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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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罰当たりな墓荒らし

――カリカリカリカリッ――


「う〜ん…?」


少女の声が、ペンシルの奏でる紙と芯の舞踏会に微かに響く…少女、黒乃結美の視線の先には、一人の〝男〟が言葉と共に宙に浮いたチョークを黒板に走らせていた。


『どうかしたのかぇ、我が主様や』

(うん…先生の事なんだけど…)


そんな彼女の視線に勘付いたのか、彼女の使い魔〝ルイナ〟が誂う様に彼女へと忠告する、


『ふむ……止めておけ主様よ、アレに熱を向けても火傷するのはお主だけじゃぞ?…アレに恋など抱くべきでは無いのう?』

「ッじゃなくて…!――ッ!」

『カッカッカッ♪――冗談じゃよ』


使い魔の突飛な言葉に、過剰に反応する少女がふと己の声の大きさに口を閉じ、姿の見えない己の使い魔へと恨まし気な視線をやり、溜息を吐きながら己の胸に抱く疑問を吐露する。


(はぁ……先生が普段とは違う様に思って、それで見てたの)

『ほぉ?…ふむ』

(何か分かる?)


そう言う少女の言葉に使い魔の黒猫は少女の膝下に現れ、金色の瞳を白衣の男へと向けるとポツリと声を漏らす。


「『ふむ……うむ、〝偽物〟じゃな』」

「へ!?――はっ!?」


その言葉に少女が驚きに目を白黒させ、周囲の視線が僅かに少女を見咎める。


「『――確かに、九割九分九里は〝奴と同じ〟じゃが…〝生命特有の気配〟が無い…巧妙に隠されておるが儂程にも成ると判別出来る…お主は一体どう見破った?』」

「えっと…〝匂い〟とか…?」

「『〝狩人〟か?』」

「魔術師だよッ……!?」


少女がそう、使い魔と言い合っている最中、ふと少女が己に向けられる視線に顔を上げる…其処には。


「……♪」


白衣の男がその視線と顔を少女達に向け、口元に人差し指を添えて笑みを深くさせる……それはあたかも、〝他言無用〟であるとでも言い含めるかの様に。


「「『……』」」


その視線の鋭さに一人と一匹は薄ら寒い緊張を身体中に走らせながら、その事実を忘却せんとする様に授業に集中するのだった。



●○●○●○



――ザリッ…――


「――いやぁ、酷い、酷いねコレ…死者を悼み敬うべき場所がこんな無惨な姿とは」

「はい…こんな所業…許される筈が有りません」


曇天は凶兆か、不穏の表れか…兎にも角にも気の優れないこの天候の中、神聖なる〝巫女服の女性〟に連れられ、魔人の私が霊園へと足を運ぶ…いやはや、相反する性質の二人組が同じ光景を見るというのは些か〝奇妙〟である。


「――最近増えている〝墓荒らし〟…真新しい事件現場は此処、〝一週間前〟のこの場所だ…いやはや、資料で確認していたが、実際にこの目で見るとまた〝酷い〟」


墓石は砕かれ削られ、埋葬地は荒らされた挙げ句供え物の花や供物は周囲に乱雑に撒き散らされている。


「我々も当初、調査しましたが…〝要石〟が破壊された事以外にはご覧の有様で…」

「〝要石〟…各霊園に必ず設置されている〝不浄処理〟の1つか…となれば成る程、殊更に私の予想は〝確かな物〟と言わざるを得ないねぇ」

「……やはり」

「〝死霊術〟…数多の魔術が混在する現代社会に於いて、〝世界共通で禁忌〟とされている〝外法〟だとも…」


まぁ、要石が壊されている以上…この霊園で〝起きた事〟は想像に難くないだろうが…しかし。


「それにしても結構な〝使い手〟だ…〝悪霊〟にするならばまだしも〝屍人〟として受肉させるとは…本来死霊術の素体は〝損壊の少ない死体〟で有ったほうが術のコストも安く済む筈だが…コレ、〝骨粉〟から受肉させるとは〝それほど必死〟なのか、〝余裕の表れ〟か…」


何方にせよ厄介な事に変わりはないな。


「此方も八咫烏へ重点的に調べるよう要請しておこう…後は此方で調査するので、君はもう帰って構わないよ、何か有ればその時は連絡させてもらおう」


私がそう言い、彼女を社務所に返そうとすると、その女性はその言葉に頷き、しかし躊躇いがちに私へと声を掛ける。


「はい、分かりました…あの、くれぐれも――」

「分かっているとも、〝観察〟だけ、させてもらうさ…その辺りの倫理観は弁えているつもりだ」

(魔術師と聖職者の確執は、やはりまだ多少は残っているらしい)


それでも300年前に起こったらしい〝魔女狩り(魔術師狩り)〟よりかは大分と大人しく成ったらしいが…流石に挨拶だけで逮捕される様な異常な例はもう無いか……無い、よね?…。


「――兎も角…此方も本腰入れて〝調査〟しよう」


――キィィィンッ――


相手が魔術師ならば、此方としても話は早い…。


「〝視覚強化〟――〝魔力視〟」


魔術痕を追跡すれば、犯人の特定が容易であるからだ…。


――ズズズッ――


「やはり……と言うべきかな…〝死霊術〟の類で有ることは間違い無いらしい」


瘴気の混濁した魔力がこの霊園に満ちている…幸いな事に〝要石〟を再設置した事で、此処が〝妖魔の温床〟に成ることは無さそうだ…だがそのデメリットとして――。


「……駄目だね…痕跡が〝薄過ぎる〟…これでは〝環境再現(シュミレート)〟も出来ないか」


有ればかなり楽だったが…仕方無い。


――キィィィンッ――

――カラカラカラカラッ――


「さて、さて…相手が死霊術師で有るならば…此方も〝同じ手〟を使うとしよう」


使うのは…以前手に入れた〝黒狼の骨肉〟とストックしている〝人間の魂〟…後は――。


――ズオォォォッ――


「〝追跡対象〟の〝魔術痕〟…〝戦闘能力〟は不要、必要なのは〝追跡能力と隠密性〟…リソースは削ぎ、スペック向上に調整するとしよう」


フフフッ機器の組み立てはやはりこの〝性能選択〟が醍醐味だね…と。


「この辺で良いかな…そろそろ結界の〝誤魔化し〟も怪しまれるだろうし」


何より此処は幾多の〝浄化〟の力が染み付いている…私の偽装とは如何せん相性が悪いしね。


「それじゃあ〝諸君〟…少ししたら〝調査〟は頼んだよ?」

『『『バウッ』』』


私はそう言い、己の影に溶け込んだ無数の〝影の猟犬〟達にそう言い含め、霊園を後にした。

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