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魔人教授の怪奇譚  作者: 泥陀羅没地
第三章:蠢動する人成らざる者
100/317

長く短い一幕

どうも皆様こんにちは、泥陀羅没地にございます。


驚くべきかはさて置き、何と本話で100話と成りました!


大変喜ばしく、継続性の無い作者にしては良く行けたな…と内心戦々恐々としております…えぇ、これも私の作品を読んで下さる読者の皆様のお陰である事は勿論理解しております。


改めて皆様、何時もいいねや誤字脱字の報告ありがとうございます、何時も助かっています。


まだまだ、この物語の完結は遠く…それだけ様々な展開が待ち受けていますので、依然変わりなく、空いた時間の無聊の慰めにでもお読み下されば幸いです。


そして、日々寒さを増すこの季節…くれぐれも病に気を付けて下さいね…作者も気を付けつつ、毎日投稿を頑張ります。


それでは長くなりましたが改めて本編をどうぞ。

――ジャリンッ、ギギギンッ――


「「ウオォ、ラァッ!」」


打つ、打たれ、打ち返す…斬る、斬られ、斬り返す。


「チィッ…しつこいッ…!」

「逃さ…ん…!」


俺が追い、彼奴が逃げる…そろそろか…かれこれ数十は刃を鳴り合わせた…。


「ッ…クソッ!」


どうやら彼奴もそろそろ焦りが見えてきたらしい…それも詮無き事…。


――ズオォォォッ――


「――貴さん等ッ、手筈は!?」

「――〝後少し〟!」

「――上出来!」


己の背後から感じる〝魔力の圧力〟は凄まじく…その勢いは時を超える毎に強くなっている…ソレを正面に見ている彼奴にすれば、その脅威に焦って当然の事…。


「ゴフッ、フッハハッ…俺もそろそろ限界じゃが…此処で倒れちゃおれんよなぁ…!」

「さっさと倒れてくれりゃ助かるがなッ…!」

「阿呆が…そいは無理じゃ…貴さんを倒すまで寝る訳にゃ行かんのよ…!」


そして此方もそろそろ〝目覚める時間〟だ…深手であった事は夢では無い…今は気張って耐えちゃ居るがソレにも限度が有る…故に、此処が最後の踏ん張り所だ。


「――仲間共の所にゃ、一歩と行かせやせんぞ!」

「…そうかよ……なら、しゃんとしろよ小僧ッ…でなけりゃぁ――」


――ダッ――


声と共に奴が駆け出す…ソレに意識を集中させ…相手の動きを警戒していたその瞬間。


「ッ――なッ!?」

「守れるもんも守れねぇぜ!?」


己の想定を打ち破る様に、奴が剣を〝投げた〟…一見、乱雑に投げられた様なソレは、回転しながら明後日の方へ飛んで行き…しかし、どう言う絡繰か、その刃はまるでブーメランの様に曲線を描き己の背後の仲間達へと迫った。


「――させんッ!」


その光景に一瞬呆け、そして気を取り戻し対処する為に身体を深く沈め…バネの様に躍進する…。


――ガキィィンッ――


「ッ…ギリギリセーフだのぅ…が…!」


そして刃を、仲間に触れる寸前で弾き飛ばし…何とか危機から脱した…しかし、それも束の間に俺は新たに迫る危機へ目を向ける。


――ザッ――


其処には、無手の状態で此方へ肉薄する巨漢が直ぐ側まで迫っていた。


「不味いッ…!」

(俺と対角から…仲間を壁に最短距離を潰された!)

「シィィッ!」


そしてその拳は魔力を同調させる為に集中し、動く事の出来ない三人へと振り下ろされた…。



――ドンッ――


「……はぁ?」

「…何じゃぁ…!?」



刹那…己等の視界が切り替わる…奴が振り下ろした拳は地面を砕き…俺と奴の間に居る筈の仲間達とは先程見た光景よりも数歩程離れていた。


「――私は〝回復〟と〝強化支援〟が本領だけど…多少の〝黒魔術〟だって少しは出来るのよ…まぁ…使い熟せてないから、狙った個人にだけ〝幻術〟を掛ける…何て芸当は出来ないけれどね」


混乱する己等の疑問に答えるように、仲間の一人がそう言い、その杖を奴に向け…奴を吹き飛ばす。


「――ありがとう武君ッ…時間ギリギリで、何とか〝間に合った〟わ!…〝皆〟!」


そして、その仲間の号令に呼応する様に…三人の魔術師による魔術の融合物はその威容を輝かせて猛り叫ぶ。


「「「了解…〝複合魔術式〟…〝起動〟!――〝災いの破条(カラミティ・ブラスト)〟!」」」


そして、次の瞬間…彼等三人により構築された…3色の魔力で練り上げられた魔術は…吹き飛ばされ、立ち上るその男に…大鶴刃に牙を剥いた……。


――カッ――


強大な魔力が一直線に破壊を生む…大地を木々を薙ぎ倒し…その込められた力を燃やし尽くしながら、進んでゆく…その果を見る事は出来ないが…しかし、確かに分かる事は有った…。



「――クソッ…テメェ等派手にやり過ぎだろ…何の備えもなけりゃ死んでたぜ…本気で…」


魔力が霧散し、其の場には傷だらけの男が呆れたように此方を見て…倒れる。


「――〝参った〟ぜ…流石にコレは認めざるを得ねぇよ」


最後にそう、己等へ言い渡して…。




○●○●○●


「――寒い」


夏場だと言うのに降り注ぐ…局所的な〝吹雪〟に少女はそう言う…その顔は無表情だと言うのに何処となく不機嫌で有る事を理解させる様な…吹雪よりも寒々しい雰囲気に覆われていた。


(吹雪の所為で彼等の姿が見えない…雪そのものにも微量の魔力が籠もっているから魔力探知も難しい…加えて)


――バスッ――


「……雪の獣が撹乱してますます〝探知〟に集中出来ない…困った…獅子は雪原での生存に適さない」


少女はそう言いながら、己へ迫る雪で造られた獣モドキを処理しつつ思案する。


「このまま時間を稼ぐのは〝悪手〟…時間は彼等の〝敵〟…もう後数分でレクリエーションは終わる……なら、何を待っている?」


そして、この吹雪は恐らくは複数術師による〝極小規模の天候操作〟だ…小規模とは言え〝天候を操る〟以上、その魔力消費を少なく見積もっても〝三人以上〟の術師は必須…〝雪獣〟はまた別の術師だとして…現実的な戦局として、動かせるのは〝氷太郎〟のみ…。


「――その氷太郎は依然姿を見せない……奇襲するつもりなら、何度か隙は有った……だから違う…なら」


思案し、棄却し、また考える…吹雪は熱を奪い寒さは思考を鈍らせるがソレは魔術で対処できる問題だ…しかし、敵からすれば不利な膠着の中、一向に手が出されないこの状況は、魔術では対処しようのない〝未知〟であった。


「――さっぱり分からない…〝全知〟なら、何か分かるのかな…?」


そうして思考するも、その刹那…微細な魔力の雪を突き抜けて、強大な魔力の反応が肌身に触れる。


「ッ!?――……嘘」


その瞬間……〝雪〟は幻覚の様に、虚像の様に…何の収束の予兆も無く驚くほど一瞬に、その〝白〟を失くした……代わりに、少女を出迎えるのは。


「――〝氷武羽衣〟――〝凍て喰らいの孤狼〟」


その身体を、真っ白な氷の皮膚と、鋭い氷の爪で覆った…白銀の〝人狼〟だった。


「……〝一撃〟で決める」

「……驚いた…仲間全員の魔力を、集めてたの?」

「〝確実に勝つ〟…為にな」


納得が行った…この青年が身に纏う氷に籠められた魔力は、データとして記録している青年の魔力量以上の物だ、そして此処まで一切動きが無かったのも、成る程と思考が答えを告げる。


「一点突破、一撃必殺…〝短期決戦〟…想定以上の短期、驚いた…うん、とんだ博打…リスキー…馬鹿な謀策」

「仕方ねぇだろ、コレが一番確実だったんだよ!」


確かに…〝確実に倒せる〟だけの力は有る…しかし、此処まで一人に集約するのに相当の無理を通したのだろう…本当に〝一撃〟放てば〝砕けてしまう〟程に、虚弱な術だ…術としての性能は下の下だろう…だが。


「♪……成る程、うん…馬鹿だけど〝悪く無い〟…それに…ちょっと〝興味〟を覚える…うん、このままでも〝合格〟、だけど…ちょっと〝私情〟を入れる」


この術は…〝無価値〟では無い。


「あん?」

「――私の防御を〝突破〟出来たら…追加で個人的に〝御褒美〟を上げる…御褒美の質は安心して、孝宏先生と引けは取らないと保証する」 


私はそう言い、私の〝魔導書〟に手を伸ばす…〝記憶の魔導書〟…〝魔術の記憶〟の中から、一つの術を〝起動〟する。


――パチッ――


「〝幻想の記憶〟―――〝不死の緋鳥(フェニックス)〟」


その瞬間、私を炎の〝羽〟が覆い…冷たい冷気と私の熱気が打つかり合う。


「…この炎は…」

「うん…私の雇用条件…〝幻獣〟の詳細なデータから構築した術…不死鳥の火力を再現した…流石に〝不死性〟は再現出来ないけど」

「……それでもとんだ化物だな、アンタ…!」


驚く彼へ私はそう言い…そして、彼へ挑発的に言う。


「さぁ…頑張れ」

「ッ…ウオォォッ!!!」


その挑発に、彼は応え…その拳を…〝氷結〟の拳を叩き付けた…。


――ズオォォォッ――


そして、その氷と灼熱は…凄まじい蒸気を生み出し、周囲を包み込む…その光景を遠巻きに生徒達は眺め…蒸気が晴れた先では――。



「――残念…威力は良かった…けど、まだ足りない」

「――ハァァァッ…そう……かよ…」


崩れ落ちる氷太郎と、ソレを受け止める少女の姿が有った。

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