三つの事件
――コンコンコンッ――
「失礼、理事長……ん?」
「おう、邪魔するぜ〝孝宏〟!」
午後16時…学生達が帰る様子を背景に理事長室へと足を運ぶ私を出迎えるのは、字波理事長と、予想外にもう一人。
「……退出した方が宜しいか?」
金髪の、それはガタイの良い厳つい美男が私を勇ましい笑みと共に出迎える…そう、あの〝色物集団〟の中で唯一の良心と言っても過言では無い〝白鵺翔太〟君である。
「いや良い…丁度字波の側近であるお前も交えようかと話てた所だ…都合が良い」
「……成る程、了解しました」
そんな彼の話に、私は退く訳にも行かず席へ着く……成る程、学生主任の彼があれだけ必死に私へ頼み込んできた訳だ。
「お話の前に理事長、コレを…学生主任より預かっている提出資料です」
「あら、有難う」
「ハッハッハッ…ハァッ…俺ってそんなに〝関わり辛い雰囲気〟か?」
どうやら私の言葉に翔太君は私の経緯を把握したらしい、外見に似合わぬ繊細な心を吐露する様は、世間で言う所のギャップと言う物を感じさせる…まぁ。
「翔太殿の外見は派手ですからね、人は自身とは違う人間とそう関わろうとはしないでしょう…それに、〝天剛級〟と言う肩書きは魔術師、非魔術師問わず〝畏敬の対象〟で有り、その事実も皆が貴殿へおいそれと近付かない理由かと」
「クッ…ハッキリと言うじゃねぇか……ってか、その割にお前さんは普通だな?」
「生憎、権威階級には興味が無いので」
「へぇ…んじゃ俺と〝友達〟に成るのも嫌じゃねぇのか?」
「えぇまぁ…望むならば構いませんが」
私の言葉に翔太君はその顔を嬉しそうに変化させて私を見る。
「じゃあよ、今日から〝友達〟って事で宜しく!」
「えぇ…ではその様に」
「オイオイ…〝友達〟何だから堅苦しい口調は要らねぇぜ?…もっとフランクにしようぜ」
「ふむ……では、そうさせてもらおう」
「お、良いねぇ!」
と、そんな風に私と翔太君が談笑していると隣から大きな咳が聞こえる。
「コホンッ!――それで、翔太…そろそろ本題に入りましょう」
「ん?…嗚呼そうだな?」
「……」
字波君の言葉に我々は一旦の談笑を止め、本題に入る…妙に字波君から棘を感じるのは気の所為だろうか?…。
「……(チラッ)」
「……(ムスッ)」
……気の所為だと思う事にしよう。
「――で、本題だな……実を言えば、最近日本全国で妙な〝事件〟が起きてんだ…〝三つ〟同時期にな」
「ほう?…」
話題は切り替わり、真剣な話が始まると早速興味深い話が始まる…〝三つの事件〟が〝同時期〟に…ね。
「それはまた…〝露骨〟だね」
「俺もそう思うが…生憎とどれもこれも〝特に因果関係〟が無くてな…共通点が〝時期が被ってる〟位しかねぇんだわ」
「ほぉ…ではその三つの事件の〝特徴〟は?」
私の問いに翔太君は懐から三つの写真を取り出して机に並べる。
「一つは…〝魔道具の大量強奪〟…公的機関、〝警察〟やらに卸される〝対魔術師用装備〟を開発してる民間企業の商品倉庫から大量の〝魔道具装備〟が紛失したらしい…普通ならそんな物は〝魔道具に備え付けられた追跡術式〟やら〝発振器〟で位置が割れる筈何だが…何故か、其れ等の〝追跡機能〟が無力化されていたらしい…足跡何かも無い事から、〝魔術師〟の関連が疑われてる」
1つ目は〝魔道具の窃盗〟…それも大量に…どの尺度かは分からないが大量と言う事は一目見てその事実に気が付くレベルなのだろう。
「次に〝墓場荒らし〟だ…霊園の墓が〝荒らされた〟…それが各地で起きている…餓鬼共の悪戯にしてはやり過ぎなレベルでな」
写真に映るその光景は…成る程、確かに〝やり過ぎ〟だった…墓は倒され、供え物は散乱し、土は掘り返され骨壺は割れている…ほぼ全ての墓がそうなっているのは悪戯にしては度を超えている。
「最後に〝誘拐〟だ…コイツは他と違い何処にでも有る事件何だが…他の事件の少し前からヤケに〝増えた〟って事で二つの事件に絡んでるのではと睨んでる…既に全国で頻発してる…男も女も老いも若いも魔術師も非魔術師も、人も動物も関係なく〝攫われてる〟」
「……成る程、確かに警察の公開記録と照合すると、約〝2倍〟か…確かに多いし、作為的だ」
〝窃盗〟、〝遺体拉致〟、〝誘拐〟…無視するには規模が大きいね。
「――俺はコレに〝魔術師〟が絡んでると思ってる、字波もだ」
「その心は?」
「単純に〝証拠が無い〟んだよ、足跡も何も…魔術の痕跡も無いには無いが、訓練された〝魔術師〟なら魔術痕の隠蔽はお手の物だろう?」
確かに、魔術が浸透した今では魔術師の犯罪が犯罪率の割合を多く占めてるが…しかし。
「確かに説明ではその可能性も有るだろうが、私に言わせればそれは〝視野狭窄〟だと言わざるを得ないよ…魔術師で無くとも犯罪は可能だからね…先ずは現場を見てみなければ分からない」
「――ほう?…調査出来るのか?」
「コレでも昔は遺跡探査に熱心だった事が有ってね…些細な変化を感じ取る能力は他人よりも優れていると思うよ?」
「――成る程…どう思う〝字波〟」
私がそう言うと、少し考えた後に翔太君は字波君へと語り掛ける……〝語り掛ける〟…。
「……ん?」
妙だ…何故此処で〝字波君〟に話題を振る?……い、嫌な予感が――。
「す、済まない…そう言えば今日は予定が有った気が――」
「そうね…其処まで豪語するなら、貴方に調査を依頼しようかしら…八咫烏の方でもこの三つの事件の調査依頼が来てるのよね(チラッ)」
「殆ど誰も触れてねぇんだし、調査に優れた奴が行ってくれるのは助かるなぁ(ニヤニヤ)」
「ッ〜〜!?」
は、嵌められた……こ、この男いとも容易く友人を裏切るのか!?…いやまだだッ…。
「わ、私には受け持っている生徒達が――」
「あら、貴方の魔道具なら〝何とか成る〟じゃない」
「ッ……」
彼女に〝アレ〟を見せたのは間違いだったか…!
「……ハァ、分かった、分かったよ……調査しよう…全く」
「アッハッハッ、悪い悪い…だが、コレの調査にゃ優秀な人間が必要なんだよ、また今度美味い飯奢るから、頼むよ」
「まぁ良い、友人と理事長の頼みを無下にするのも忍びない…この埋め合わせはまた後日してもらうとして…仕事はキッチリ、熟させてもらうさ」
そうして私達は本題の話を終え、少しばかり談笑に耽った後に解散する…今日の収穫としては、強力な魔術師の〝友人〟が出来た事かな。




