外道の夢の果て
二人は敵陣突入。そこでは我が娘を再生しようと企む狂ったボス。運命の糸は紡ぎなおされる。
歓楽街の中央にひときわ目立つ金ぴかの塔がそびえたっている。道路や店舗には様々な人種が目的地の場所へ行くのか、物見遊山なのか、人の流れが川のように流れている。
「なぁ、もうちょっと空いた道を行こうぜ」
オーラが窮屈そうに前を歩くライムの手を握りながら言う。
「大丈夫、この先に糸を括っている中心がある」
ライムの言う【糸】とは生命が持つ運命の糸。人は自分でその運命をある程度操作することが出来るから、いくつもの糸を持っているのだが、どうやら結んでいる部分があるらしい。
「お嬢ちゃんたち、未成年は入れないよ」
黒スーツの男に塔の前で止められる。
「あんたたち邪魔」
ライムは指をスッと左から右へ横にスライドすると、ほどなくして右から銃撃の音が聞こえてくる。途端に悲鳴があちこちで上がり、人の流れが塔の前を流れていく。
その隙をついて二人は塔の中へ正面から入っていった。
閃く照明が照らす廊下をひたすら奥へ進む。
「ちょ、ちょっと休憩。なんで、エレベータ使わないんだよ。最上階に上がるんだろ?」
「あ・れ・は・フェイク。こっちが本物」
ライムの指さす塔には不釣り合いな防火扉。重そうな扉なのにライムの華奢な腕で軽く動いた。
「ほらね。行くよ」
ライムたちはそこにあるエレベータの始まりに出てくるようなレトロな乗り物に乗って上に上がっていった」
チン!と言う音と共にエレベータの柵が開く。目の前に広がる古い町並み。ここの主は相当昔好みのようだ。しかし、何処にも人の気配がない。ただの模型のようだ。
街並みを足早に抜けると白い壁に包まれた空間に出る。
「た、助け・・・」
真っ白な空間から突如、裸の若い男がハラワタを飛び出したまま床に倒れた。
「おい!大丈夫か?」
オーラの声掛けにライムが黙って手をかざす。若い男は時間が止まったようにピクリとも動かなくなる。
「おいおい、力の使い過ぎは・・・」
「だって、この人、すぐに死んじゃうでしょ。それに、私の力も現世では限りがあるから、助かるかどうかは彼自身で決める事でしょ。行くわよ!」
ライムは男の出てきた空間に進むと、血に染まった手術室のような空間に出た。そこには何体もの人間が一部分を削り取られたようになって横たえられていた。そして、中央にはツギハギだらけの少女の体が横たえられている。
「おいおい、これって!」
オーラの声に背後からしわがれた低い声が聞こえた。何かを注射されオーラはそのまま床に倒れこむ。
「お前たちは誰じゃ。何処から来た」
「く・・体が動かねぇー」
ライムはオーラが倒れて正面にいる白衣を着た初老の男と対峙した。すぐさま、ライムの四方から薬剤が入った針が無数に発射される。入り口で行ったようにライムが一本の針に指先を合わせ下から上にチョイと弾くとその針に誘導されるように全ての針が天井の吸気口へ吸い込まれていった。
「な、なんと!何をした!」
「何も。針の運命を少し変えただけ」
「運命を変える?変えられるわけがないだろ!ええぃ、お前も我が娘を復活させるための材料になれ!」
メスを束にしてライムに投げつける。
「可哀そうな人ね。可哀そうな人がかわいそうな人を量産してどうするのさ。時を戻したいと思ってるの?」
ライムの言葉が終わると同時に投げたはずのメスは全て四散し、そのうちの一本は男の片目に刺さっていた。
「うがぁぁぁ!!!」
空間に響き渡る獣のような声を発して男はそのまま膝を落とす。
「ねぇ、その真っ赤な瞳から何が見える?」
ライムの声が激痛と悔しさと驚きで息が苦しくなって、頭が混乱してきたのに何故か心が晴れてきた。
「とおさま!これ、私作ったのよ」
過去の出来事が今起こっているような錯覚。でも誕生日プレゼントと言って渡してくれたネクタイをつけてもらっている感覚が妙に現実的で懐かしい。しかし、突然銃撃ととともに沢山の怒声が聞こえ、風景が変わり、殺風景な廃倉庫の中に移った。自身も傷つき、大量に血を流して歩いて行くと、台に横たえられ、凌辱と暴行の限りを尽くされた娘の姿が目に飛び込んできた。
「と・お・さ・ま、ごめん・・・なさい」
少量の血を吐いて少女は息を引き取る。
「うぉぉぉぉ!何故だ!何故こうなる?俺はただ幸せになりたかっただけだ!」
息を引き取ったはずの娘がゆっくりと起き上がり血を口元から垂らしながら言う。
「わからんのか?人から奪い取って得た幸せなど薄氷の上。いつでも取られる側になるんじゃ。お前の言う幸せを得るためにどれほどの物を落としてきた」
少女の髪の色がライトグリーンにに変わり、ライムの姿に変貌する。
「お前は人の分際で運命を操作し過ぎた。そのリスクを今ここで受けてもらう」
そう言うとライムは気を入れて両手を男に向けた。多数の黒い糸が赤い糸に交じって絡んでいる。
「じゃあな」
ライムに繋がっていた細く薄く、しかし光る赤い糸を切った。途端に絡まっていた糸が男から解けるように掻き消え、男自身の糸も徐々に薄くなっていく。
「いや~まいったまいった。チョット竜化すれば、何とも無かったわって、え!もう終わったの?」
キョトンとするオーラの耳に沢山の革靴の音が聞こえ、上空にはヘリコプター、地上にはサイレンを鳴らす無数の車両が集結している。
「このおっさん、どうするの?」
「ん?ここの法で処置されるんじゃないの?それは私の仕事じゃない。それはともかくとして~」
ライムはその部屋からそそくさと出て、さらに上に上がっていく。
突き当りには高そうな装飾の扉があり、勢いよく扉を開けて正面に見える机の引き出しを開けた。
「じゃじゃん、これこれ。これさえあればこの世界では食うに困らない」
ライムが手にしたのは真っ黒なカード。
「これなに?」
「世界で金持ちしか持てないカードだって。これで資金はオーケー。ほらほら、こんなところにいたら面倒な事になるよ」
「え?チョ、そっちは窓―――――」
オーラの手を引くライムは勢いよく窓を蹴り破って外へ飛び出した。
「落ちるーーーーー。転落死なんて嫌だーーー」
オーラが叫び終わる前に意外と軽い衝撃で動く床についた。
床と思ったのは戦闘機だった。
何処で何がどうなったのか混乱するオーラを見ながらライムはパイロットに言う。
「帰投しなさい。任務は終わり」
ライムはオーラのズボンを少し刷り下げてパイロットに見えるようにした。
「何するんじゃ!ライム!」
頬を染めたオーラが振り返るとコックピットにいる二人が親指を立てていた。
まだまだ続きます。よろしくお願いします。