皮被りて悍ましや
どうも皆様こんにちは、泥陀羅の没地に御座います。
何とか間に合った二本目投稿、眠気と創作意欲に精神が砕け散りそうなので寝ます…明日はこの続きをば…。
――ギギギギギッ――
「ウゥッ…あ、脚が…!」
「いやすまんね君、だが安心したまえ直ぐに元通りに成る、余計な精神負荷を抱えない様に副作用に記憶欠落を起こす〝治癒薬〟を使おう…君の部屋も元通りにしておくから安心し給え」
――チクッ――
「アァッアァァァァッ!!!」
「泣かないでおくれ幼子君、君の母親も父親も姉も兄も皆元に戻してあげるから、注射は嫌?…ならば此方のジュース型を、いちごミルク味だよ、味は保証しよう」
未来を夢見る青年、小さくも生命に満ちた赤子、壊れ果てた壁屋根風呂場を直しつつ、私は離れに響く化物の悲鳴に耳を傾ける。
『※※※※※※※!?!?!?』
「いやぁ、流石は〝天鋼〟…恐るべき武力だ」
(さて、此処で被害の対処は終わり……む?)
そして、最後の一室へと足を踏み入れた……その場所では、傷付いた少女がその怪我の痛みを忘れたかの様に、呆然と奥に広がる化物と〝化物〟の戦いを眺めていた。
「やぁお嬢ちゃん…勝手に部屋へ入り込んで済まないね、君の怪我もこの場の被害も全て元通りに直しておくので、今日の事は忘れな――」
「……〝来良〟ちゃん?」
私の言葉に、少女は答える…いや、正確には私の言葉ではなく化物の戦いに向けて…だ。
「今…〝来良〟ちゃんの声が聞こえたの…居る、居るよ、彼処にッ…」
「……来良、〝平岩来良〟ちゃんの事かな?」
「ッうん、行かなきゃッ…彼処に〝隠れて〟――」
――トスッ――
私はそう言い、取り留めのない言葉で今にもあの化物へと駆け出さんとしている少女を〝手荒に〟眠らせる…。
「先天性の〝霊視〟か……君は優れた〝精霊使い〟に成れる素養が有るが…それ以上は〝駄目〟だ…アレを直視するには〝幼過ぎる〟」
泥の皮で覆い隠した〝アレ〟は、常人には〝猛毒〟でしか無い。
「さて……誰彼と野次馬達が集り始める前に〝覆い隠そう〟か」
悍ましい化物を、冒涜の悪意を…そして、〝残酷な末路〟を。
○●○●○●
――ピクッ――
「ッ……思ったよりも早いなッ」
(流石は〝紅月〟の側近だ……しかし)
――バリバリバリッ――
「ウルルルルル〜ッ!?!?!?」
「何だ此奴……妙に〝頭が回る〟じゃねぇか!」
夕暮から夜へと姿を変え始めた時刻、その境に起きた妖魔の襲撃を一人押し留めながら、彼はそう言い、無尽蔵に伸びる〝泥の触腕〟を己が武器にて切り落とす。
――ジュオォォォッ――
「切っても切っても生えてきやがって…ッ!」
(オマケに再生も尋常じゃなく早え…俺じゃなけりゃ間に合わねぇだろコレッ)
周囲の被害を気にしなければ楽に倒せるレベルで有るがしかし、唯一彼の驚嘆を誘うその特性がこの戦場の停滞を生んだ。
――ズズズズズッ――
それは驚異的な〝再生能力〟…泥の触腕を斬り飛ばそうが〝化物達〟は決して止まる事なく幾度も〝触腕〟を振る…その矛先は周囲の〝一般人〟達の住処へと向けられ、それを捌く事に彼は奔走し…巨躯の〝化物〟達をその場に押し留めていた。
「「ウルルルルルゥゥッ〜〜!!!」」
そして、状況は一変する…度重なる妨害に痺れを切らしたのか、2匹の化物は身体を震わせながらそう叫ぶと、その身を一回り程〝収縮〟させる…その〝変化〟に彼が一瞬立ち止まった直後。
「「ウァァァァッ!!!」」
2匹の化物の、その身体からまた無数の触手が飛び出して来る……先程までの攻防を超える速度で……しかし、それが周囲に絶望を振り撒く事は無い。
――ガリィィンッ――
「――危ない危ない、後一秒ズレてたら結界が砕ける所だった…」
その泥の触腕は、周囲の背景に同化した〝透明の壁〟にその穂先を打ち付け、火花を散らすだけに終わったのだから……そして同時に、その〝予想外〟を認識し、仲間の声を聞いた彼は言葉よりも早く、その〝意味〟を理解してその槍を力強く握り、己から湧き出す〝雷鳴〟をその〝白亜の槍〟に纏わせる。
「〝雷獣哮轟〟――〝鵺の大吼え〟!」
――ヒュオォォォッ――
そして放たれる、万雷の込められた〝雷の槍〟は彼の膂力によりその速度を高速から音を抜けて突き進み。
――ズドォォォッ――
その槍に押し込められた雷が泣き叫ぶ様に結界全域へと駆け巡り、その暴威を見せ占める。
――パチバチバチバチッ――
「イツツッ…離れていても感じるこの痺れ…直撃すればどうなるか…考えたくも無いね」
「しかし、流石の仕事ぶりだな孝宏ぉ…お前のお陰で〝被害者〟はゼロだ!」
そうして轟音は反転、静寂へと移ろうこの空間の中で、青年の言葉に少年姿の男は沈黙から青年の言葉を否定する。
「〝被害者〟は〝0人〟…その言葉は残念な事に〝NO〟と言わざるを得ないよ白鵺翔太君」
「は?……どういう事だ?」
その言葉に少年は眉を顰め、更には困惑と怪訝を混ぜた表情で少年を見る。
――トッ…トッ…トンッ…――
「この妖魔が此処に居るのは〝偶然〟では無い…我々の調査の帰りに現れた事、それ自体は〝偶然〟では有るが、コレの存在自体は〝可能性の1つ〟として、存在していた物だ…考え得る中で最も〝最悪な可能性〟…他所に売られたり、廃人であった方がまだマシで有ると…何の呵責なく、そう言ってしまえる程にね」
少年はそう言いながら、焼け焦げた黒炭の化物へと歩み寄り、その外皮に手を伸ばす。
「――しかし、数奇な話だ……まさか、3つの事件の内で、最も〝難航しそうだった事件〟…その〝解決点〟が目の前に現れるとは」
私が触れた途端、その泥だった物の〝外皮〟は崩れ、その崩落に連鎖し外皮は徐々にその〝隠匿のヴェール〟を外し…悍ましき真実を〝曝け出す〟…。
「おい…オイオイ…オイッ、本気かよ…まさか…!」
「嗚呼、そうだとも…我々の調査は完了したよ……〝行方不明者〟の居場所と、その生存は判明した…尤もその〝生存〟が――〝生き物として正常〟で有るかは不明だがね」
其処に有ったのは……正しく、〝死体の山〟であった…。




