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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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盗人の尻尾

――カッ…カッ…カッ…カッ…――


「……」

(ふむふむ、地面は丁寧にアスファルトで塗り固められて居る…)


地面を食い入る様に見詰める、大雑把に掃除したらしいその地面は彼等が良く歩くのだろうルートは綺麗に掃かれ、しかし清掃に情熱を抱かない者の怠惰の証が節々に見受けられる。


「この倉庫に最後に入室したのは?」

「お、俺です…魔道具の最終点検をしました」

「それ以降は誰一人来ていない訳だね?」

「はい」


彼以外の従業員は事件発覚まで此処には来ていないのか…ふむ。


「では次にセキュリティ面に関しては?」

「倉庫の四方に監視カメラが有ります、その他各コンテナには防犯用の警報術式やカードキー施錠システム、侵入者阻害の防護結界の魔道具を設置しています」

「成る程…では続けて、この防犯セキュリティは常に起動しているのかい?」

「いえ、日中は我々の目が有りますので切っています、セキュリティが起動しているのは夜間だけですね、それでも監視カメラは四六時中起動しているのでもし仮に窃盗が有ったとしても証拠は残る筈です」


(セキュリティ面も抜かりない…余程のイレギュラーでも無ければ対応可能なレベルか)


そのイレギュラーに目を付けられた事が、また何とも間の悪い話では有るが…。


「成る程…工場長君、監視カメラの映像を用意して欲しい…それまでに少し軽い調査と思考の整理をしておくので、十分程時間を貰うよ」

「分かりました、俺は他にも何か異変が無かったか確認しておきます」


そうして彼は倉庫を出て行き、私もまたそれに続く……そして、場所は移り変わり工場の外周。


「工場の外周は土、手入れされていて雑木林等はない…マメな男だ、気は弱いが気が利く…じゃない、彼の事は脇に置こう」

(さて、今得た情報を〝確認〟しよう)


外周の詳細な光景を〝視覚〟に収めながら脳裏で紡ぎ上げたデータを重ねてゆく。


(先ず、深夜帯に〝彼以外の従業員〟は居なかったと言っていた)


彼が嘘を吐く理由は無い、彼にとって此処は〝生命線〟だ、仮に嘘を吐いていたとしても態々通報する必要が無い…何よりも容疑者があんな自殺未遂に走る程思い悩みはしないだろう。


(この点から彼は容疑者から除外出来る…そして)


次にあの倉庫、あの倉庫には商品が保管されており、コンテナと通路は綺麗に掃除されていた。


(――だが、其処以外の場所はかなりおざなりだった…それが今回は〝役に立った〟とも言える…)



〜〜〜〜〜〜〜


「埃っぽいな…」


それは倉庫内部の縁を観察していた時の事だ…。


「それに、結構埃が積もっているな…」


此処には商品の保管だけなのだからそれでも問題は無いのだろうが…。


「……ッ!」


埃臭い仄暗い床を進む事暫くして、私は漸く、この変哲も無い倉庫に現れた〝数少ない証拠〟を目にする。


「……フフフッ♪…コレは良い収穫だ」


それは〝窃盗〟が起きた区画の端から、出口付近にまで続く〝埃を擦った跡〟…それがこの倉庫の貨物を外へ運び出す為の〝大扉〟にまで続いていた。


〜〜〜〜〜〜


「間違い無く犯人は〝侵入〟していた…それも深夜帯の人が居ない時間帯では無く、まだ人が居た時間帯から…では何故彼等に見つからなかったか?」


注意力不足?…否、〝工場の影をコソコソと動く挙動不審の不審者〟を見逃すとは控えめに言って〝不自然〟だ、従って何らかの〝仕掛け〟が有ると見た…。


先ず〝魔術師〟では無い、魔術師ならば物陰を潜んで進む必要は無く、自身を囲む様に遮音結界を使えば物音等を発生させると言う可能性を排せる。


魔術、魔道具の類でも無い、魔術の行使の後に発生する〝残滓〟がこの倉庫内には〝見つからなかった〟…私の様な〝例外〟の可能性は有るが…そのレベルの〝魔術師〟ならそもそも〝自作〟出来るのだから可能性は限りなくゼロに近い…無い訳じゃないので〝保留〟にするとして、主軸は〝非魔術師〟で〝少人数ないし一人〟と仮定しよう、さて…ではどうやって〝隠れられた〟のか……。


――ザッ…ザッ…ザッ…――


私がそう黙考しながら調査と散策を続けていると前方から私を呼ぶ声が耳に届く。


「――孝宏さん!」

「む、監視カメラの映像は準備出来たかい?」

「はいッ」

「宜しい…序でに聞いておくと監視カメラには〝熱源探知機能(サーモグラフィー)〟や〝夜間監視機能(ナイトビジョン)〟等は有るのかい?」

「えぇはい、生憎〝魔力探知機能〟は無いのですが…」

「いや、それは良い…しかし成る程…では早速確認するとしよう…未だ〝推測の域〟を出ないが、この確認の後、場合によっては私は探偵社を開業することも視野に入れられるかもしれない」


そうして我々は冗談混じりに工場の事務室へと向かい、其処に設置されている社用パソコンに抽出した映像データを送信し、閲覧する。


「先ずは単純に監視カメラの映像を確認しよう…済まないが倍速で頼む」

「はい…しかし何も有りませんよ?」

「それでもだよ、コレは必要な再確認だからね」

「はぁ……」


そして始まる、その日〝丸一日〟の〝早送り〟が…なんてことは無い普段通りの日常が始まり、従業員の談笑が映り、皆真面目に働いている…やがて日は沈み暗がりに人は減ってゆき最後の最後で工場長君が倉庫内の確認を終えた後、その場から立ち去り……凡そ10時間の時を経てまた日常が始まらんとした矢先に、工場長君の愕然とした様子がカメラに記録されていた。


「確かに、〝何も無い〟…〝何も無い〟のに〝事件発生〟…ね」

「……何かわかりましたか?」


私の言葉に彼が不安気に此方を見る…フフフッ。


「君の期待に応えられる物では無いね…事件発生から夜間の間、誰一人と侵入者は居なかった…それは確かだ……おっと、そんなに絶望しないでおくれよ…この程度は〝予想通り〟だ、次は本命…〝熱源探知〟を使って確認して欲しい…君が絶望するのはコレを見てからにしたまえ」


私の言葉に彼はやや精神を弱らせながらも指示通りに機器を操作する、そしてまた再始動する〝日常〟を早送りで確認していたその時。


「――〝見つけた〟!」


私はその言葉と共に映像を〝止める〟…そして私が彼に分かるように指を指すと、彼はその顔に驚愕の二文字を宿らせる……其処には。


「〝熱源反応〟が中に…コレが犯人ですか!?」

「ビンゴだッ、あぁ…間違い無い彼、或いは〝彼女〟が今回の〝窃盗〟を引き起こした〝犯人〟だ」


夕暮れの日差しと共に倉庫の中を確認している彼の横を音も無く通り抜け、コンテナの内部に侵入した〝何者か〟の姿が映っていた。



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