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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第四章:曲げられた神秘と論理
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消失した魔道具

――カッカッカッカッ――


「――ふぅむ……いやはや何とも、本来ならば職務中である現時刻、こうして本業とは違う行動を取るのは中々に新鮮…いや、〝落ち着かない〟ねぇ?」


時刻は午後10時を少し過ぎて7分…私は夏の日差しをこの身に宿しながら街道を歩む…心做しか私に集まる視線が通常よりも多く、少しこそばゆい。


「これが私の本来の姿(推定外見年齢40代後半)で有った場合、冴えない男性が明るい街道を何の予定も無くふらつく…言う絵面に成る」


それは些か、現代社会の思考尺度に於いては体裁が悪い。


「青年姿も落ち着かないには落ち着かないが…この点は好都合だね」


さて、そろそろ本題に入ろう……私は何も、何の訳もなく街道をふらついている訳では無い。


「さて…どの件から調査するか…」


そう先日我が友と我が上司の策略により、本業とも趣味とも異なる〝探偵業〟に勤しむことに成った訳だ。


(三つの事件の内、比較的近い距離は〝窃盗〟された企業の倉庫だ)

「――となれば〝侵入された倉庫〟の調査だな」


場所は……大阪か…結構遠いな。


「コレは……丸一日この件の調査に入るしかないか」


序でに他の事件の最新地点も確認して置こう。





●○●○●○


「あぁ……吐き気が…」


頭が痛い、胃も痛い…何時も苦労ばかりだが、今回ばかりは流石にもう同仕様もない。


「ハァァッ…絶対クビだよなぁ……」


20年の苦労…工場長としてどうにか此処の立て直しに成功したってのに、まさか事になるとは…。


「ッ――ハァァァッ」


深い溜息が口を出る…当然だろう、この工場は絶賛ピンチなのだから。


「首括るか」


親父から押し付けられたボロ工場を何とか維持し続けやっと軌道に乗ってきた所だったのに…昔から人並み以下と馬鹿にされてきた俺が初めてマトモな成功を掴めたと思ったらこのザマだ…人生ってのはつくづく理不尽だ。


――ゴソゴソッ――


「発注元の違約金と、従業員達の失業補填金はコレで良いか…後は括る紐だな…確か倉庫にワイヤーが有った――」

「――ふむ、見て分かる暗い雰囲気に、首を括り自殺を目論む中年男性、住所も何もかも合致している所を見るに…此処が件の〝窃盗現場〟か」


そんな俺が自殺の準備をしていたその時、ふと工場の入口から声が響く…其処には、一人の青年が興味深そうに工場の中を覗いていた。


「こらこら、こんな所まで入ってきちゃ駄目だよ…此処は私有地だから早く出て行きなさい…もうすぐ〝事故物件〟に成るんだけどね」

「中々笑えない冗談だねぇ…それに生憎と私は子供では無いよ君、コレでも成人しているし、君よりもずっと年上だ」

「ハッハッハッ、そう言うごっこ遊びかい?…若いって言うのは良いねぇ…夢で溢れてるし……俺のこの現実も夢だったら良かったんだがなぁ…」


俺のそんな言葉に、青年は酷く憐れむような目で僕を見つめて直球に告げる。


「いっそ此処で介錯してやった方が救いになりそうな気がするね……しかし生憎、君を殺す事で私に齎される利益よりも、不利益が大きそうだし止めておこう…それよりもだ、君に何時までも少年扱いされるのは話が進まないので、コレを見ると良い」

「ん?…コレ…は……!?」


そして、そんな彼が俺へと渡したプレートを手に取り確認する…それには〝三本脚の鴉〟の模様と、そのプレートに掘られた〝知の金剛〟の文字…数秒後にはそのプレートの意味を理解した俺の脳味噌がそのプレートを空へと放り投げ、その反動で尻餅を突く。


「良いリアクションだねぇ…まぁコレで信用出来たかな?…私は〝知の金級魔術師〟である〝不身孝宏〟と言う…今回此処に足を運んだのはこの工場で起きた大量の魔道兵装の紛失について調査に来た…死ぬ前に1つ、コレの調査に協力して欲しい」


その人物は放り投げられたプレートを優雅に掴むとそう言い、俺に手を差し伸べて来る……その姿が俺には救世主の様に見えた事は…恐らく、想像に難くないだろう。



●○●○●○


「それでは君、早速だが魔道具を保管していたと言う倉庫に連れて行ってはくれないかい?」

「は、はい直ぐに!」


私の言葉に彼は上擦った声でそう言い、その足をせかせかと進ませる…余程調査員が来たことが喜ばしかったらしいその顔は緊張と安堵に満ちていた。


――ガチャッ――


「――此処がこの工場の倉庫です、此処で制作された魔道具の最終確認を済ませ、此処に運ばれます」

「そして、あの大扉から輸送車両に搬入する訳だね」

「はい!」

「ふむ……」


彼へ質問を投げ掛けながら、私はそのだだっ広い倉庫を散策する、其処には幾つかの区画に隔てられ、計六つの格納コンテナに印がつけられていた。


「君達が提供している魔道具の詳細は?」

「はい…魔術加工を施した耐魔術用ボディーアーマーです…詳細は此方に」

「用意が良いね……ふむ」

(ほほう…特注の鋼糸を編み込んだボディーアーマー…軽量化の術式を刻み付け、他には〝防郭魔術〟と〝強化魔術〟?)

「…このボディーアーマーの設計は君が?」

「は、はい…そうです」

「――素晴らしいアーマーだ、量産品とは思えない位に出来が良い…理想的な〝ボディーアーマー〟だよコレ」


このスペック以上の防具はそれこそ山程有るが、その殆どが〝特注品(オーダーメイド)〟だ…〝既製品(レディメイド)〟でこれ程の水準は何処を探しても有り得ないだろう。


「ほ、本当ですか…!?」

「嗚呼、この手の防具の制作経験や改造経験はそれなりに有るがこれ程質の良い素体は見たことが無い…今まで他所の物と比較した事は無かったのかい?」

「え、えぇ…自作で作った試作品で比較して一番出来の良い物を量産していましたので…」

「……他にも種類が?」

「ッ……宜しければ見ますか?」

「是非に……ッと、いやいや…失敬…余りにも上等な原石に目が眩み、本来の目的を見失い掛けた……我々の本来の目的は、この工場の視察では無く――」


脱線から戻り、私は倉庫の六区画を抜けた先…〝伽藍洞の七区画目〟へと足を運ぶ…。


「この工場で起きた〝大犯罪〟…こんなお宝を山の様に持ち去った大罪人の調査だったね」


其処には文字通り何も無い空っぽの空間が仄暗い倉庫の中、天窓から差し込む光を受けてその伽藍洞を強調していた。

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