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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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絡まり合った糸は解けず

――ブブブブブンッ――


「――ファァァッ…うん、取り敢えず〝半分〟は〝調整〟出来たかな…後は〝彼等〟の領分だぁねぇ…いや、流石にこんな精密作業をぶっ続けでやるのは骨が折れた…」


作業を中断し、ソファに倒れ込む……精神的疲労の所為か、欠伸が止まらない…いや、3時間しか睡眠を取っていないのも大きな要因だがね。


「『こんな朝っぱらからガサゴソと、貴様はやはり根っからの〝探求馬鹿〟か?』」

「失敬な…これでも規則正しい睡眠を心掛けていたつもりだよ…まぁ、最近は〝妙な夢〟を見る所為で余り眠れないのだが」

(心当たりは有るには有るのだがね)

「――それよりも、君が起きたと言う事はもう6時かな?…それじゃあ私もそろそろ〝出勤〟の準備をしないとね…と、その前にだ、〝アル〟」


私はそう言い、私の研究所に入り込んだ白猫へ懐に納めていたソレを投げ渡す。


「『ッ……ンニャッ!』」


――ガリッ――


ソレを見ると、アルは可愛らしい鳴き声と共に飛び掛かり、投げ渡した〝黒い結晶〟を平らげると満足気に尾を揺らす…。


「『ニャウ……ンンッ……主よ、コレは何処で手に入れた?』」

「……昨日仕留めた大型の妖魔からさ、まだまだ欠片は有るから、また後でオヤツにしようか」


そう言うと、アルは沈黙しながら部屋を後にする…尾の揺れ具合から相当嬉しいのだろうと言う事は、彼の体裁の為に深く言及しないでおこう。


(しかし……うん、何と無く…〝見えて来た〟ね…この3つの事件が〝活性化〟した原因…)


三つの事件に共通する〝点〟…〝高度な魔術〟の痕跡…。


「〝消失した大量の魔道具〟…どうやって〝運んだ〟のか?……〝幾千匹の死霊〟は何の為に?…そして、〝行方不明者の成れの果て〟…其処で我々を〝監視〟していた〝誰かさん〟の正体とは?」


……まぁ此等は一度、頭の片隅に置いておこう…今は一度、本業と言う平穏に戻ろう。



●○●○●○


――パサッ――


「――お疲れ様〝孝宏〟、早速で悪いけれどコレを読んで」

「――休息何て無かった」

「?……」


私は此処に来て早々、溜息を吐く〝本物〟の孝宏を見ながら、小首を傾げる…一体何故、彼はこんなに疲れているのかしら?…。


「ふぅむどれどれ………む?…〝教育交流会〟?……他校の生徒と教員の遠征か…成る程、存外悪く無い事の様に見受けるが…」


そんな風に考えていると、もう資料を読み終えた孝宏がそう言い、私の前に資料を開いて置くと怪訝そうに一人の少女を指差す…其処には教員枠として名を連ねる教員と呼ぶには童顔な少女が指し示されていた。


「〝彼女〟………本当に〝教員〟かい?…若過ぎないかなぁ?」

「貴方が言うの?」

「私はホラ〝見た目詐欺〟見たいな物だし多少はね?…しかし彼女は何方かと言えば学生側じゃないのかね?」

「れっきとした教員よ、歳は21歳…見た目は幼いけど、此処の職員に引けを取らない優秀さよ」

「ほほぅ?…〝白河来美(しらかわくるみ)〟…この少女の様な人物は君がそこまで言うほどなのか…ソレは〝興味深い〟…うん、良いと思うよ、この試み……参加する価値は有りそうだ」

「………」


そうケラケラと笑う孝宏の〝視線〟はそう楽しげに歪んでいる目尻とは裏腹に、何処までも鋭く、冷たく〝一人の男〟へ目を向けていた。


「ソレに……こんなに〝唐突〟にこんな〝イベント〟を持ってくる意図も、色々と〝脳を刺激する〟」


其処には細い目に猫のような笑みを浮かべる一人の男とその男が所属する〝貴導魔術師学園〟の名と十数名の〝学生達〟の名簿が広がっていた。


「うむ、〝彼等〟の事は記憶しておこう…それで、要件はこれだけかな?」

「ッ…えぇ、そうね……折角だし何処かに食べに行きましょうよ、久し振りの外食も悪く無いでしょう?」

「勿論構わないさ…味覚機能を今弄っていてね…その検証にも丁度良さそうだ…何が食べたい?」


やがて、場の空気は仕事の張り詰めた空気から、穏やかな友人同士の空気に変わり、私達は談話しながら書類の山を片付ける…その頃には既に、日は高く登り始めていた…。




○●○●○●


「――皆、参集したか」


厳格を帯びた声が、怪しげな〝八つの水晶〟が円状に鎮座する一室に響く……すると、その声に反応したのか、水晶は淡く輝き始め、その水晶から無数の半透明な〝人物〟を投影し始める。


「『無論、ちゃあんと集まってるで〝大将〟ちゃん』」

「『相変わらずの減らず口だな〝詐欺師〟の末裔』」

「『えぇ〜?…酷いなぁ〝枯れ華〟、家の先祖がアンタ等を騙したっちゅー言い掛かり、何べん言うたら気が済むんや?…証拠持ってきぃな〝訴える〟で?』」

「『貴様……』」


その者達の姿が浮かび上がると当時に二名の男女が衝突し、火花を散らす、しかしその諍いに誰一人反応すること無く沈黙し、そんな中…〝厳格な声〟が二人を咎める。


「〝止めよ〟……お前達に如何なる因縁が有ろうと今は〝同志〟で有ろう…無駄な諍いを生むことは禁じる」


その冷たく底冷えする様な声と、濃密で支配的な魔力の昂りを二人へ注いで。


「『ッ――申し訳御座いません…〝主〟よ』」

「『アッハッハ〜ッ、御免やん〝大将〟、他の皆も悪かったわ、だからそんな怖い魔力向けんといてや…大の大人が粗相する所やったで?』」



その言葉と〝圧力〟に二人はそれぞれにそう言い、諍いを中断すると、厳格な声は言葉を紡ぎ始める。


「―――〝時〟は満ちた、不純物に満ちたこの世界を、我等〝魔術師〟の時代に〝再編〟する時が…多くの時と代償を払い、後少しの所にまで〝迫っている〟…決して〝気を抜くな〟…良いな?」

『『『『御意に』』』』

「……所でだ…〝死霊者〟よ、数日前に〝侵入者〟が出たと言うのは本当か?」

「『ッ!……は、はい…確かに我が工房に侵入した者は居ましたが、御安心下さい!…ただの妖魔に御座いますッ、何の事は御座いませんッ、全て順調で御座いますよ!』」

「…ふむ……」

「『そーやで〝大将〟…〝死霊者〟君の言う通り、ただの妖魔やろ…使い魔やったら追って使い魔差し向けてくるやろうし、偶然やないの?』」

「……そうか…ならば良いだろう……くれぐれも〝八咫烏〟に見つかるな、闇夜に煌めく眼を見逃しては成らんぞ」

「『は、ははぁッ…お、お任せ下さいッ…〝屍軍〟は必ず完成させますッ…』」


そう言うと、その…妙に怯えた様な声の男はその水晶から姿を消す…。


「『それじゃあ大将、僕もここいら辺でお邪魔するわ…〝教師〟は色々と大変やからね』」


その声と共に、また一人…その水晶から姿を消す……暗闇の中で怪しい会議は続き、しかしやがてはまた…その場には静謐だけが残ったのだった。

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