ひとでなし(比喩)とひとでなし(物理)
以下の要素が含まれます。ご了承の上お読み下さい。
・R18までは行かない程度の異性交遊
・昆虫類、両生類、爬虫類
・人外×人間
これは、ひとでなし(比喩)の少女と、ひとでなし(物理)の青年が出会い、夫婦として歩き始めるお話。
「これから結婚生活を送るにあたって、まず確認して置きたいことがありますの」
今日婚姻の義で初めて顔を合わせ夫婦となった夫に対して、元王女で今日から公爵夫人となったホーデリーフェは、真面目な顔で問い掛けた。
「なんでしょう」
ホーデリーフェの夫となった、コトリャロフ公爵ガヴリイルが丁寧な口調で問い返す。
「あなたの子種を受け取って、わたくし身籠れまして?あなたとの間に、子は授かれるのかしら」
「……はい?」
婚姻の儀はまだ朝と言って良い時間に行われた。披露宴が開かれることもなくそのまま公爵家の家にやって来て、着替えを済ませ腰を落ち着けてもまだ昼。使用人たちは主人とその新妻に昼食をと動いていた、その中。
昼日中にまだ若い新妻が発するにはあまりに不似合いな発言に、公爵はもちろんのこと、一流の者ばかりの公爵家使用人たちまで、思わず仕事も忘れて固まった。
ホーデリーフェは公爵夫人となったが、この国、イゾラの出身ではない。隣国と言うには少しばかりどころでなく離れた国、ウルクの王女だ。
そんなホーデリーフェが遥か遠くイゾラまで嫁いで来たのにはわけがある。
本来であればウルク現国王とかつて聖女であった正妃との子である生粋の王女ホーデリーフェは、婚姻外交のため近隣国の王位継承者に嫁ぐはずだった。
だが、残念なことに。
ホーデリーフェは近隣国に嫁ぐには、いささか、かなり、非常に、評判が悪過ぎた。
才能や功績がないわけではない。文武共に優れ専門家すら唸らせる実力。功績もほかのどの王子王女より多く上げている。
問題はその、功績の上げ方だ。
闇討ち暗殺、搦め手暗躍、拷問脅迫、人質色仕掛けなんでもござれ。敵と見なせば老若男女関係なく叩き潰し、邪魔と思えば味方であろうと貶める。そのくせ化け物ばりの求心力で、教祖の如く心酔者を生み出し続け、国教の教皇を危ぶませるほど。
付いた通り名はひとでなしの化け物王女。
彼女を伴侶にしようものなら国を乗っ取られる。近隣国は軒並みホーデリーフェとの縁談を避け、かと言えこのまま国に残そうものなら、ホーデリーフェ教が生まれて国が割れかねない。
頭を抱えた上層部のもとに、降って涌いたのが此度の縁談。
どんな人柄だろうと構わないから、高貴な血筋の女性を妻にと探す、イゾラ国の公爵との縁談だった。
この際、ホーデリーフェを国から遠ざけられるならばなんでも良い。
一も二もなく、ウルクの上層部はこの縁談に飛び付いた。
そしてホーデリーフェとその信者が拒否する間も与えずイゾラ国へとホーデリーフェを送り出し、婚約期間もなく公爵との婚姻の儀を執り行わせた。
わけもわからず国を追い出され、これはもしや婚姻では?とホーデリーフェが気付いたのは、婚礼衣装を着せ付けられているさなかだった。そのままあれよと言う間に婚礼の儀へと向かわされ、その場で初めて顔を合わせた相手と結婚の誓いを立てさせられた。
そして、今、と言うわけだ。
「ええと、あの?」
「聞いていらっしゃいませんでしたの?もう一度言いますわよ、あなたの子種で、わたくしは、」
「聞こえていた!聞こえていたから言わなくて良い!!」
ひとでなしだの、化け物だの言われるホーデリーフェだが、王族と聖女のハイブリッドだけあって、顔は良い。まるで無垢な天使のような、美しくも愛らしい、少し幼く見えるが整った顔立ちをしている。
そんな顔で昼日中から、子種だなんだと繰り返されてはたまらない。
丁寧に保っていた口調も崩れるほどに慌てて、ガヴリイルはホーデリーフェの言葉を遮った。
ホーデリーフェがむっとして、ガヴリイルを睨む。
「聞こえていたなら速やかに答えて下さいませ。こちらは真剣なのですから。はっきり、わかりやすく、はい!」
「その前に」
ホーデリーフェへと片手を突き出して、ガヴリイルは言葉を継ぐ。
「もし、子が出来るなら、私とその、交わる、つもりが、ある、と?」
「夫以外の誰と交われと言うのですか?わたくし、貞淑であれと育てられておりますのよ?」
「それもそうだね。そうだけれど、だって、私は、ひとでなしだよ?」
ガヴリイルが手を広げ、我が身を見下ろした。
「だから、あなたと交わって身籠れるのかと聞いているのでしょう。わたくしの旦那さまは、頭が悪くていらっしゃるのかしら」
「身籠れるよ。私の母は普通の人間だ。だが、嫌ではないのかな、あなたは、化け物に触れられるのが。おぞましいだろう、この身体は」
イゾラ国がどんなに評判の悪い娘でも良いからコトリャロフ公爵の嫁にと探していた理由が、それだ。
コトリャロフ公爵は見た目が人外。手足は昆虫のように細く折れ曲がった骨格に、井守のようなざらついた黒い皮膚。顔はまるで蛾の成虫のように、顔の半分以上を巨大な両目が覆い、頭には触角と、魚のような鰭まで生えている。
「そうですか?」
「え?」
「服から見えている部分に関してはそこまで酷いとは思いませんが、服の下がすごいことになっていたりしますか?腐り落ちていたり、大量の蛭や蛆虫が蠢いていたり、黒茶で脂ぎっていたり?」
うーん、と首を傾げながら、ホーデリーフェは訊ねる。
「あ、黴まみれでモコモコしていたりしますか?それは触りたくないですわね!」
「いえそんなことは、ありませんが」
「ではどのようにおぞましいと?」
ずい、と身を乗り出したホーデリーフェの顔は、好奇心に輝いていた。
「わたくし、おぞましいと言われることは大抵やって来ましたが、それを超えるおぞましいものがあるなら、ぜひお伺い、出来ればご拝見したいものですわ。後学のために」
「後学のために」
「そうですわ。なにごとも、知っているのといないのとでは大違いですもの。ああ、夫婦ですから、今晩寝台で見せて頂けば良、」
「ホーデリーフェ嬢」
またとんでもないことを口にし出したホーデリーフェを、当惑した顔をしつつも止めるガヴリイル。
「ずいぶん他人行儀な呼び方をなさるのね、旦那さま」
「あなたは名実共に私の妻になる気なのかい」
「あら、仮初の妻になさるおつもりでしたの?」
それは困りましたわと、ホーデリーフェが頬に手を当てる。
「わたくし、どうしても血を継がねばなりませんの。旦那さまが子種を下さらないと言うなら、調達方法を考えねばなりませんわね」
「私から調達するつもりだったのかい」
「夫婦ですもの、問題がありまして?」
ホーデリーフェはにこにこと、無邪気に首を傾げた。
普通の夫婦であったならば、なんの問題も不思議もないことだ。けれどホーデリーフェはなにも知らされずに婚姻を結ばされ、夫は見た目が化け物なのだ。
まともな神経のご令嬢であれば、泣き叫んで家に帰してと懇願するべき状況。間違っても、ノリノリで同衾しようとはしない。
「顔が蛾で胴体が七節、手足が蟷螂で皮膚が井守の男と同衾なんて、普通は大問題だと思うのだけれど」
「服の下、七節の身体のようなのですか?」
「ええ。気持ちが悪いでしょう」
「言うほどおぞましくありませんのね」
あっさり言ってのけて、それよりとホーデリーフェは元々乗り出していた身をさらに乗り出す。
「蛾なのはどこまででして?」
「ええ?」
「顔だけ?それとも首まで?もしや胸元や背中もですか?」
「頭と首元ですが」
「まあ!」
嬉しそうに両手を合わせて、ホーデリーフェは微笑む。
「ではもしや、あの魅惑的なふわふわが、旦那さまにはございますの?なんてこと。あとで必ず、触らせて下さいましね」
「いや、あの」
「ございませんの?」
「ありますが」
「まあ素敵!触らせて下さいまし。絶対ですよ。約束ですよ。なんなら今すぐにでも」
「あとで!」
獲物を狙う目で椅子から立ち上がりかけたホーデリーフェを、ガヴリイルが鋭い声で止める。
ホーデリーフェは大人しく腰を戻し。
「あとで、必ず、ですわよ。破ったら怒りますからね」
取れた言質を念押した。
ホーデリーフェに言質を取らせてはいけない。ウルク国ではすでに不文律だが、遠くイゾラ国までは届いていなかった。
慌てたのは、咄嗟に出た言葉だったガヴリイルだ。
これでは、ホーデリーフェに身体を見せ、あまつ触らせることを了承したことになってしまう。
「いや、」
「嫌?否?旦那さま、まさか嘘を吐きましたの?旦那さまは、妻に嘘を吐く方なのかしら」
しゅん、と眉を下げて見せるホーデリーフェ。
幼なげな彼女が悲しげな顔をすると、とても悪いことをした気持ちになる。
「嘘を吐いたつもりは、」
「では、触らせて下さいますのね!」
ぱあ!と途端に明るい顔になるホーデリーフェ。こうなれば、もう今から否とは言えない。
「っ、ぅ、わ、かりました」
「はい。約束ですよ」
にこにこと、上機嫌に微笑むホーデリーフェ。
完全に丸め込まれたガヴリイルに、使用人たちから同情の視線が集まる。
主人を嫌悪していないところはありがたい。
だが、これから自分たちは彼女に振り回されることになるのではないか。
それでも、やはり、ここまで恐れないのは、稀有だ。
さて、この奥方を、自分たちは喜ぶべきか、恐れるべきか。
ガヴリイルは公爵だ。王族と血も近いし、国として重要な立ち位置にいる。
ゆえに最初から嫁いでくれるなら誰でも良いなんてスタンスで探していたわけではない。最初は国内や近隣国から、婚姻で益のある相手を探そうとしていた。
だが、みな、ガヴリイルの姿を見て、気絶したり腰を抜かしたり泣き叫んだりと、まともに顔を合わせることすら出来なかったのだ。親の命令で無理矢理縁談を進めても、失踪したり自殺未遂をしたりと、まともに進まなかった。
だから、拒否されない相手はいないかと、悪名高いホーデリーフェに目を付けたのだ。
上手く行くなんて思っていなかった。駄目で元々、逃げさえしなければ良いと、投げやりなくらいで持ち掛けた縁談だった。
だが、蓋を開ければこれだ。
恐れも気味悪がりもせず、むしろ、いつ触らせて貰えるかしらと、わくわくそわそわしている。
このままだと彼女に場を乗っ取られる。危ぶんだガヴリイルが、会話の主導を取り返そうと口を開く。
「虫、が、好きなのでしょうか」
「あら、固くならなくて結構でしてよ。普通に話して下さいまし。わたくし、あなたの妻ですもの」
「わかった。それで、ホーデリーフェ嬢は、」
「リーフェ」
「うん?」
「リーフェ。もしくは、ハニーやマイスイートでも良いですわね。旦那さまの好きな食べ物はなにかしら?その名前で呼んでも良いですわ」
主導権が取り返せない。
ガヴリイルは外見を盾に、外交の場に着くこともある。重要な会談も、何度もこなして来た。だと言うのに目の前の年若い少女との会話の勝ち筋が、さっぱり見付けられない。
「とりあえず、リーフェで良いかな」
「もちろん。お好きに呼んで下さいまし、旦那さま」
愛想良く微笑んで、ホーデリーフェは話を戻す。
「虫が好きか、でしたわね?ええ。好きですわ。虫って嫌いな方が多いでしょう?平気で触れるだけで、武器がひとつ増えますの」
「武器、ですか?」
「はい。見るのも無理な方がいるでしょう?わたくしが虫を触れれば、そんな方を救うことも追い込むことも出来ますもの」
すい、とホーデリーフェが片手を上げる。謀ったようにその白魚のような指先へ、大きな蛾が一頭留まった。
「あなたが虫が苦手だったとして、わたくしはこの蛾をあなたから遠避けることも、近付けることも出来ますわ。救えば感謝されるでしょう。追い込めば恐れられるでしょう。わたくしの思うままですわ」
ホーデリーフェは立ち上がり、窓に歩み寄ると、そっと蛾を外へ逃した。
窓際に立ち、空へと指先を掲げるホーデリーフェは、それだけで一幅の絵画のように美しかった。
思わず見惚れたガヴリイルと、振り向いたホーデリーフェの視線が交わる。
ふわり、とホーデリーフェが笑みを浮かべる。
「ね?」
小悪魔めいた笑みに、ガヴリイルは目をまたたく。
「わたくしが、生きものに優しい、慈悲深い女に見えたでしょう?虫を嫌わないだけで、こんな風に印象を操作出来ますの」
ふふ、とホーデリーフェは笑う。
「だからわたくし、あまり嫌いなものってございませんのよ。なんでもわたくしの願いを叶えるための武器や道具になりますもの。嫌うなんて、もったいないでしょう?」
「だから私も、おぞましくは思わないと?」
「あなたが思うより、あなたはおぞましくございませんわよ?」
窓際で日差しと風を浴びながら、ホーデリーフェは小首を傾げた。
「わたくしが今までやって来たことの方が、よほどおぞましいですもの。旦那さまの見た目くらい、大したことではございませんわ」
「全身を見たわけでもないのに、断言出来るのかい?」
「今見せて下されば、見た上で断言出来ますわよ?」
「あとで」
「ええ。ではあとで」
にんまり笑うホーデリーフェから、会話の主導を取れないガヴリイル。
「おぞましいことって、いったいなにをしたんだい?」
「わたくしに興味を持って下さいましたの?嬉しいですわ」
「え、あ、うん、そうなる、かな」
まあ嬉しいと微笑んで、窓際から元いた椅子へと戻るホーデリーフェ。
「そうですわね。どれが良いでしょうか。例えば、」
そこまで言って、ホーデリーフェは言葉を途切れさせる。
「どうかしたかい?」
「やっぱり、あとでにしませんこと?あとで、そう、わたくしが身籠ったあとでしたら、いくらでもお話ししますわ」
「どうして?」
「だって」
ホーデリーフェはあっけらかんと、ガヴリイルが今まで言われたことのないことを口にする。
「旦那さま、ずいぶんとお優しい方のようですもの。わたくしが今までやって来たことを知ったら、わたくしのことは嫌いになってしまうでしょう?」
「優しい。私が?」
「ええ。これでもわたくし、いろいろと度を越しておぞましいことをやって来た自覚がございますの。ですから、それを話して、旦那さまに嫌われたくございませんわ」
まるで、ガヴリイルに嫌われたくないとでも言うような。
高鳴った己の心臓に、ガヴリイルは落ち着けと釘を刺す。
ホーデリーフェがガヴリイルに嫌われたくないのは、ガヴリイルの子種が欲しいからだ。それ以上でも以下でもない。完全な、打算。
「どうしてそこまで、血を継ぐことに拘るのかな」
「高貴なる血を遺すのは、高貴なる者の役目でなくて?と言うのは、建前として」
「建前なのかい」
「ええ。実際は、もっと身も蓋もない理由ですわ」
ホーデリーフェは苦笑を浮かべ、語る。
「わたくしの母が聖女だと言うことはご存知?」
「ああ。聞いているよ」
「側妃には姫もおりますけれど、母の生んだ姫はわたくしひとりきりで、残りは王子でしたの」
遠い国ではあるが、王女を娶るからにはと、ある程度の情報は仕入れてある。だからホーデリーフェの語った内容は、すでに知っていることだった。
ここまでは。
「ですが困ったことに、聖女の力と言うのは、女子にしか遺伝しないようですの。つまり、母の力を継いだのは、王族で唯一わたくしだけだったのですが」
ホーデリーフェが、困ったように笑う。
「聖女になるにはわたくし、いろいろとやり過ぎておりまして」
その、いろいろとが、ガヴリイルには今聞かせられないおぞましいことなのだろう。
「ですが、聖女がいないと、いざと言うとき困るでしょう?かと言って、母ももう聖女ではありません。ですから」
「あなたが早く、次代の聖女を産む必要がある、と言うことかい?」
「おっしゃる通りですわ。せめてひとり。出来ることならば五人十人と。スペアは多いに越したことがありませんから」
この娘は、聖女となる女の子を、こんな化け物と契って得ようと言うのか。
「生まれた子が化け物になるかもとは、思わないのかい」
「化け物と聖女のハイブリッドなんて、強そうですわね」
さらっと言われて閉口するガヴリイルへ、ホーデリーフェは笑みを向ける。
「それは冗談として、わたくしの遺伝子は強いですから、きっと生まれた子の見た目はわたくしに似ますわ。中身は似ない方が、聖女には相応しそうですけれど」
「自覚があるのに、直そうとは思わないのかい」
「わたくしは、聖女ではなく王女ですもの」
慈愛でお腹が膨れまして?とホーデリーフェは問い掛ける。
「寄付を元手に弱きものを救う聖女ならいざ知らず、わたくしは王族。弱きものも強きものも、富めるものも貧しいものも、老いも若きも男も女も関係なく、みなを守り導き富ませなければなりませんわ。なれば清らかなだけでも、慈悲深いだけでも足りません。清濁併せ呑み、足元に死体の山が転がっていようとも、艶然と微笑む強さと度量がなくては」
「つまり」
ガヴリイルがホーデリーフェを見つめる。
「積み重ねられるほどの死体を、作ったことがある、と?」
「あら」
ホーデリーフェは頬に手を当て、微笑んだ。
「秘密ですわ。女は秘密が多いほど、魅力的になると言いますものね」
「夫婦なのに、隠し事をするのかい?」
「夫婦だからと言って、すべてを曝け出す必要はないのではなくて?」
ふふふと笑うホーデリーフェの本心は掴めない。
「あなたに愛されたいのですもの。わたくしは魅力的でなければ。ですから、ないしょ、ね?」
悪戯っぽく唇に指先を当てるホーデリーフェは、自分の容姿の使い道など熟知しているのだろう。
彼女が愛されたいのは私の子種が欲しいから。彼女が愛されたいのは私の子種が欲しいから。
勘違いするなと自分に言い聞かせながら、ガヴリイルは浅く長く息を吐く。
「私としても、後継を親戚から探さなくて良いなら助かる。聖女の後継のついでに、公爵家の後継も産んでくれる気はあるのかな」
「当然ですわ。さすがにわたくしでも、生まれる子の性別は選べませんもの、女の子は清らかに育てさせて頂きますが、男の子が生まれたら旦那さまの好きにして下さいまし」
それもひととしてどうなのだろうか。
危ぶんだガヴリイルの気持ちを酌んだかのように、もちろん、とホーデリーフェは続けた。
「母として、女の子も男の子も、愛するつもりですわ。ただ、聖女がいないと世界が危険でしょう?そこは義務を優先することを、許して下さいませね」
「こんな化け物の子を、愛するつもりがあると言うだけでありがたいよ」
「あら」
ホーデリーフェがなにを言うのかと言いたげに、目を見開く。
「愛する旦那さまとの子供ですもの、愛しく思うのは当然でなくて?」
時が止まる。
がしゃんと、食器が割れる音が響いた。
「まあ」
ホーデリーフェの視線がずれて、ようやくガヴリイルは自分が呼吸すら忘れていたことに気付いた。
「大丈夫?お怪我はなくて?」
ホーデリーフェは立ち上がり、食器を落とした女給に歩み寄る。
「し、失礼、致しました!」
「怪我は?」
「ありません!」
「それなら良いのよ。素手で触れては駄目。道具を持っていらっしゃいな」
ホーデリーフェは鷹揚に頷いて、女給の手をなでる。
「身体は大事になさいね。わたくしでは、傷を治して差し上げられないから」
「はい!」
「それから」
すう、とホーデリーフェの周囲の気温が下がる。
「今は身内だけの場だから許すけれど、お客さまの前ではくれぐれも、注意なさいね?わたくしと公爵家の、品位に関わりますもの」
サァ、と女給の顔が青ざめる。
「も、申し訳、ありま、」
「あら、今は良いのよ」
ホーデリーフェがにこりと美しく笑う。女給は、カタカタと震え出した。
「でも、あなたは今日は休んだ方が良さそうね。休ませてあげて下さる?本当に怒ってはいないから、罰を与えては駄目よ?」
「かしこまりました」
別の給仕が女給を下がらせ、手早く割れた食器を片付ける。
「手際が良いのね。ありがとう」
ホーデリーフェは微笑んで頷き、席に戻るとガヴリイルへ目を向けた。
「わたくし、そんなにおかしなことを言いましたか?」
「いや、あの、だって」
「夫婦ですもの、愛し合うのは当然でなくて?それとも旦那さまはわたくしなど愛しては下さらないおつもりでしょうか」
しゅんと眉尻を下げ、上目遣いにガヴリイルを見上げるホーデリーフェ。
「そらさないで」
目を泳がせかけたガヴリイルへ、すかさず要求する。
「それとも、目も合わせられないほど、わたくしの顔が醜いとおっしゃる?」
「逆だ!醜いのは、私の顔で、だから」
「そんなに愛らしい顔をして、おかしなことをおっしゃいますのね?わたくし、蛾のお顔って大好きよ。蝶の顔はいかついけれど、蛾のお顔はとても可愛いでしょう?首には魅惑のモフモフもありますし」
それに、とホーデリーフェはころころと笑って見せた。
「旦那さま、祖国でわたくしが、なんと呼ばれているかご存知でしょうか?」
「それ、は」
「ご存知ですのね。怒りも傷付きも致しませんから、お聞かせ下さいまし」
ガヴリイルは、躊躇いつつも口を開く。
「ウルクの華姫」
「それではなく」
「ひと、でなしの……化け物王女」
「ええ。その通りですわ」
正解!とホーデリーフェは手を叩く。
「わたくし、旦那さまと違って、この外見ですのよ?化け物に見えまして?」
「見えないね」
「この顔ですもの、多少のわがままは可愛らしく見えますわ」
「そうだろうね」
「それなのに、ひとでなしの化け物王女と呼ばれておりますの」
ふふ、とホーデリーフェは上品に笑う。そんな姿はとても、ひとでなしの化け物王女には見えなかった。
「つまり、この外見の印象を覆して余りあるほどに、中身がひとでなしの化け物、と言うことですわ」
口元に手を当て、くすくすとホーデリーフェは笑う。
無垢で愛らしい姿はやはり、ひとでなしにも化け物にも見えない。
「ですから、ね、旦那さま、」
そうしてホーデリーフェは、慈悲深げな笑みでガヴリイルを見つめた。
「わたくしの中身以上に醜いものなど、そう多くはございませんの。安心して下さいまし旦那さま。わたくしの内面に比べたら、旦那さまなんて、少ぉしも、醜くもおぞましくも、恐ろしくもございませんから」
宣言してからホーデリーフェは、ああでも、と付け足した。
「だからと言って、醜いわたくしを嫌わないで下さいましね?わたくし、旦那さまには愛されたいのです」
ああ、と、ガヴリイルは白旗を掲げる。
愛を知らない自分が、この少女に勝つのは無理だと。
もう、良いじゃないかと開き直る。
ホーデリーフェは子種が欲しい。ガヴリイルは公爵夫人と公爵家の跡取りが欲しい。利害は一致しているじゃないか。
ならばこの、泡沫の夢に身を委ねて、それが嘘でも良いじゃないか。
ガヴリイルはため息を吐き、ホーデリーフェを目に映した。
昆虫のような複眼のひとつひとつに、ホーデリーフェの美しい顔が映り込む。
「嫌わない。あなたを愛そう。私の可愛いマリーナ」
「まあ嬉しい!木苺がお好きなのですか?」
「ええ」
「木苺のタルトはお好きですか?」
「大好きです」
ガヴリイルが答えれば、ホーデリーフェはとろける笑みでのたまった。
「では、わたくしがお作りしますわ!旦那さまのために!」
言ってから、あ、と後悔するような様子を見せる。
「公爵婦人が料理なんてはしたないと、旦那さまはお思いになりますか?」
うかがうように見上げられて、ガヴリイルは慌てて首を振る。
「そんなことない。楽しみにしているよ、リーフェ」
「ありがとうございます。腕を振るいますわ!ああでも、料理人の邪魔になってしまいますか?」
「蒸留室があるから、そこを使うと良い。お菓子作りなら十分な設備がある。後で蒸留室女中に案内させよう。材料も道具も、好きに使って構わないし、足りなければ用意させよう」
「なにからなにまで。やっぱり旦那さまは、お優しい方ですね」
卑屈な気持ちから目を背けてしまえば、ホーデリーフェの言葉はただただ耳に優しい。
誰かから哀れみも嘲りも恐れもない声で褒められるなど、ガヴリイルは初めての経験だ。
「あなたにばかり用意させるのは忍びないね。私の可愛いマリーナは、なにが好きかな。食べものでも、装飾品でも、好きなものを用意させよう」
「まあ!よろしいの?わたくし、とってもわがままなのよ?」
「愛する妻の初めての願いくらい、格好付けて叶えるよ」
では、ひとつお願いしても?とホーデリーフェが控えめに問う。
「なんだい」
「旦那さまと一揃えの、夜会の装いを」
「え……」
もう何度目かわからない予想外に、ガヴリイルはまた固まる。ホーデリーフェは慌てたように、わたわたと手を振った。
「や、やっぱり嘘ですわ!頭の先から足の先まで、旦那さまが選んで下さった、旦那さまの隣に立つための服が欲しい、なんて、政略結婚の妻のくせに、おこがましい、」
「あなたは」
早口に言うホーデリーフェの言葉をさえぎって、ガヴリイルは問い掛ける。
「私と並んで人前に出ても構わないと?」
「夫婦ですもの当然ではなくて?」
「そんな無理をしなくても、私は夜会の出席は免除されているから」
行く先々で、令嬢に泡を吹かせるわけには行かないのだ。
「まあ、わたくし旦那さまを見せびらかして歩けませんの?」
「見せびらかすつもりだったのかい?」
「だって旦那さまのような姿の夫を持つ方なんて、ふたりといませんわよ?」
「私の母はそうだったけれど、今はあなただけだろうね」
ガヴリイルの母は己が身から出た化け物に心を病んで、死んでしまった。
「自慢したくなるでしょう?」
「自慢出来るような稀有ではないと思うよ」
むしろ隠したいだろう普通の令嬢ならば。そもそも普通の令嬢は、ガヴリイルの横にまともな精神状態で立てないけれど。
「では夜会はひとりで行きますわ」
「私の従者が侯爵家の四男だから、彼を供にすると良い」
「ありがとうございます。ねえ旦那さま、では人前でなければよろしくて?」
「人前でなければ、と言うか、公爵領内であれば住人も慣れているから出歩けるよ」
本当に!?とホーデリーフェの顔が輝く。
「ではお揃いの装いで街歩きを致しましょう!公爵領を、案内して下さいませ!」
「案内も、従者と行った方が、」
「それでは従者と結婚したようではありませんか。わたくしは、旦那さま、あなたと結婚しましたのよ?」
「従者は見目も良いですよ」
「見目の良い男など」
ぷん、とむくれて、ホーデリーフェはガヴリイルを睨み上げる。
「兄弟で見飽きておりましてよ。わたくしの兄と弟ですもの」
「それは」
むくれても愛らしいホーデリーフェの顔を見下ろして、ガヴリイルは頷いた。
「そうだろうね。あなたをご兄弟ならば、間違いなく美しいだろう」
「それはわたくしが美しいとおっしゃっていらっしゃる?」
「え?ああ、そうなるね。あなたは美しいし、可愛いよ、リーフェ」
ガヴリイルが言えば、むくれ顔を崩してホーデリーフェははにかむ。
「まあ!まあ!旦那さまに褒められましたわ!」
「あなたが美しいから、私のような化け物は、隣に立つべきではないと思うんだ」
「わたくしが構わないと言っても?」
「私の心臓が縮み上がってしまうよ」
「それは困りますわ」
片手を頬に当て、ホーデリーフェは眉を八の字に。
「では見えなければよろしい?馬車で案内して下さいませ」
「そんなに、私に案内して欲しい?」
「お忙しくて、そんな時間は取れないでしょうか?」
無茶を押し通そうとしたあとで、そんないじらしいことを言う。
ホーデリーフェはどう動けば自分の望みが叶うかを、よくよく理解しているのだ。
そしてそれがわかっていても罠から抜けられないから、彼女は化け物と呼ばれるのだ。
「視察のついでで良ければ、案内出来るよ」
「よろしいのですか?」
「願いは叶えると言ったからね」
「嬉しい!旦那さま、ありがとうございます!大好きです!」
ぱあっと満面の笑みになるホーデリーフェ。
自分と出掛けることにそこまで喜ばれて、落ちない男がいようか。少なくとも、哀れなひとでなしの心臓は、あえなく握り潰された。
「ホーデリーフェ」
胸を押さえ、低い声で呼ばう。
「はい、なんでしょう旦那さま」
ホーデリーフェは首をかしげて応えた。
「私はね、ひとから好意を向けられたことが、あまりない」
「こんなにお優しいのに?」
「この通りひとでなしだからね。だから」
愛に溺れて見境を失くす前にと、ガヴリイルは妻に警告する。
「あまり煽るようなことを言ってはいけない。化け物に食い散らされたくないならば」
「あら」
けれどホーデリーフェは中身はどうあれ見た目は天使で。それも王女として、特別に保護され護衛されて来た至宝で。ガヴリイルの気持ちなど理解出来なかった。
「わたくしはあなたの妻ですもの、お好きに食い散らしてよろしいのですよ?」
ゆえに簡単に警告に背いた。それがどんな結果になるかなんて、予測もせずに。
それからもホーデリーフェは、ガヴリイルの心をことあるごとに揺らし続けて半日を過ごして。
だから、ガヴリイルは告げた。
「じゃあ、約束を果たそうか」
夕餉を済ませてくつろぐ妻に、さあ罠に飛び込めと。
使用人たちに緊張が走る。ここでもし、奥方が手のひらを返したらと。
そんな思惑や警戒など知らぬ顔で、ホーデリーフェは瞳を輝かせた。
「約束、ですか?」
「ああ。触らせると約束しただろう?身支度をして、私の寝室に来ると良い。夜は長いから、急がなくても良い」
「急いで支度して来ますわ!」
シュタ!と立ち上がったホーデリーフェが、いそいそと女中に付き添われて出て行く。
「急がせなくて良い。もし心変わりするようなら、そのまま寝かせて構わないから」
残った女中頭に、ガヴリイルは告げる。
「もし彼女が私の寝室の扉をくぐるなら、私は離してやれない。だからその前に、きちんと覚悟をさせて」
「かしこまりました」
かつてガヴリイルの母の侍女であった女中頭は、静かに頭を下げて出て行った。
「さて、私も支度をしないとね」
外見は変えられない。どうしようもない。それでもせめて少しでも、不快な思いをさせないよう、清潔ではあろう。
そう思う程度にはすっかり、ガヴリイルはホーデリーフェに囚われていた。
それがホーデリーフェにとって幸いか否かは、判断に迷うところであるけれど。
コンコン、と叩かれた扉に、ガヴリイルはびくりと身を揺らした。
「奥さまをお連れ致しました」
女中頭の言葉に、こくりと喉を鳴らす。
入っては駄目だ。
「入って良いよ」
理性はホーデリーフェを止めるべきと思えど、口は欲望のままに動く。
あの、柔らかそうな髪に、身体に、触れたいと。
「失礼致しますわ」
扉が開く音と共に聞こえたのはホーデリーフェの声だった。
ゆっくり湯で温まったのだろう。肌がほのかに赤く上気している。
化粧は落としただろうに、その顔は天使のままだった。
けれど天使は躊躇せず、はたはたとガヴリイルに近付いて身を寄せる。
湯上がりのホーデリーフェは清楚な純白の夜着で、対するガヴリイルは漆黒のガウンだった。くつろいだ胸元から覗くふわふわした首に、ホーデリーフェの目が輝く。
「まあまあまあ!なんて素敵!」
伸ばされたホーデリーフェの手はしかし、ガヴリイルの首に触れる前に捕まえられる。
「夜に夫の寝室を訪れる意味を、知らないわけではないね?」
まだ、なんとか、帰せる。だが、これが最後の機会だ。
それはガヴリイルの優しさだったと言うのに、ホーデリーフェは気付かず最後の一線を踏み越えた。
「もちろんですわ!わたくし、あなたの子種を頂きに参りましたもの」
「そう」
頷いたガヴリイルは立ち上がり、妻を抱き上げた。妻は想像通りに柔らかく温かく、そして想像以上に華奢で軽かった。
「ふわふわですわ!」
自分が触れては壊してしまうのではと沸き上がった不安は、喜色満面にガヴリイルの首に抱き付き頬擦りした妻により、理性と共に弾き飛ばされた。
もういい。これで壊れても、嫌われても、一夜の夢が見られたなら、十分じゃないか。
ガヴリイルはホーデリーフェを寝台へと運び、そっと降ろした。
伸ばされたホーデリーフェの手が、ガヴリイルの首をなでる。
「温かい。それに、柔らかいのですわね」
ホーデリーフェの白く華奢な手が、首を伝い、ガヴリイルの黒く武骨な胸へとたどり着く。
「節がある。本当に七節のようですわ。けれど七節とは質感が違いますのね」
「昆虫と違って内骨格で、恒温ですからね」
「ああ、そうですわね。外骨格では、ここまで大きな身体を支えて動かせませんもの」
ホーデリーフェの手が、今度はガヴリイルの手へと伸びる。
「蟷螂の手とおっしゃいましたが、手のひらも五本の指もありますのね。筋張ってはいるけれど、やはり温かいし、柔らかい」
肩はどうなっていらっしゃいますの?
妻にねだられるままに、ガヴリイルはガウンの帯を解き、前を開く。肩からすとりとガウンが落ち、ガヴリイルは一糸まとわぬ姿をホーデリーフェへ晒した。
「外骨格ではないから、肩は昆虫のようではございませんのね。腕の関節も。どちらかと言うと、両生類に近いでしょうか」
「そうかもしれないね」
言いながら、ガヴリイルはホーデリーフェの夜着に手を伸ばす。
新婚初夜のために用意された夜着は、一見清楚げな見た目を裏切って、一ヶ所リボンを解けば脱げてしまう作りだった。
ガヴリイルがリボンを引けば、はらりと開いた夜着のあわせから、白く柔らかそうなホーデリーフェの胸があらわになる。
「あら……?」
きょとん、と目をまたたくホーデリーフェへ、ガヴリイルは問う。
「なにをされるか、わかって来たのだろう?」
「それは、もちろん、」
なにをされるか。知識として知ってはいたからだろう。自然、ホーデリーフェの視線は下に落ち、固まった。
「え……?」
この半日で初めて見られたホーデリーフェの動揺に、少し小気味良さを感じながら、ガヴリイルは優しく問い掛ける。
「どうかしたかい?」
「いえあの、旦那さま?」
「なんだい?」
ガヴリイルの下半身に視線を奪われながら、ホーデリーフェは唇を震わせる。
「顔は蛾、手足は蟷螂、胴は七節、皮膚は井守。では、生殖器は?」
「爬虫類」
「はちゅうるい」
「の、中でも、ドラゴンではないかと言われている」
とっさに逃げようとしたホーデリーフェを、ガヴリイルは器用に手足で捕まえる。それこそ、獲物を捕らえる蟷螂のように。
「どこに行こうと言うのかな」
「わたくし、初めてで、」
「貞淑に育てられたと言っていたものね」
「いきなり、そんな、狂暴な」
「女中に言われなかったかな」
怯えるホーデリーフェに、あくまで穏やかに優しく、ガヴリイルは語り掛ける。
「寝室に行けば逃がしては貰えない。思い直すなら今のうちだ」
「言われましたわ」
「それでもあなたは来た」
「それは、だって、聞いておりませんもの、こんな、」
「訊かれなかった」
無情にも告げて、ガヴリイルはホーデリーフェの柔らかな髪をすく。
腰が抜けたのか、ホーデリーフェはもう抜け出す動きは出来ていなかった。
「そうですわね訊かなかったわたくしが悪かったですわ!ですから、あの」
「心配しなくても、優しくするよ」
「ではその、初心者に、二本も、満足させろ、なんて、おっしゃいませんよね?旦那さま、お優しいですものね?」
初めて怯えを見せた妻が、愛らしい。
ガヴリイルは鷹揚に頷いて、告げた。
「すまないけれど、私も初心者でね。ほら、この外見だから、誰も相手をしてくれなくて」
「それはそうでしょうね!」
「うん。だからごめんね。優しくはするけれど、手加減する余裕はないかな?」
はく、と唇を開閉させて、目を潤ませたホーデリーフェは思わずと言ったていで訴えた。
「この、ひとでなし……っ」
今まで何度も言われては来たが、他人に対して言ったことはない言葉を。
けれど残念ながら、目の前の男はホーデリーフェと同じくらい、その言葉を向けられ慣れていて。
「そうだね。私はひとでなしだから」
でも、今日何度もあなたには警告をしたから。
「だから諦めて愛されておくれ、私の可愛いマリーナ、リーフェ」
そうして哀れなホーデリーフェは、新婚二日目を寝台から起き上がれずに過ごすこととなり。
けれどホーデリーフェは、紛れもなく、ひとでなしの化け物王女であったので、役目を前にめげることはなく。
のちにこの代のコトリャロフ公爵家は、歴代でいちばんの子宝に恵まれることとなった。
めでたしめでたし。
拙いお話をお読み頂きありがとうございました
ひとでなし(比喩)が
ひとでなし(物理)に対して
ひとでなしと言って
ひとでなし(物理)から
うんそうだよ
と答えられて欲しくて書きました
満足です
どうしようもないお話でもめでたしと付ければ
なにかいろいろ許されると思いました
許されたい