「――即刻、この〝怪物〟を破壊しよう!」


惨たらしく、優しく、丁寧に粗雑に…〝私の矛盾〟が満たされるまで。


「さぁ、臨床実験の始まりだ…〝Mr.フランケン〟…死ぬ気で攻撃し、死ぬ気で守れ…尤も――」


私は此方を視認し、警戒心を抱く彼へそう〝挑発〟を込めて嘲り告げる…その挑発は彼の精神をヤスリの様な不快感で撫で付け、彼を〝その気〟にさせる…しかしその瞬間――。


――ドンッドンッ――


「君への攻撃の手を緩めるつもりは毛頭無いがね」


彼の顔と脚に空いた二つの〝風穴〟が、彼の行動を許す事は無いが。


「『Giryyyyy!?!?!?』」

「さて――君は何なのか…取り敢えず一つ分かったよ、君は〝人形〟だ…それは君の生来の地位を表しているのか…其処はおいおい君達を唆した〝人物〟に問うとして…だ」


――キュィィンッ――

――ドゴドゴドゴッ――


指を這わせれば無数の魔力の塊が生み出され、同時に飛翔し〝怪物〟の四肢へ撃ち込まれる、衝撃に浮かぶ身体を隆起する大地が天高くへ放り上げ…天に寄り集まった巨岩が怪物を押し潰す…しかし、それでも〝怪物〟は生きている…以前と変わりなく、しかし以前以上の殺気を放ちながら。


「Gagagagaga!!!」


その岩を容易く破砕し、肉に杭が埋め込まれた腕を〝殴り飛ばす〟…さながら、〝ロケットパンチ〟の如く。


――バチバチッ――


「思考回路は〝獣以下〟だと言うのに、その一挙手一投足は小賢しい〝悪辣な人間〟のソレだ」


――ガッ――


その腕を〝黒腕〟で受け止めると、その刹那怪物の腕から〝カチリッ〟と妙な音と共に何かの作動音が響き渡る…すると。


――ドバッ――


響き渡るのは怪物の肉を突き出して迫る〝鉄の罠〟…其れ等は伸縮する身体で私を絡み付ける様に迫り、その〝縄状〟の身体に付属した剃刀の様な鋭い刃は私の枯れた肌を引き裂かんと舌を鳴らす。


その所業はたかが〝獣〟には成せない行動だった…それは確かだ。


「この矛盾点への解法はつまり…〝生物の根幹の書き換え〟…〝習性化〟だ」


雛が初めに見た生命を〝親〟と認識する様に、生まれた子が生まれた環境に沿った言語を〝主言語〟にする様に…生物が持つ〝常識〟の植え込みだ。


人が二足で歩く事を疑問に思わない様に極自然に彼等は〝己の身体の機能〟を使い熟す…そう〝造られている〟…だから成立する…〝理性無き邪智〟が。


「――フフッ、コレが〝正義〟か…成る程、やはり君達は〝狂っている〟よ」


〝正義〟とは紛れも無い〝善〟だ、正しく義を成すとは、素晴らしい事だ…嗚呼全く…〝馬鹿馬鹿しい〟…。


『〝正義〟とは〝悪〟とは何なんですかね〝孝宏教授〟』


何時か…遥か昔に字波君とこの手の話題で遊んだ事を想起する…あれから文字通りに色々有ったが、それでも彼女の答えは変わらなかった。


彼女曰く『〝正義〟とは〝無害平穏〟で有り、〝悪〟とは〝有害無法〟で有る』らしい。


成る程彼女らしい〝価値観〟だったな。


『――それで、〝孝宏教授〟はどの様な〝定義〟なのでしょうか?』


彼女の問いが今、眼の前の〝冒涜の怪物〟と重なる…その時も今も、私の〝答え〟は変わらない。


〝正義〟と〝悪〟等馬鹿馬鹿しい…〝何方も同じ〟だ、分けて考える必要性も無い。


「『〝正義も悪も〟……それ等しく〝熱病〟だよ』」


価値観の相違による対立こそ有れど、物事を成す者達は皆等しく同じ病を抱えているのだ、〝熱病〟、〝熱狂〟或いは〝盲信〟とも言い換えられる物だが。


「全く…〝人間〟は何処までもこんな〝つまらない玩具〟に御執心なのだねぇ…」


制御出来ない〝盲信〟は最早〝有害〟だと言う事に何時までも気付かないのだから。


――ドクンッ――


「――さて、さて、さて…コレが君達の〝正義〟と言うならば私はソレを〝嘲り笑おう〟…冒涜な正義で有ると、〝狂った賢者(フランケンシュタイン)〟へ向ける眼差しの如く…憐れな者、惨めなクリーチャー(怪物)…その配役に転げ落ちた君の〝結末〟はどうでも良い」

「Gigaga!?!?」


私の腕に刻み付けた〝刻印〟が起動し、鈍足の怪物を無数の鎖が拘束する、ソレを引き千切ろうと足掻く怪物へ歩み寄りながら、私は彼へ助言する。


「〝無駄な抵抗〟だよ君、君では〝知恵の鎖〟は解けない…力で解ける様な鎖を〝怪力〟の象徴の様な〝怪物〟に使う訳も無いだろう…」


締め付けられ、芋虫の様に手足を身体に縛り付けられる彼へ跪き…私は醜悪な彼のくすんだ瞳を覗き込む。


「後は君の〝魂〟に聞こうか…君の後ろで君の糸を引く〝黒幕〟の形を」


――ジィィィッ――


藻掻き、呻く彼の〝咆哮〟が次第に〝絶叫〟へと変わる…煩い上に失礼だね君は…人を〝怪物〟の様に……。



●○●○●○


「『……』」


白き従魔は沈黙していた…響き渡る絶叫に耳を傾けながら…沈黙し、〝硬直〟していた。


――カサカサカサッ――

――ズオォォォォッ――


白き獣はただ、その光景を傍観していた…憎しむ者で有りながら、ソレ以上に…しかし無意識に抱く〝恐怖〟を胸に…〝見ていた〟…。


――『※※※※※※※』――


〝人の皮〟を着た男の背から滲み出す、ドス黒く〝醜美〟を伴い未知の言語を呟く…〝巨大な力〟をただ……。

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