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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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複数匹のカメレオン

「彼奴、コンテナの中に入って…!?」

「ふむ…セキュリティが作動する前に侵入し、内部の装備を奪い去り、君が再びコンテナを開けるまで待機していた…単純だが中々〝根気強い〟方法だ」


パソコンへ齧り付くようににらめっこをする我々が口々にそう言いながら画面の中の犯人を観察する…その横では被害者君がそれはもう憤怒の表情で罵倒を口にしていた。


「相手は魔術師か…通りで見つからなかった訳だッ」

「――ん…それは違うよ君……〝彼〟は魔術師では無い」

「はぁ!?――何を言ってんですか、姿を消しながら移動できる何て魔術でも無きゃ――」

「……いいや、確かにコレは〝魔術〟では無い……〝光学迷彩〟だ」


私はそう言うと、彼に〝髭付きのメガネ〟を渡して一歩下がる。


「何ですか…コレ…?」

「簡単な魔道具だよ、見た目は安物の一発ネタの様な物だが、そのメガネには〝魔術の残滓〟を見る機能が有る…掛けて見ると良い」


私の言葉に彼は躊躇いがちにメガネを掛け、私を見る…ブフッ…分かっていても少しクるな。


「ふぅッククッ…では、よく見ると良い…」


――キィィィンッ――


私がそう言い、私を囲む様に術式を構築すると、その後…私を包む〝結界〟が〝私と周囲〟を隔てる膜へと変わり果てると、彼の顔は少しの困惑と多大な驚愕に変わる。


「こ、コレは…」

「分かるかい?…魔術には大なり小なり〝周辺の魔力〟に干渉する、それが〝残滓〟として周囲に散逸し、時間と共に消失する…コレはどの魔術にも例外は無い」


残滓を消す為に意図的に周囲の魔力に干渉して消す…何て事も出来るが、そんな離れ業を使えるのは極僅かだ…そして仮に彼が魔術師で、且つこの技術を使えるならば並大抵のセキュリティや結界等擦り抜ける事など容易な筈だ。


「従って、彼は〝非魔術師〟であると推測出来る…さて、犯人の尻尾は掴んだ……しかし、未だ行方不明だと言う事に変わりはない…此処からは、調査の範囲が広がる…私一人では手が足りん」


……と、言う訳で。


「――今得た情報から推測される〝想定〟を報告書に認め、八咫烏から人員を引っ張ってこよう…そこそこまで話を広げれば述べ五十人は持ってこれるはずだ」


その間に此方は他の調査等を進めてしまおう。


「――さて、では此処からは調査員では無く、不身孝宏〝一個人〟として、君の問題に当たるとしよう…君は大量の商品を盗まれた…それはもう〝大赤字〟だ」


私の言葉に彼の顔が見て分かるほど暗くなる…いや、ごめんよ、事実陳列は時に罪となるのだろうがね…しかし。


「コレでは君の工場は立ち直りが難しい、君にとっては一大事業、相当の金を注ぎ込んだ筈だからね…コレが成功すれば君達の工場は更に資金を手に入れられる筈だった…それをこんなつまらない〝偶然の事故〟で躓かねばならないのは相当の屈辱であろうとも…そこで、だ」


私は彼の悲壮な目を見詰めて彼に一つの提案を贈る。


「私からの〝融資〟を受けるつもりはないかね?」

「……融資?」


その言葉に、彼は困惑と疑念の眼差しで私に問う…まぁそうだろう、唐突な話に飛び付かない慎重さは評価出来るよ。


「そう、今の君達に資金と言う肥料を提供し、成長した君達からそれ以上の〝利益〟を受け取ると言う〝資本の運用〟だよ…君、今回の一件で失った利益の総額は?」

「…端数を省いて…3億程…です」

「3億か…新米事業家にしてみれば中々の額だ……だがこの程度ならば直ぐにでも補填してやれる…それに今後の備えとしてもう3億…つまり総額〝6億〟を融資しよう」


その言葉に彼の目には一瞬の希望が浮かび出したが、それは一転して緊張と警戒を帯びる……その顔付きは正しく、〝有望な経営者〟のそれだった。


「――私は何も慈善家では無い、自己利益を優先する〝資本主義〟で有り、事金融に関しては極めて〝合理的〟な判断を優先する人間だ…そして、私の知識経験を照らし合わせた所、君の工場が持つ価値、その未来が極めて有望で有ると判断したまでだ…盲目的信用は要らず、君は警戒し、慎重に思考して私のこの話に取り組む事を推奨しよう……私は何時でも連絡を待っているから、考えがまとまればまた〝取引〟と行こう」


私は悩み始めた彼へそう告げて、工場から一度離れる……そして。


「再び調査を開始するとしようか…」


私は電話で〝タクシー〟を呼び…八咫烏への報告書を書き留めながら、一度自宅へと帰るのだった。



○●○●○●


――ギィィッ――


「『――それで?…態々私を〝保管庫〟に呼び出して何の用?』」


白い白い、ただ無尽蔵に本棚が並ぶ奇妙な空間で…白髪の少女は対面に座る男へと疑問符を浮かべて問う。


――パラパラパラッ――


「『――何、探偵遊びには助手兼聞き手が必要だろう?…其処で君が候補に挙がった為に招集したと言う訳さ♪』」


眼前には無数の書物を開き、その目を本に縫い付ける一人の男が、全ての書物を閉じて少女へと目を向けて笑っていた。


「『さて…招集に際して君へと送信した〝情報〟を確認しているかね?』」

「『うん、ある程度は…』」

「『どう思った?』」


男がそう言うと、少女は一瞬沈黙し…自らの〝結論〟を告げる。


「『〝単独犯〟じゃない〝組織犯罪〟…その〝足掛かりの一つ〟…かな?』」

「『その理由は?』」


その言葉に少女は少し目を鋭くし、男へと言葉を返す。


「『……〝全知〟も同じ結論でしょ、この問いは無意味』」

「『おや、つれないねぇ…君、コレで推理小説でも出そう物なら『後付け設定の三流小説』だ何て言われかねないよ?』」

「『……はぁ、早く本題に入って欲しいんだけど、これでも忙しい、新薬の実験が早く済めば次の研究が始められる、毒、薬…人類の叡智〝薬学〟はまだまだ未知に満ちている』」

「『それは御尤も…しかしメモリア、根を詰め過ぎても研究は煮詰まるものだ…此処は1つ老人の暇潰しに付き合っておくれよ』」


少女の諫言をその青年は軽く躱し、少女の言葉をにこやかに待つ…その様子に少女は諦めの溜息を吐いて男へ説明を始める。


「『――先ず、〝単独犯〟にしては詰めが甘い事、単独犯なら〝証拠隠滅〟は特に注意する、間違っても埃の積もった道は歩かないし、かなり進んだ後で気が付く何てミスは犯さない』」

「『成る程…ではその〝窃盗犯〟が所属している〝組織〟とは?』」

「『それは知らない…そもそも情報が無い…でも、組織の傾向は分かる…〝非魔術師〟が大多数の筈…それは盗んだ品物が〝耐魔術〟性のアーマーだから』」

「『ふむふむ……では何故コレが〝足掛かり〟だと?』」

「『――アーマーを盗んで組織内の装備状況を潤しただけで終わると思う?…十中八九〝戦闘の備え〟だよ、相手は魔術師、〝八咫烏〟か、〝無差別〟…それか〝対立組織〟』」


少女の推理を、その男は楽しげに聞き入る。


「『では、最後に問題だ…そんな彼等が一体どうして……〝数十着〟に及ぶ魔道具を〝一人で盗ませられた〟のか?』」

「『……さぁ?…それは、貴方の考える事、私は貴方の御遊びに付き合った…それで十分でしょ?』」

「『……それもそうだね、うん、ある程度の収穫は得た…今回の調査の出来は先ず先ずと言った所だ…情報の整理はこの程度で良いだろう…いや、態々済まないね〝メモリア〟…御礼と言えば何だが――〝特殊倉庫〟へのアクセス権限を一時的に付与しよう…〝持ち出し許可〟は〝三つ〟までだよ』」

「『ッ!?――……〝全知〟への印象を上方修正しておく、〝全知〟は良い人、うん』」

「『ハッハッハッ…欲望に正直だねぇ』」



そして、推理を終え足早に立ち去る少女を微笑ましげに見送りながら、青年は山積みの書物を本棚へと差し込むのだった。

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