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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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七発目は悪魔の手に

――ドッ――


「ッ……まだ力が残っておったか…!」


眼の前の老人へ魔力の弾丸を撃ち込む…しかし、それは空を切るだけに留まる…それは良い、さして重要な事ではないのだから。


「――オイ、何で私まで助けた」

「さぁ?…まだ殺すに惜しいと考えたからかな?…それとも一時の闘争の愉悦に浮かれた感傷?…兎も角、君はまだ殺さない…その傷だ、下手に動けはしないだろう?」


私は私へ問う彼女へとそう答える…大した理由は何も無い、生かしにしろ殺すにしろ、彼女程の能力が有るならば利益を吟味するのに時間が必要と言うだけなのだから…問題は今私の眼前に居る狸爺だ。


「相変わらず演技が上手い…使い物にならない〝無駄駒〟の演技が、相手に警戒心を抱かせないその手腕は従来の君の性質だろうが…それにしたって見事な物だ」

「フッ…〝演技〟か…そう言う貴様の方こそ〝演技〟が上手い役者で有ろう……そうも〝余裕を取り繕う〟事が出来る者はそうと居まい…体力は既にカラカラ、魔力はもう枯れ果て絞り出すのも苦しく…今自分が立っているかもあやふやなのだろう?」


……流石は大妖怪か、今の私の虚勢は容易く見抜かれる…確かに魔力は底を尽いたとも。


「フフフッ、その通りだ…宣言しよう…私の魔力は最早欠片も残っていないとも、オマケに身体は鉄枷を嵌められた奴隷の如く重く、地面に立っているのか寝そべって居るかも判断が着かない程に疲労困憊では有る…だが君を殺す事は彼女程難しくは無いよ」

「ほぉ?…ではどの様にして儂を殺す?…〝小僧〟」

「無論…そのつもりだとも……そして、既にその〝儀式〟は終了している、六の弾丸の〝六発目〟、ソレを放ったその時点で」


――ガタンッ――


「〝私の意思とは関係なく〟」


その後に、私の身体は宙に浮く…それは手と頭を引き揚げられる操り人形の様に…或いは、磔刑に処された、人の業を一身に背負おうとした愚かで慈愛に満ちた〝救世主〟の様に…しかし、その光景は〝救世主〟と呼べる程美しい物では無い。


「〝契約は為された〟…そして今、その〝代価〟を支払う時が来た」


ソレは欲望に目を晦ませ、決して正道には戻れない〝外道〟に堕ちた者の〝末路〟の姿なのだから。


「――〝愛殺す悪魔の七弾バレット・オブ・ザミエル〟」



●○●○●○


それは、何の前触れもなく…少なくとも今この場にいる〝二人〟にはそう見える程唐突に姿を現した。


――ギギギギッ――


「コレが貴様の〝本当の姿〟か…!?」


それは〝異形〟と呼ぶに過不足無く、黒靄の身体を持ち、赤く血のような眼光の六つの目を持ち、その黒靄の身体の象る姿は蟲の様な六の脚、爬虫類の様な尾と…凡そこの世の生物とは思えない〝継ぎ接ぐ〟様な不自然な〝気味の悪さ〟を隠す素振りもなく晒していた。


「――失礼な、人を化物の様に…いや、化物では有るか…まぁその問答は必要無いだろう…重要なのは、この〝化物(ザミエル)〟が最後の一手で有ると言う事さ」


その人物は化物の手足から伸びる黒靄の糸に手足を操られながら、その手を己の側に有る〝銃〟へと手を伸ばす。


「〝魔弾の射手〟の〝最終章〟……ソレは悲劇か、いやいや、きっと喜劇だとも…何故ならば〝悪魔の取引〟を軽んじた彼等が〝報い〟を受けるという〝因果応報〟の結末なのだから、そして私は悪魔と契約を結んだ〝罪人(カスパール)〟で有り、〝狩人(マックス)〟だ、六発の後の〝七発目〟…〝悪魔の弾丸〟が狙うのは〝私の愛〟…即ち」


そして、その機械の様な〝瞳〟を翁へと向けて引き金に指を掛け…〝笑みの形〟を造る。


――チャキンッ――


「〝最愛の人(字波美幸)〟…私の〝大事な人(アガーテ)〟だ」

「ッ――!?」


そして、引き金を引き……その〝七発目の凶弾〟は凄まじい〝魔力〟と共に眼前の翁へと迫る。


――ジュィンッ――


「――貴様…〝真性の狂人〟か!?」

「さぁ、それもまた〝直に定まる〟とも」


濃密な魔力のエネルギーにその腕を失いながら叫ぶ翁へ、その男は不気味な〝歪んだ笑み〟と共にそう答えた。



○●○●○●



「――コレで生徒達は全員無事ね…」

「はい、後は職員だけなのですが…すみません、未だ数名の臨時雇用の魔術師と、〝不身孝宏〟先生だけ消息が分からないとの事で」


生徒達全員の所在確認が済み、一息吐く…最悪の状況は免れる事が出来たのは理事長として喜ぶべき事だろう…しかし。


「そう…報告ご苦労さま、後数十分で魔術師局から派遣された部隊が来るわ、それまで悪いけれど侵入者が居ないか見張って頂戴」

「了解しました」

「……」


この心が喜びと共に不安を抱えているのは、未だ私の唯一の友人、そして……大切な職員の一人、〝孝宏〟の行方が分かっていないからだろう。


(…大丈夫な筈よ)


彼の〝能力〟は良く知っている…万に一つの〝死〟は無いだろう…しかしそれでも、〝不安〟を感じずには居られない…。


「……捜索するべきかしら…」


そして、私がそう思案していたその時。


――ゾォッ――


「ッ!?」


遥か彼方の山の方から、凄まじい密度の魔力が迫っているのを感じ取り、私は反射的に〝防郭魔術〟を行使する。


――ギィィィンッ――


甲高い鉄の擦れる様な音を奏でながら、私は眼の前に広がる…その〝襲撃者の姿〟に瞠目する。


「この…〝魔力〟は…!?」


全力で展開する防壁が、軋む…小さな〝一つの弾丸〟を相手に…その弾丸に込められた強大な力を纏う〝黒靄の化物〟に。


しかしその化物から感じるその〝魔力〟を私は良く知っている…それは。


――パキンッ――


「ッ―――!」


〝不身孝宏〟…その人の〝魔力〟だった…。


弾丸が防郭を突き破り肉薄する…私の頭部へ…その絶大な力を帯びた一撃が、私へ触れんとした、その刹那――。


――キィィィンッ――


私の身体を包み込む様な…優しい〝魔力〟と黒い魔力が衝突し…そして、その〝弾丸〟が弾けて跳ね返された。


「……」


その一瞬の光景に呆然とし、そして。


――パラッ――


私の頭部から剥がれ落ちた…白薔薇のカチューシャの装飾を見て、私は正気に戻り弾丸の後を追った。

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