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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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人攫い、神隠し

――ザッ、ザッ、ザッ――


「いやぁ、〝向こう(京都)〟から〝此方(東京)〟まで走り通しは流石に疲れたなぁおい!」

「いや、何故私まで態々走って来なければならなかったのかね…別に飛行機でも車でも良くないかい?」

「此方のが速えよ、ほら良く言うだろ〝善は急げ〟って奴だよ」


風を冷やし身体に籠もった熱を排出する…何故こんな夏日にマラソンよろしく長距離を駆け抜けねばならないのか。


「私は冷房の効いた部屋で本の群れと戯れていたい気分だよ」

「あ?そうなのか?……字波から聞いたが、お前って前は探検家だったんだろ?」

「〝興味の唆られる物〟であれば、それなりの活力で動くさ…生憎〝犯罪捜査〟は私の趣向では無くてね…仕事だからと渋々ながら此処に来ている訳だ」

「えぇ〜…そんな寂しい事言うなよ相棒!」


私はいつの間にやら友人から親友に、親友から相棒にと親密性がそれはもう恋愛系ゲームの難易度簡単ばりに〝関係値〟を上昇させていく〝白鵺翔太〟君に肩を組まれながら、彼へ件の〝誘拐事件〟の前情報を伝える。


「直近の〝行方不明者〟は此処の区域に有る、あのマンションの〝少女〟だ…母親の証言では夕暮れに友人達と遊びに興じていたらしい」

「……そうか…そりゃあ…〝キツイ〟だろうな…」


私の言葉に彼は顔を曇らせ、そう口にする…言動や姿は素行が悪いが、その本質はやはり〝善人〟な様だ。


「……兎も角、早速調査と行こう…まだ行方不明なだけで、生存の可能性は残っている」

「ッ……だな…!」


そんな彼へ気を配りつつ、私達は件の母親へ調査の為に会いに行く。



――カチャッ――


「――あの子が居なく成ってもう一週間に成ります」


対面して早々、少女の母親はその蒼白く痩せた顔に更に暗い雰囲気を纏わせながら、私達へと語り始める。


「以前の証言では日常に何の変化も無かったと伺って居ますが」


その話を聞きながら、私は合間を縫って母親へ問う。


「はい…私の知る限りは何も…ッ」


すると、彼女は記憶の中の娘を思い出したのか、その涙を目尻に滲ませる…その涙に演技は無かった。


「ふむ…些細な変化は?…少女の顔が曇っていたり、予定の時間が普段より遅く、或いは早かったり、人間関係で悩んでいる風な事も何も?」

「有りませんでした…はい、あの子は明るく、優しくて…誰にでも人当たりが良い子でした…喧嘩何てする訳が有りません…!」


その彼女のヤケに力強い断言に、私は少しばかり考え…そして、これ以上に何か情報が得られる可能性は無いと判断し、話を切り上げる。


「……では、少女が最後に居たとされる場所の情報を今一度お聞きしても?」

「はい……場所は―――」


彼女は〝娘〟を随分と〝愛していた〟らしい……それはもう――。


「〝気味が悪い〟程に…少女は〝大事に扱われていた〟らしい」

「ん?……あぁ、そうだな…良い母親じゃねぇか」

「良いかどうかは一考の余地が有るね……彼女の〝愛情〟は些か過剰に思うよ…少女と言うよりは、彼女の〝思う理想の娘〟への強い執着と偏愛を感じる…アレからは大した情報は得られない……〝少女の外での一面〟等、小耳に挟んだ事も無いだろうさ」

「何でそう言い切れるんだよ?」

「私が少女の〝悪評〟等は無いかと聞いた時、彼女は考える素振りを見せなかった事だ…この手の反応をするのは余程親子関係が密接で有るか、親の色眼鏡位の物さ…そして父親は多忙で余り家へと帰ってこないらしい…母親からの過干渉は、年頃の娘にとってはストレスだろう…だから〝母親と距離を取る〟と見たが…まぁ、この推測はほぼほぼ意味が無いので忘れてくれて構わない」


私はそう言い、人気の無い真昼の公園へと足を踏み入れる…そう、此処が〝少女〟の最後の目撃現場…。


「さて、それじゃあ…手分けして探索と行こう」

「つっても何探すんだ?」

「〝何でも〟だよ、何か怪しそうな物、怪しい物、紙切れでも何でも、奇妙に思った物は何もかも徹底的に探し出し、観察するんだ」


指示にしては大雑把だが仕方無い…手掛かりのない事件は手探りで進むしか無いのだ。



――ザッザッザッザッ――


「……ハァッ、足跡は風と雨でかき消されているか…臭いも感じない」


追跡も再現も出来ないなら此処は不要だ。


――ガサガサガサガサッ―― 


「ッ…う〜ん…雑木林に何かあるって訳でも無さそうだ…遊具は…砂埃以外何もねえか」


二人別々に進みながら一向に進展しない調査に呻く…遊具も柵も、ベンチもトイレも凡そ少女の追跡に利用出来そうな情報は何も手に入る事無く…ただ時間だけが過ぎていく。



「「――収穫無し…か」」


やがて夕暮れになり始めた空を仰ぎ見ながら我々はベンチに腰掛けてそう呻く…丹念に調査したにも関わらず、手に入った情報は限りなく0だった。


「流石に何日も前の事件の調査は〝難しい〟ねぇ…」

「公園内部にゃもう情報は何も無いな……〝公園内〟で誘拐された訳では無いらしい」

「――となれば、次は帰り道か?」

「そうなるな」


我々は公園のベンチに腰掛けたまま、疲労の滲んだ声で会話する…残された可能性は少女の帰り道…だが。


「それさえ何も判明しなければコレはもう〝神隠し〟として処理してしまおうか」

「駄目に決まってんだろうがよ!…そら、さっさと行くぞ孝宏ッ…暗くなると周りが見えなくなるだろうが」

「分かってるよ……ハァッ……こうなるから〝人探し〟は嫌いなんだ」


そうして私と翔太君は軽い休憩をした後、再び調査を再開し、この公園から立ち去るのだった。

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