狐につままれたが如く
どうも皆様こんにちは、泥陀羅没地で御座います。
本日の投降です…態々前書きにて報告する事でも無いですが…偶にはね?…。
――ズオォォォッ――
「――ハァァッ」
満ちる、満ちる、鉛の様に重かった身体は、鳥の白羽よりも軽く変じ、力は満ち、高揚が躰を掛ける……何と〝気分が良い事か〟…。
「ッ…大層な変化だ…死に体の分際で良く此処まで持ち直したと、〝褒めてやる〟」
そんな私の心を害するのは、眼前で構える一匹の鬼…その身に宿る妖力は依然衰えず…しかし、不思議と〝恐怖〟は感じなかった…。
「――だが、所詮死に体から立ち直った程度、思い上がるな――」
「〝諄い〟」
――パチンッ――
私がそう言うと、私の心に反応してか私に生えた炎の尾が伸びて私達の周りを囲い、鬼の小娘の退路を塞ぐ。
「問答等無意味で有ろう…私は貴様を殺す、貴様も私を殺す…それだけの話だ…〝フレア〟」
「『分かってるわ、主様』」
「さぁ…〝決着〟を着けるとしようか…〝小娘〟」
「ッ〜〜!」
私の挑発は、随分と効いたらしい…目に見えて分かる程に〝怒り〟を抱いたその鬼の小娘はドス黒い殺意を身に孕みながら術の〝津波〟を行使する。
「――〝フレア〟」
「えぇ!…〝不死鳥の生炎〟!」
私がそう言うと使い魔のフレアが炎を吹き出して鬼の術理に干渉する…ふむ。
「――やはり〝駄目〟か、腐っても鬼か…フレア、防ぐのは此方に迫る術理に絞れ、ソレ以外は無視せよ」
「『ッ――分かったわ!』」
私はフレアを掴み、迫る魔術の群れを避けて動く…やはり正面切っての押し合いは手間が掛かる。
(さて…この〝器〟もそう長くは保たん…折角懐かしの現世と言うのに口惜しい――)
「――はて?…一体私は何を…?」
「『ちょっとちょっとッ、主様前前前!!!』」
「んッ――よいッと!」
――タンタンタンッ――
隆起し迫る岩を足場に戦場を飛び回る…そして、私と鬼とが天と地の場所から視線を交差させる。
「逃がすか!」
先に動いたのは地の鬼だった…その鬼はそう叫びながら私に手を向け、風と水の刃を撃ち、私を狙う…それに対して〝私〟は対抗せんと手を伸ばすも、間に合わず…その凶刃が身に減り込む……。
――ドッ――
「…フッ――」
それへ鬼の小娘が嘲る様な笑みを浮かべたその直後、減り込んだ凶刃が私の身体を裂き進み…その傷口を晒す…そして。
――ブォォォォッ――
私の〝躰〟からは…人が身に宿すのも憚られる様な灼熱が血液の如くに吹き出し鬼の目を惹く。
「なァッ!?」
「――〝妖狐の騙火〟」
そんな鬼の娘へ迫るのは…地面を駆けて肉薄する〝私〟の姿…単純な囮戦術にまんまと掛かってくれた。
「フッ…♪」
「ッ――舐めるなァッ!」
未だ隙だらけな鬼の身体へ炎の息吹を吹き掛ける…炎はそんな鬼の娘を容易く飲み込み、炎の中の陽炎としてその影を映す…。
――パチパチパチッ――
燃え盛る炎の弾ける音だけがこの空間に響く、静寂が満ちたその場所ど私は決着を予見し、肩の力を抜く――。
――ドスッ――
「ッ――人間風情が、驕ったな…!」
「――コフッ…!」
刹那…私は身に奔る衝撃に、目を丸くする…少し視線を落とせば其処には…陽炎と化していた筈の鬼と、その鬼の煤と炭と肉の混じった腕が私の臓腑を貫いていた…。
――グチュッ――
「貴様の死骸は手下の下級鬼共に投げてやる、手足を食われ、死骸を犯させてからその身をも食い尽くさせてやる…!」
鬼の小娘はそう、憎悪と殺意に満ちた顔を下卑た笑みと嘲りで彩り、そう叫び笑う…。
「――嗚呼、全く……」
何と〝品の無い〟煽りで有ろうか?…。
「そう言う言葉はちゃぁんと〝勝って〟から言え…この間抜けめ」
私の〝躰〟が…膨れ上がる…その身に渦巻く〝魔力〟が炎と成り、膨張し…その器を壊す勢いで荒れ狂っているのだ…そして、その器は悲鳴を上げるようにはち切れ…〝私の形をした炎〟は、その直近…私の腹に手を突っ込んでいたその鬼諸共周囲一帯を焼き尽くした。
「ガギャァァァァァッ!?!?!?――馬鹿なッ、コレも…偽物何てッ…!?」
荒ぶる炎が大地を満たした刹那…混乱と苦痛に叫ぶ鬼の小娘は天上を仰ぎ見…そして、絶句する。
「――〝燃えよ薪、燃えよ獣、燃えよ人、燃えよ大地、悉くに燃え落ちよ、常世全て灰に潰えよ〟…〝我が滅火は万物一切を否定する〟、〝救済は無いと知れ〟」
地上には荒ぶる炎が、四方には外界を隔てる焔火が…そして、唯一残った外との繋がりで有る〝空〟には――。
「〝灼炎結界〟――〝灰舞う内界〟」
――ゴオォォォッ――
渦巻く〝焔〟が…その天の黒に蓋をしていた……そして、炎で埋め尽くされた世界の中で私は眼下の鬼へと告げる。
「――〝妖魔如き〟が、〝驕った〟か?」
そう、その小娘に悪意と嘲弄を込めて…閉じゆく焔の世界でそう告げる。
「―――人間〝風情〟ガァァァァァッ!?!?!?」
絶叫が世界に響き渡る……その声は誰にも届く事は無く、やがて完全に炎で覆われた世界で苦悶と憎悪の叫びだけが炎の中で響き渡り…その声も次第に焔によって掻き消えてゆく…。
それから暫く…私は炎を眺めて居た。
――ギュオォォォォッ――
そして…炎が凄まじい勢いで〝流動〟し、炎の塊を一人の少女が〝飲み干して行く〟…姿は人でも中身はやはり幻獣か、その見た目は中々に強烈だった。
――ゴクンッ――
「――はふぅッ…ふふん!…私達の勝ちね!」
「嗚呼、そうだな…ふれ…あ」
――ドサッ――
フレアの言葉に私はそう頷くと…その身体を地面に倒れ込ませ、意識が黒に塗り潰され始める…。
「『え!?――主様!?』」
私の視界には…そう驚きと共に私へと駆け寄るフレアの姿と――。
『一先ずは眠るが良い…〝末裔〟の子よ…良い働きで有ったぞ』
そんな、何処か懐かしさを感じる幻聴が其処に〝在った〟…。




