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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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暗い森の駒遊び

――ズンッ…ズンッ…――


「キャアァァ!?」


暗い森に少女の悲鳴が響き渡る…未だ戦乱の火も冷めやらぬ夜の中で、少女含めた子供等の一団は窮地に陥っていた…。


「フッヒヒャヒャッ…新鮮な人の肉だ!…此処数百年は畜生共の硬い肉しか食ってなかったからなぁ!…久しぶりに喰らう人の血肉はさぞ美味いであろうなぁ♪」


全員漏れ無く負傷し、立ち上がるもままならず、一塊に成り震える…何ら不思議は無く…そも、この状況で未だ少女等の様な〝例〟が出ていない方が奇跡とも言える…。


妖魔が活発化し、その上相手は日本が誇る妖魔の内でもその〝戦闘能力〟に掛けては最も〝優れた〟鬼種…それに持ち堪えていただけ少女等は優秀だった。


「おい、頭目から殺すなって言われてんだろ!」

「あぁ!?――わぁってらぁ…〝味見〟よ〝味見〟…ヒヒッ♪」


――しかし、コレは〝闘争〟で有り、〝競技〟でない…負ければ死に、勝てば奪う…〝戦い〟とはつまりこの二つ、明確な〝勝敗〟を定める手段で有り、負けた側が如何に優秀で有れども〝負けた時点でそれまで〟なのだ。


『〝血と泥の地獄〟に美談等無いよ』


少女達は思い出す…それは残酷で、しかし決して逃避しては成らない〝闘争の本質〟…負けた側に名誉等無く、勝者こそが〝絶対正義〟の〝闘争〟…何処までも甘い己等の認識を締め上げる為に告げられた冷たい言葉を。


「……あ…ぁぁ…」

「――どれ、先ずは貴様からだ…一番美味いのは最後に食うに限るからな」


そして、その筋肉質な大男の様な鬼はそう目の前の獲物にギラついた〝瞳〟を向けらその手を少女へと伸ばした――。




「〝私の生徒に触れるな〟」



それは、絶望の中に差し込んだ光…暗がりに落ちかけた少女を照らす〝月光〟の到来。


――ズパンッ――


「「――あ?」」


その声に少女が閉じた瞼を開く…其処には己に迫る鬼の巨腕は無く、〝蝙蝠の翼〟と〝一人の女性〟の姿が有り…鬼達の素っ頓狂な声だけが耳に届く。


――ボシャッ――


何も見えず、ただ一瞬の〝騒音〟だけが響く…その騒音はその後鳴りを潜め、暗い森のさざめきと、不穏な沈黙のみがその場に残される…しかし、その不穏は長くは続かない。


「――今まで良く持ち堪えたわね…皆」

「あ、字波先生…!」


何故ならば今、己等の前にはこの場で最も頼りになる存在が居るのだから…。


「――後の事は任せたわよ…本当に腹立たしいけれど、貴方達の〝本来の役割〟の出番ね」


その女性…字波美幸は彼等の無事を一瞥するとそう言い此方へと駆け込んで来た二つの〝影〟に目をやる。


「オーケーだ〝依頼人〟…ってな訳で俺は餓鬼共の輸送だ」

「――じゃ、私は妖魔達を処理しつつ取り残された子達の保護をしてくるよ…一応聞いとくけど大丈夫だね?」

「任せろ、雑魚相手にゃ負けねぇさ」


其処に現れたのは、軽く息を整えながら軽口を叩き合う男性二人…その様子を吸血鬼の彼女は一瞥すると、その後問題無いと判断したのか空に消える。


「さて…俺達も行くか……の前に回復だな、最低限動ける様にしねぇと」


そして、そのまだ若い男はそう飄々と言いながら少女達を保護するのだった。




●○●○●○



――バサッ…バサッ…――


「妖魔の数が多い…それに、孤立した生徒もかなり居るわね…」


己の感知に捉えられた妖魔達の反応、そして…未だこの森の中を散り散りに行動している生徒達の反応を確認し、字波美幸は呻くようにそう声を口にする。


「救助チームも奔走してるけど手が足りない」

(強い妖魔の反応から処理して…〝六匹〟…例の〝襲撃者〟ね…順繰りに倒す…でも…)


そして目まぐるしく浮かぶ情報に悩み…心に焦りが生まれる…その時だった。


「――〝一つの駒〟で全ての駒を取るのは非効率だろう?」

「ッ――!」


何処からか、其処からか…一人の〝男の声〟が彼女の直ぐ側から聞こえてくる…それに彼女は直ぐ様目をやると、其処には彼女の脳に結び付いた声の主が彼女の目を見ていた。


「孝宏!」

「やぁやぁ字波君…随分と対応に困ってる様だねぇ?」


その声の主は、相も変わらず薄笑いを浮かべながら謎めいた雰囲気を纏い、目の前の〝友人〟を試す様に見ながらその白衣をはためかせ…そう問う。


「えぇそうよ…流石にこの規模は予想外だったわ…救助チームが足りない上に、例の襲撃に居た妖魔達が四方に散ってる…どれから手を付けるべきか…」

「おいおい、君がこの学園のトップ何だよ?…もう少し景気の良い顔をしてくれないと士気が下がるじゃないか……と、軽く煽ってみるものの…流石に〝教師〟じゃ〝軍師〟の真似事は荷が重いか…知恵の方向性が違うものねぇ…」


その問いに応えかねる美幸の言葉にその男はそう苦笑いを浮かべながら眼下の森を見…そして〝言う〟…。


「――此処は一つ、私がこの〝盤面〟を相手取ろう…なぁに、戯れに極めた〝駒戯〟の腕を見せて上げよう♪」


と…その自信が何処から来るのかと思えばそんなどうにも頼りない言葉に彼女は口を開こうとするが、その声は男の〝冷静な言葉〟に掻き消される。


「――要は〝如何に手持ちの駒を上手く使うか〟だ、折角〝歩兵(ボーン)〟、〝騎士(ナイト)〟、〝ルーク(戦車)〟、〝司祭(ビショップ)〟、〝女王(クイーン)〟と豊富な手札が有ると言うのに〝女王〟だけで対処する何て非効率極まるだろう、〝ワンオペ〟何て最も忌むべき下策だ」


そう言うとその男は彼女に手を差し出し、そのくすんだ緑色の眼で彼女を見つめて芝居掛かった台詞を吐く。


「さて、〝私の女王〟様…私の手を、この〝司祭〟が君この盤面をひっくり返す〝一手〟を示そう…人間で有るならばそれなりに苦労するが、生憎……我々の構造は〝人間とは少し違う〟…多少の無理も通ると言う物だ♪」


その声は静かで淀み無く…だが無邪気で愉しげな声をしていた…。

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