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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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休息と鍛錬

――ゴーンッ…ゴーンッ…ゴーンッ…――


一日目の〝訓練〟は無事…誰一人欠ける事無く終了した…そして、〝鬼達〟の襲撃も予想通りに〝無い〟…尤も、仕掛けるならば今日の可能性が高く…ソレ故に〝油断〟する事は出来ないが…。


「兎に角諸君、昨日の今日で朝から昼まで訓練尽くしでは流石に気が滅入ると考えた私は、君達のリフレッシュに思考を費やした結果、一つの結論に至った!」


兎も角は彼等のケアで有る、死と生の境目を生き抜くと言う訓練には多少なりとも精神の疲弊が起きる…であればまた過酷な訓練よりも半日を費やしてでも〝休息〟を取るのは成る程合理的な判断と言える。


「〝食事〟、〝運動〟、〝風呂〟、〝マッサージ〟に〝娯楽設備〟…この施設に備えられた〝全機能〟の〝解放〟…時間も使用料も気にせずに存分に好きなだけ、〝リフレッシュ〟を行える様既に話を通している…さぁ、今日の夜に備え、好きなだけ遊ぶが良い、〝若人〟達よ!」


――ウワァァァァァッ――


そして少しでも盛り上げてやれば彼等はコロリとこの魅力に囚われる…クックックッ…我が策略にまんまと掛かったな!…。


「――さて、この隙に私は収集したデータを鑑賞がてらに昼寝でもしよう」


嵐の如く過ぎ去る彼等を見送り、私は施設を抜け一人森の中を進む。


――ザッザッザッ――


〝快晴〟、〝夏の日差し〟、〝涼やかな森の空気〟、〝自然特有の土と樹の香り〟…なにより。


――ドサッ――


「―――ハァァァッ……気持ちが良いねぇぇ…この場所は♪」


人気無く、開けた森に出来ている小さくも大きくも無い丘、自然が生み出した〝緑のベッド〟は、この山屈指の〝昼寝ポイント〟と言えるだろう。


「……さて、そろそろ〝眠る〟か」


もう少しこの青い空に癒やされていたいがそれとこれとは別問題と切り分け、早速業務に移る…とは言っても所詮は映像の確認と情報の整理…1時間程あれば終わる物だ。


己にそう言いながら、肉体を脱力し…その身を大地と同化させ、暗闇に落ちてゆく……そして、その瞬間。


――ヒュオォォォッ――


己の暗闇を晴らすか、破るか…表し方はどうあれ、暗闇を塗り潰さんばかりに無数の〝映像〟が流れ出し、私の脳へと注ぎ込まれて行く…。


『フフフッ…夢の中で疲れると言うのも、妙な話だねぇ』


彼等の〝数時間〟を何倍にも加速させながら私はそう、夢の中で苦笑いを浮かべるのだった。



○●○●○●


――『―――』ッ――


喧騒、歓声、談笑…其れ等を潜り抜け、(土御門九音)は一人、人気の少ない、かと言って施設とそう離れた訳でもない訓連場へとその足を伸ばす…無論、鍛錬の為に。


「……ふぅぅぅッ」

「――主様はまた訓練なのかしら?」

「ッ!」


私は一人深く息を吐き…〝鍛錬〟を始めようとした…その矢先に緋色の髪の少女…幻獣〝不死鳥〟…否、最近では自己の事を〝フレア〟と呼称し始めた私の使い魔が現れる。


「……遊びたいなら好きにしなさい、此処にいても暇でしょう?」

「そう…なら此処に居るわ♪」

「……別に構わないわ」


私はそう言い太陽の様な笑みを浮かべる少女を見てから…再び〝鍛錬〟を始める。


――パチッ…パチパチッ…――


炎を〝手にする〟…私の魔力を薪に燃える炎を…ソレに更なる(魔力)を焚べて其れ等を〝収縮〟する…。


『魔力量は後天的に増加させる手法も有るが、ソレには長い〝時間〟が必要だ…生涯掛けて鍛錬したとしても、精々が元の魔力量の半分程度しか増加しない…故に、魔力量の優劣は古くから魔術師の〝優劣の指標〟と成ってきた…単純な出力の話だが、強ち間違いとも言い切れないのがややこしく…それだけに今も尚〝魔術師の選民思想〟は根強い…君も以前はそうだったね?』


鍛錬の最中…ふと、ほろ苦い記憶が浮かぶ……それはこの〝鍛錬法〟を学ぶ時の一部始終。


『――とまぁ、君の過ちを突く悪趣味はこれまでにして…優れた魔力量で有りながらも研鑽を怠らないその姿勢は見事だ…多くの場合は魔力量増加の鍛錬を蔑ろにした者達ばかりだからね…君の様な人材は貴重も貴重だ』


その人物はそう言うと『しかし』、と前置きし更に言葉を紡ぐ。


『〝膨大な魔力を持った魔術師〟の〝魔力鍛錬〟に於いて、通常の魔力鍛錬手法では非効率だ、膨大な魔力を全て放出するにも、出力を上げれば周囲の被害は増し、かと言って低出力では時間が掛かる…では、鍛錬法は無いのか?……否、勿論〝有る〟とも…極めて効率的で〝副次効果〟も期待出来る物がね♪』


その人物はそう言うと、その顔を悪巧みをする子供の様に変えて私へ耳打ちする…それは――。


――ジュウゥゥゥッ――


「ッ……ハァッ…ハァッ…ハァッ…」


手に〝収縮〟させるの止める…何か異常が有った訳じゃない…単純に〝魔力切れ〟を起こしただけだ。


「――前よりは…少し大きくなっている…か?」

「あら?…〝魔石〟ね?」


大地に腰を降ろす己の手元を見ながら、フレアはそう言う…真紅の宝石の様な〝石〟を握りながら、私はその言葉に同意する。


〝魔石の精製〟…魔術世界に於ける〝代表的な素材〟…それは魔力の結晶、〝物質化した魔力〟で有り、或いは〝生命力の結晶〟…厳密には異なる差異が有るものの、この様に〝魔術的に利用出来る魔力の石〟は総括して〝魔石〟に分類される。


私が行う鍛錬法は、その魔石を〝一から自力で創る事〟である。


「―それで、その魔石はどうするのかしら?」

「〝売る〟のよ…先生にね」


私は疲れを滲ませながらフレアにそう言い、その〝魔石〟をポーチに入れる…。


「少し休憩してから再開するわ…フレア、水を頂戴」

「分かったわ♪…丁度さっき〝瓢田〟と言う名前の先生さんから飲み物を貰ったの!」

「〝瓢田〟先生…?」

「えぇ!…とても良く食べる人の子だったわ、他の人の子との大食い対決にも勝っちゃうくらいよ!――あ、ほら彼処」


水を受け取りながら、そう言うフレアの話と、指を指す方向を見る…其処には…。


「〜〜♪」


笑顔で両手にアイスを持って食べる老人が他の生徒達に連れられ、この訓練場へ足を運んでいたのだった。



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