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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
122/317

六発は人に、そして―

――ギィィィンッ!――


その戦いは、まるで御伽噺の様に凄まじく、人間離れしていた…。


――キュィンッ――


「「『フッ!』」」


互いに研ぎ澄まされた集中力でそれぞれに絶技を放つ…その一刀は山を森を駆け巡る大絶叫と成り、その一撃の余波は容易く大地の形を変動させ、木々を薙ぎ倒し、空を震わせる…。


――シャリィィィンッ――


「ッ…隙間が…!?」

「『接合部を狙うとは殺り慣れてるねぇ!』」


凄まじい攻防、攻撃の応酬の最中…彼女の隙を縫う様にその鉄の男は刀を持たない片手で彼女の胴部へと手を置く。


「『〝衝撃(インパクト)〟――〝多重展開(マルチ・キャスト)〟」


その瞬間、彼女はその身体をくの字に折り遥か天空の彼方へと吹き飛ばされ。


「『――〝黒蟲〟…〝飛翔羽〟起動…〝空中活動形態(エアリアル・スタイル)〟に変更』」


――ガシュンッ――

――ブブッ――


「『グッ――コレは中々…だが、まだまだ許容範囲だ』」


勝負の舞台は天高くへと移り変わった…。



○●○●○●


痛む…四肢が負荷に軋み、悲鳴を上げる…何度腕が圧壊したか数えるのも無駄だ、身体中を蝕む激痛は私が気を失う事を赦さない…それは不愉快で有り、ある一点で〝好都合〟だった。


「『カフッ……』」


血反吐を吐き捨て、このスーツに内蔵された術式で天の彼女へと肉薄する…。


――ギィンッ――


嗚呼、苦しい…肺が飛翔する身に受ける空気の圧で潰れる様な気がする…強力な負荷に繰り返す意識の混濁を制しながら…私はただ一つの〝目標〟に向けて前進する。


「『ハハッ…』」


彼女を〝殺す〟…そう、〝殺す〟のだ…その為に身を刻んだ、痛みを刻んだのだと己の中で嘯くソレのままに。


「『ハハハッ!』」


ただ〝殺す〟…私が描くこの問題の終着…私の〝理想的結末〟を現実にする為に…〝理性〟が描いた理想の為に、私はこの一時に〝理性〟を捨てた。


「『――アッハハハハァッ!!!』」


肉体は笑う、精神は闘争の熱に充てられ理性を失くしている…しかし、辛うじてこの身に染み付いた理性の残滓が私を〝観る〟…嗚呼、驚いたとも。


「『〝私に〟…この〝身体〟にまだ、こんな〝原始的欲求〟が燻っていたとは…!』」


人は〝比較〟の生命だ、同仕様もなく〝比較〟を日常で用いたがる…生まれ、歳、背丈、身分、富、能力、才能…汎ゆる物を比較し、〝優劣〟を定め、悦に浸る…そして、取り分け私が〝馬鹿らしい〟と一周する〝比較〟が…今この〝状況〟だ。


この腸に渦巻く悍ましい迄に燃え盛り、心に住み着き離れない黒いタールの様な〝粘性を帯びた感情〟…〝闘争本能〟と呼ばれる…未だ人の歴史と切り離す事の出来ない〝人の獣性〟…ソレがこの身に宿っている。


馬鹿しいにも程が有る…頭が悪いとしか言いようが無い…〝強い奴が勝ち〟、〝弱い者が負ける〟と言う…至極当然の摂理をさもこの世の真理の如くあけっぴろげに宣うその単純さ…ソレを〝頭が悪い〟と表現するに何の相違が有るというのか?…。


嗚呼しかし、頭が悪いがしかし…理解し尽くして尚、〝思い知る〟…。


この〝単純〟で〝頭の悪い真理〟だからこそ…人の歴史の内にそれは張り付き、離れられないのだと…。


「――〝歌え〟、〝謳え〟…〝浅ましき魂よ〟」


私は、この身に迸る獣性に身を委ねながら…そう、〝理解した〟…。




●○●○●○


「ッ――ハハッ…♪」


強張る身体に自然と笑みが溢れる…久し振りのこの感覚に身体から疼きが止まらないのだ…。


「――強ち、茶化せねぇかもなぁ…!」


落下する己の背を地面に向け、私は雲を突き抜けた星々の絵画に浮かぶ〝ソレ〟を見る。


――カッカカカカッ――

――キュィィィンッ――


「〝爾の魂を以て契約は成された〟…〝与えるは六の弾丸〟、〝その六つ目を込め、獲物へと定めん〟」


それは…星達ですら塗り潰さんばかりに広がる巨大な魔術陣…その中心にはその術理の構築者と、その得物…。


「『〝構造変形〟…〝長銃ハンティング・ライフル〟…〝術式接合〟…〝完了〟』」


……刀から転じ、〝銃〟と化した〝童子切安綱〟の複製品が私を射抜かんとその銃口を向けていた。


「ッ……フッフフフッ…参ったな、こりゃ…」


避けなければ成らない…確実に、この一撃は〝致命的〟だとこの身体が告げている…この一撃は確実に決着と成ると叫んでいる…だが、私は〝避けられない〟…。


「頭は負けちまったな…!」


己が身は完全に足場のない天空なのだから、避けられよう筈もない…故にこの勝負は私の負け――。



「――だがまだ勝負は分かんねぇだろ?」


――等と簡単に手放して堪るものか、逃げ場が無いなら〝向かい撃てば良い〟だろう。


――ゴォォォッ――


「来いよ、〝受け切ってやる〟」


己が身に宿る全てを燃やす…猛る魔力を一転に集約し、この五体にありったけの力を流し込む…そして。


「『〝堕ちし必中の六弾バレット・オブ・カスパール〟』」

「〝酒染の赤鬼〟」


私は、天より降り注ぐ〝一つの弾丸〟へと刀を振り抜いた―――。





○●○●○●



――ドシャッ――


人気も妖気も無い場所に、重いナニカがドサリと落ちる。


「―――ッゲホッゴホッゴホッ…!?」


ソレは、その身体を地面に広げながら口から赤い液体を噴き出し…荒い息を吐き出しながらその顔を苦悶に染める…。


「ハァッ…ハァッ……嗚呼、クソッ…イッテェッ…!」


そして、ボロボロに破壊し尽くされた己の右腕と、折れた刀を見てその顔を悔恨に歪める。


――ドッ――


「――嗚呼クソッ…テメェの勝ちかよ…後ちょっとだったのに…」

「……嗚呼、その様だ」


そして、己の側に降り立ったその〝人物〟へとそう声を掛けると、その人物はその身体の鎧を脱ぎ…その砕け散り、繋がっているだけの四肢を地面へとおろして腰を降ろす。


「――……テメェ、そんな身体で〝戦ってたのか〟!?」

「〝思考操作〟で身体を動かしていたからね…でなきゃ最初の一歩で私は崩れ落ちていたさ…」


その人物はそう脂汗に薄笑いを浮かべながら、魔術で懐から小さな〝薬瓶〟を取り出すとソレを飲み干す。


――ドクンッ――


「グッ――ガァァァァァッ!?!?!?」


その瞬間、男の身体が大きく跳ね…凄まじい絶叫が満ちる…その男の四肢は不気味に乱れ動き、その光景は恐怖とグロテスクで満ちていた…だが、良く注意してみれば、その〝身体〟から剥き出しになった捻れた骨が、まるで元の形に戻るかの様に独りでに動いているのが分かるだろう。


「―――ハァッ、ハァッ…ハハ…ハッ…いやぁ、痛かった…だがやはり〝痛い〟と言う感覚は素晴らしい、『二度とこんな無茶をするか』と言う気持ちにさせられる…さて」


そして、完全に〝元通り〟に成った身体を軽く動かしながらそう言い笑う男はそう笑い――。


――ギィィィンッ――


「今度は〝忘れない〟よ、ちゃあんと覚えているとも…〝ぬらりひょん〟…」

「「ッ!?」」


己と彼女の間に現れ、その首に刃を振り抜こうとした人物の動きを制し、そう満面の笑みで告げた。

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