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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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月が傾き黒は薄らぎ

それは…五つの〝星〟が空から零れ落ちて少しした後の事……。



「――さて、状況が変わってきたねぇ?」


天井から月光が差す、その屋敷の中で私はそう笑いながら二人の鬼を見る。


「後は私がどうやってこの窮地を切り抜けるか――」

「ッ――!」


そして、そう余裕綽々と言葉を綴っているとふと私の眼に映る、身体に穴を開けた鬼が其の場から消える。


――ギリィィンッ――


「――おぉ、その身体で其処まで動けるのは予想外だね…決死の覚悟か、執念と言う奴かな?」


或いは、私の余裕が気に食わない…とかかな?…。


「――まぁ、それは良い…悪いけれど、私は君とも君のご主人様ともやり合う気は無いよ…あ、でも実験に使いたいから腕の一つは貰えるかな?」


――ガシッ――


そんな短期で直情的な彼の腕を掴み、少し〝拝借〟しようとしたその瞬間。


――ゾクッ――


「――ん」

「…テメェ……舐めてんのか?」


周囲の空気が重く変わり…その強烈な殺意に私の腕が硬直する…どうやら、この行為は侮辱と取られたらしい。


「――ハッハッハッ…単純な〝物欲〟だとも、上等な妖魔の肉体は幾ら有っても困らないからね…欲を言えば君のも欲しいが…如何せん私に君は殺せないので諦めよう…寄付してくれると有り難いねぇ」

「……」


……そろそろ、〝潮時〟かな?…。


「――まぁ、私の事は置いておくとして…だ」


私は地面に膝を突く鬼の彼へと手を当て…その傷を〝埋める〟…すると険悪な空気が直ぐに霧散し、変わりに鋭い疑念が満ちる…まぁ、構図的には敵を癒やす敵なのだから至極最もな疑念だが…。


「現時点ではまだ、君も君の仲間達も全滅してもらうのは困るんだよ、だから刀を納め給え…私は君達の敵だが、好き好んで戦いたい訳では無い…非暴力主義だからね…ラブ&ピースだよラブ&ピース…と、言うのはまぁ建前でね…うん…君達に伝えないと行けない事が有る」


私は改めて衣服を正し、彼女達へと向き直りそう告げると、一旦闘争の空気が遠ざかる。


「……何だ?」

「――しかし誤解しないで欲しい、コレは私の差し金ではない、誓うとも、誓い先は誰でも良いが、少なくとも嘘は付かない」

「――良いから早く言え」

「――今この場所は〝襲撃〟されているよ」


しかし私が催促に応えて情報を伝えると、刹那…。


――ズドォンッ――


天井の穴から、〝何か〟が飛来する…。


「〝百々目鬼〟の仇――」

「――討ちにしては短絡的過ぎるね君…少なくとも此処が何処か弁え給えよ」


それは一匹の巨大な鬼…ソレが天井から私めがけて殴り掛かり…その巨大な腕が私の結界と衝突する…存外活きの良い個体な様で…結界が少し凹んだ…だがまぁ。


――ドボォッ――


「あぁ、勿体無い…せめて心臓を潰すか頭だけにしておくれよ、血も肉も無駄に吹き飛ばしてしまうと使えないだろう?」


所詮はその程度だ…鬼の総本山で鬼の長を相手取るには余りにも戦力不足だった。


「――どういう事だ?」

「どうも何も、伝えた通りさ…この屋敷に無数の妖魔が列を成して群がっている…〝組織的〟に、実に規律正しくね」


私はそう言い、吹き飛んだ妖魔君の腕を持ち上げ…そしてソレを〝投げ付ける〟…。


「――そろそろ、出て来てくれると嬉しいね…〝瓢田平八郎〟殿?」


宙を進む腕は、その後直ぐに膨れ上がり骨肉を砕いて飛ばし…周囲に猛威を振るう…そして。


――キィンッ――


〝何も無い空間〟の中で、そんな異音が響き渡ると…血煙の中から〝声〟が響く。


「ホッホッホッ…コレはコレは、随分と強引な男じゃのう…もう少し老人を労らんかね」

「生憎と敬うべき人間には性別年齢を持ち込まない主義でね…無銭飲食した挙げ句人に会計を押し付けるような人間など以ての外だろう?――あぁいや、違うな…君は〝人間〟じゃ無かったね」


血煙が薙ぎ去った其処には、一人の〝老人〟が居た…そう、私の良く知る人物…私が知り合い、そしてこの日の為に招集した魔術師に紛れ、いつの間にやら〝瓢田平八郎〟等と言う偽名で〝学園の先生〟に成りすましていた…狸爺が。


「――あぁ、そういう事かよ」


沈黙が満ちた中で、先に切り出したのは〝酒吞〟だった…どうやら彼と面識が有るようで、実に不快げな視線とぶっきらぼうな物言いで眼前の老人を非難する。


「…巫山戯た真似してくれるじゃねぇか、〝クソジジイ〟」

「ホッホッホッ…クソジジイとはつれないのう…鬼の小娘」


二人の間で凄まじい〝威圧〟が奔る…余程相性が悪いらしいのは、間違いでは無いだろう…さて。


「漸く〝役者〟が揃い踏んだねぇ…片や〝人間〟、片や〝鬼〟…片や〝妖魔の群れ〟…そして、君の行動から大方の目星は付いている…〝ぬらりひょん〟だろう、君?」

「うむ、その通り」


私の問いに老人ことぬらりひょんは呆気なく頷き…その細めた瞳を私へ向けて問う。


「しかし、良く分かったのう…御主にはより強く〝認識阻害〟を掛けていた筈じゃが…」

「〝違和感〟が有ったのさ…私は学園へと就職する際、全ての教員の名と名簿に目を通していた…其処に〝瓢田平八郎〟等と言う人物は一人も居ない…なのに生徒達の映像記録では、君は〝先生〟として現れ、そして私はその事に疑問を抱かなかった……それが〝可笑しかった〟のだよ」

「ふぅむ……しかし、これ程早く露見するとはのう」

「当たり前だ、私が目に掛けた奴だぞ…テメェの狡い術なんざ看破されて当然だろうが」



そんな風に…三つ巴の敵対状況の中、我々は長年の友の様に会話を交わし合う……そして。



「「「それじゃあ」」」


またも一言一句、同時に同じ言葉を紡ぎ合わせ……我々は臨戦態勢に入り。


「「「殺ろうか」」」


三つ巴の〝最終決戦〟が人知れず幕を開けたのだった…。

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― 新着の感想 ―
なるほど〜、ぬらりひょんのぬるっと他人の家に上がり込む能力を認識阻害と解釈したわけだ。 しかし教授にも効くとは中々強力な権能っぽい。
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