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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
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見守る者達

――ガサガサガサガサ――


「――チッ…おい響ッ〝追加〟だ!」

「はぁ!?――ただでさえ集ってきてんのにこれ以上はキャパオーバーだぞ!?」

「分かってるッ、一点突破で撤退するぞ!」


それは例えば、己等の許容範囲を超える妖魔の群れに撤退を選択する賢者達で有ったり。



〜〜〜〜〜〜〜


――パンパンパンッ――


「側面から回ってくる妖魔から順に狙え、僕は正面の妖魔の機動力を削ぐ」

「了解、〝支援師〟は魔力供給と撤退路の安全確保を頼む」

「OK任せて、火力支援が欲しかったら一声掛けてよ、微力だけど少しは出来るから!」

「あぁ、〝想定〟しておく」


それは例えば、陣を構え極めて効率的に獲物を討ち取る洗練された〝兵士〟達で有ったり…。


――ザザザザザンッ――


「――〝魔鋼甲冑〟…〝足軽装駆〟!…貴さん等は〝鈍い奴等〟を狩れ、俺は狙い辛い小者早者共を狩る!」

「了解、無理しないでね武君」

「応!」


それは例えば、己の未熟を克服した者とその仲間による高練度の連携で有ったり…。


ざわめく森の内々で、生と死と悪意と戦意、血と肉に満ちた〝戦い〟が勃発していた…。


「――ふぅむふむふむ……コイツァ俺等の出番は無さそうだねぇ〝紅葉〟の旦那」

「その様だねぇ…やはりと言うべきか、彼等のスペックは魔術師見習いと呼ぶには些か〝強過ぎる〟…コレでは我々は彼等の蹂躙劇を鑑賞する〝観客〟に徹するしか無いねぇ…ま、それで給金が手に入るのだから〝儲け物〟って物だが」

「確かにな……だが、仕事は仕事だ、気ぃ抜くと――」


――バスンッ――


「――〝違約金〟を支払う羽目になっちまうから、気ぃ付けねぇとな」


草葉の陰…いや、別に彼等が死んでいると言う訳では無いが、兎も角…彼等は〝危険地帯〟と評するに相応しいこの〝森林〟の中でそう駄弁りながら、己等の得物の引き金を引く。


「――しっかし旦那…アンタの得物は拳銃とナイフだったんじゃねぇの?…こんな〝大物〟どうやって持ち運んで来たよ?」


人気の無い森の、そのまた奥深く…生徒達の眼の届かぬ〝山の中腹〟でその草臥れた青年はもう一人の飄々とした老人の手元を見る。


「〝魔術師〟だからねぇ…持ち運びは様々な手法が有る…分解して持ち運ぶ、魔術による構築、空中投下等々…人知れず持ち込む何て造作も無い」


その老人の手には…否、老人が扱うその武器は…2メートルに届くかと言う長物で有り、その重さは、山の大地に沈む様が物語る程に重く、その銃身全体に、それはもう〝大量〟に刻まれた識別不明の刻印から感じ取れる〝気配〟からは…一目見てソレが〝兵器〟と呼ぶには過度が過ぎる程の〝威圧感〟が滲み出ていた。


「――さて…お喋りも程々に…私もそろそろ〝仕事〟をするとしよう」


その老人はそう言うと、マガジンに手を掛けガチリッ…と接続音を立ててその筒を〝銃身〟に変える。


「〝GHS1〟――〝起動〟」

「『〝承認〟――〝術式を有効化〟』」


すると、その老人の声に銃身からそんな機械音声が流れ出し、その銃身に刻まれた刻印を蒼白く発行させ始める。


「〝命令入力〟――〝該当状況の収束に必要な標的を捕捉〟しろ」


それに驚く青年を気にも留めず、老人は銃身へ語り掛ける様に声を上げ、そのスコープを覗く。


「『〝承認〟――〝各種探知術式〟により〝観測〟――〝命令に該当する標的の全捕捉〟をクリア』」


その老人の眼には、喰らい〝黒い森〟が映り、其処に広がる無数の〝妖魔の反応〟を冷たい目で見通し、スライドを引く。


「〝弾丸を装填〟」

「『〝弾種〟――〝悪魔の猟弾ハンティングバレット・ザミエル〟を確認…術式を活性化…〝完了〟』」


そして、その引き金に指を掛け…軽く息を吐き…そして、深く吸い、呼吸を止めたその瞬間。


――カチッ――


老人はその引き金を指で引き…弾丸を発射する。


――ズドンッ――


ソレは刻まれた術式に衝撃が加えられる事で炸裂し、その銃身を駆け巡りながら無数の〝魔術陣〟を通過して…その弾丸の〝力〟を引き出していく…そして、その弾丸が発射口を抜けた瞬間。


――シュィィンッ――


ソレは回転しながら…無数の〝弾丸〟と成って森の中に消えてゆく…。


「……良し…コレで暫く問題ないかな」

「……何したのか…ってのは聞かねぇぜ?」

「そうしてくれると有り難いねぇ…互いに詮索は無しに、〝雇われの魔術師〟として上辺だけの友好関係に留めておこう…さぁ、また暫くは〝暇〟に成る…互いに煙草でも吸いながら雑談でもして暇を潰そう♪」

「だな」


その後、老人と草臥れた青年は互いにそう薄く笑い、各々の煙草に火を点け、紫煙を纏いながら他愛の無い会話を続ける…。


――ズドドドドドッ――


人知れず…群れを成す獣達を処理しながら…。


〜〜〜〜〜〜


「――ハァッ…ハァッ…クソッヤベェ!…仲間と逸れちまった!」


荒い息を立てながら、青年は苦々しく焦りを口にして大地を駆ける。


(まだ遠くには行ってない筈だが…チッ!)

「――ックソが、捕捉された…!」


青年は振り向くこと無く駆けながら、己の背後から微かに感じるそのジットリとした不穏な気配に舌打ちをする。


(クソッ…予想以上に梃子摺った所為か…どうする、一か八かで仕留め――無しだ、何匹居るかも分かんねぇのにやってられるかよ…良し)

「〝火球〟――先ずは〝合流〟を最優先だ…!」


そして森林の中で微かに開けた葉の天井へ向けて火球を放つと、その身に魔術を纏い、木を足場に飛び上がる。


――ヒュウゥゥッ――


「ッ――其処か」


そして空に浮かぶ…別方角に放たれた〝狼煙〟を確認すると地面へと目を向けた…その直後。


「クエェェッ?」

「ッ――しまっ!?」


空の上から聞こえた…嘲弄する様な声と共に振り下ろされたその〝攻撃〟に背中を打たれ、地面へ落下する…。


(空にも…居たのかよッ)


落下しながら青年はそう悪態を吐き地面を睨む…其処にはやはり、無数の〝野犬〟の様な…しかし野犬と呼ぶには〝凶暴〟な風貌をした〝妖魔〟が青年を出迎える。


(チッ…駄目だな、間に合わねぇ…)

「ヤッベェな…死ぬわ…コレ」


そして青年はそう引き攣った顔で恐怖を口にし…目を閉じた……。


――グシャッ――





………。


…………。


………………?。


来ない、来ない…落下の痛みも、妖魔の牙に食い千切られる痛みも、死の忘却も、何もかも来ない…どう言うことかと疑問を浮かべ、閉じた瞼を開く…其処には。


「――ホッホッホッ…何とか間に合って良かったわい♪…大事は無さそうじゃのう〝童〟よ」

「……アンタは…」


其処には、既に身体を断ち切られ息絶えた妖魔の骸と…ソレを背に、此方を見ている〝老人〟の姿が有った。


「うぅむ…しかし困ったのう…儂等が直接姿を表すのは駄目なのじゃが…どう言い訳した物か…うむ、この事は黙っておれ、〝童〟よ…良いな?」

「…はい……ありがとう御座います…〝瓢田先生〟」

「ホッホッホッ…構わんぞ?……〝人の子〟よ」

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