少女教師と少年先生
――ガチャンッ――
「――さて、諸君…先ずは講義の前に君達に紹介師なければならない人物が居る……そう、事前に告知していた〝学園交流〟において、私のクラスに配属される補佐教員の紹介だ」
探偵ごっこから2週間…特に捜査が進展する事無く、平穏な日々が流れていった…うむ、実に充実していたとも、研究、教鞭、研究研究研究……漸く味覚機能の改良が終わったお陰で食事を真の意味で味わえるのは素晴らしい…この研究が成功しただけで、旧研究室(学園属)で起きた〝事故〟について字波君から絞られた疲れ等吹き飛ぶと言うものさ……うん、あれは我ながら酷かった…まさか私が制作していた〝妖魔の生態調査資料〟が〝魔道書〟に成って妖魔の〝影〟が暴走するとは…原因は余り物のインクが切れたからと適当な妖魔の血液で代用した事だろう…ちょっぴり猛反省。
「え〜交流生諸君は今回の講義にて、意見交換の場を設けるつもりなので、其処で各位私の生徒達と自己紹介をして欲しい…さて、では早速自己紹介を頼むよ君」
私がそう言い教壇を逸れると、その中心に一人の…教員と呼ぶにはあどけない〝少女〟が緊張に身体を固まらせて教壇に上がる…大丈夫なのかね?…。
「はは、はい!…御紹介に預かりましたッ…し、白河来美です!…宜しくお願いしましゅっ!」
…大丈夫じゃ無さそうだねぇ。
「……まぁ兎も角、彼女はこの一週間我が学園の臨時教員として働く事に成っているので宜しく頼むよ…交流生諸君も、是非我が学園のあれこれを貪欲に学んで欲しい」
さて……軽い事前情報はコレ位にして……。
「では早速……今回の講義は〝魔法生物〟についてをしよう…そう、所謂〝魔導機〟や〝属性霊〟についてだ」
早速講義を始めるとしよう。
●○●○●○
「――古くは〝魔術師の下僕〟としての用法が多く、自我は無いものの命令を入力すれば魔力が尽きるまで命令に従い、単純作業等で人々の生活を支える事を目的に使われて来た…魔術師の〝召使い〟と言えば、より分かりやすいだろう」
教壇で孝宏先生が背後のスクリーンに映像と文字を投影する…その光景を見ながら、俺は俺の付近に座る〝交流生〟達に目を向ける。
「………」
皆が皆、先生の講義に集中している……様に見える…事実その態度は真面目な学生のソレで有り、傍目から見ても違和感は無い…だが。
『最近若い魔術師達の中で〝魔術主義〟が浸透しつつ有るらしい、お前も以前はその気が有ったが今はもう治った様だし…気を付けろよ、魔術主義には過激派が多い』
兄貴の言葉を思い出す……魔術界隈の〝名家次期当主〟として、それなりに魔術師と関わりを持つ兄貴の言葉、用心するに越したことは無いだろう。
(それに……)
――チラッ――
先生の声を聞きながら、尻目に窓の外を見る…其処には、複数の鴉が群れを成して空を飛び回り…〝妙な視線〟を此方に投げ掛けている様な〝気〟がした…。
○●○●○●
「いやー凄いですね此処の皆さんッ、まだ学生なのにもう〝魔導機〟を補助無しで造れるなんて!」
「一番簡単な〝土人形型〟なら、ある程度の知識さえ有れば誰でも作れるだろうさ」
「そんな事無いですよ!…〝魔導機〟の創造は魔術師見習いの中の〝難関〟の1つ何ですよ?」
「〝魔力操作〟と〝精度〟を確かめる試金石としてか…まぁ妥当な関門だね」
講義は終了して、私と来美君は雑談混じりに学園の通路を進む…いや、別に私が彼女を連れ回している訳ではなく、勝手に来ているのだが。
「……それより君、態々着いてこなくても言いのだよ?…まだまだ見て回りたい物も有るだろう?」
「いえいえ!…今日は〝孝宏〟さんに着いていこうかなと!…御迷惑でしょうか?」
そう言い小首をコテンと傾げる来美君…いや別に、迷惑では無いのだが…何故私を選んだのか分からないのだが……。
「――〝おやぁ?〟……其処に居るんはもしかして来美ちゃんやない?」
そんな風に彼女を見ていると、ふと私の背後からそんな男の声が響き渡る…その声と近付く足音に振り向くと、其処には一人の男が顔に笑みを貼り付けて近付いていた。
「それに、君は〝孝宏先生〟やん…いやぁ、字波理事長から聞いとったけど、ほんまに若々しいんやなぁ?」
「君は……確か……」
私が彼を見てそう言うと、彼は苦笑いを浮かべながらその細目を困った様に歪ませて自己紹介をする。
「嘘やん、僕一応皆に自己紹介したんやけど……まぁ良いわ…僕は〝如月秋久〟…〝貴導魔術師学園〟から来た臨時教員や…明日は宜しくな」
その名と所属を聞き、私は字波君から聞かされた警告を思い出す。
〜〜〜〜〜〜〜
『この〝貴導魔術師学園〟の〝如月秋久〟は注意しといて…要らぬ心配かも知れないけれど、此処の学園は〝魔術主義〟の連中が多い事で有名なの…』
〜〜〜〜〜〜〜
そう言えばそんな事を言っていたね……まぁ、警戒はするが、目立った動きが無いのなら、そこまで疑う必要も無いだろう。
「あぁ、宜しく…ふむ、折角だ…共に昼食でもどうかな?」
「お、ええの?…それじゃあ遠慮なく〜」
「来美君は……ん?」
私がそう言い背後の来美君を見ると、来美君が何処となく困った様な顔で立っているのを目にする…すると私の視線に気付いたのか、彼女は何処か余所余所しい雰囲気で言葉を紡ぎ始める。
「あ、私はその……実はお昼は先約が有ってですね!」
「ふむ……そうかね?……ではむさ苦しい男二人で昼食を食べるとしよう」
「ッ――また今度一緒に食べましょうね〝孝宏〟さん!」
そう言うと彼女はそそくさと我々を離れて広場の方へと消えていく…はて。
「君、一体何やらかしたんだい?」
「アッハッハッ…いやぁ、随分嫌われたみたいやねぇ…可笑しいなぁ、僕結構親切にしてたつもり何やけど…」
私の言葉に彼はそう言い、自分は無罪だとでも言いたげに両手を軽く上げる…彼女と何か確執を生む出来事が有ったのは確からしい…。
「まぁ良いさ、君達のあれこれ何かはどうでも良い……それより私は君達の学園について色々と聞きたい事が有るのだよ、食事のスパイスにトークと洒落込もうか」
「うん、ええよええよ?…仕事に趣味、恋愛、天気…お喋りは僕、大好きなんよ?」
兎も角我々は談話混じりに私の研究室へ向かい、昼食を共に摂りながらの楽しいお話に期待を膨らませる……そんな私達を。
「………」
可憐な少女が、何処か思い詰めた様な視線で見ていた事は…私には知る由もない事だろう。




