ファイヤードラゴン
散る命と笑う悪党、そして怒るドラゴン。ライムは逃げる。
朝日が射す前に救急車が到着した。ライムが助けた少女の異変に気が付いたからだ。ライムには人の運命の糸が見える。少女の糸が薄くなっていたのだ。
「気が付かなくて悪かったな」
ライムはボソッと少女の兄に言う。兄は絞り出すように言う。
「仕方が無い。力の無い者など所詮こうやって死ぬだけさ」
「お前!!!」
オーラが襟首をつかんで殴ろうとするが、涙を流し唇をかみしめる兄の顔を見て腕を止める。
「だって!しょうがないだろ!このビルは本当はおれたち家族の物だったんだ!親父はいらぬ借金押し付けられて廃人にされ、おれたちは外に出されて、何とか頼み込んで物置を借りて改造して店開いて・・・食べていくのにやっとだったのを、妹はあんなにされて・・・どうすりゃ良かったんだよ!!!」
泣きながら叫ぶと路地に黒づくめの男たちが靴音を鳴らしながら近づいてきた。
「あの調子だと、妹さんはお前の親父さん同様、天に召されたようですな。さて、お前が持っている最後のパスワードをもらい受けようか」
蛇のように舌をペロペロ出しながら歩いてくるチャラそうな男がオーラと少女の兄に近づく。
「ん?こんな路地に似つかわしくない女がいるようだな。なんだ?俺たちに献上しようとしたのか?まぁいい。さぁ~パスを渡せ」
オーラを上から下までなめるように見ながら銃を少女の頭に突き付けた。途端に他の男たちも銃を向ける。
「ねぇよ・・・」
「ん?なんだって?良く聞こえねぇな~」
オーラの手を振り払って少女の兄はチャラい男に向かって怒鳴る。
「そんなものねぇって言ってるんだよ!あってもお前らに教えるか!」
チャラい男はため息をつくと静かに言う。
「そっか。まぁいいや。直接脳に聞くから。死ねよ」
鈍い激発音のすぐ後に甲高い音と共に黒づくめの男の一人が言葉も発せずに倒れる。
「お兄さんこっち。きっとオーラが怒るから隠れて」
ライムは小さい体で中華鍋の中に入って銃弾の前に転がり込み盾になった後、少女の兄を中に引きずり込んだ。
それと同時にオーラの赤髪が鮮やかに輝く。
「お前ら・・・人間の分際でよくも、こんなおもちゃを向けてくれたな!」
いつの間にか白い柔肌が真っ赤な竜のうろこに変化し、口からは少し炎が漏れている。
「ひ、ば、化け物!撃て!撃て!撃ち殺せ!!」
チャラい男の声が裏返りながら命令すると、オーラに向かって乾いた音が数えきれないほど放たれた。
ビュンとオーラが両腕を上から下に勢いよく振ると強風が発生して男たちが全員路地の建物にめり込むように飛ばされる。それとほぼ同時に打ち込んだ銃弾も打ち返され、建物にめり込んだ男たちに命中する。
「魂も全て焼き尽くしてやる」
「はい。ストップ」
オーラの口元を隠すようにライムの指示で少女の兄が大きな中華鍋を構える。
放出した炎が少しだけ中華鍋に当たっただけなのに、すぐさま真っ赤になって少女の兄はあまりの暑さに耐え切れず中華鍋を落とした。
「オーラ。その形態のうちに逃げよう。たぶんワラワラと応援がやって来るぞ」
ライムの言葉にオーラは頷き真っ赤な翼を背中から出現させると二人を抱え、その場を逃げるように飛び立って行った。
更新が遅れてしまいました。年末年始は本当に忙しいですね。ストックはあるのですが、まだまだ、後進に慣れていないのが現状ですが、頑張ります。