表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/96

第80話 「私の、好きな人」

「雲雀ちゃん久しぶりじゃ〜ん!」


 雄二様がお手洗いに行って……タイミング良く、私のことを知ったような口調で呼ぶ声がした。


「……誰ですか?」

 

 私は目を細め、冷たく一言。


 これで諦めてくれればいいものの……相手の男は気にすることなく、私に話しかけ続けた。


「酷いなぁー。俺だよ俺っ」

「新手のオレオレ詐欺ですか」

「違うよ! 全く……相変わらず雲雀ちゃんは冷たいなぁ〜。俺は、西園寺誠也!」

「……」

「えっ、まだわかんない? ほらほらっ。高校時代のクラスメイトでクラスの人気者だったじゃ〜ん、俺っ」

「そうですか」

「そうそう!」

 

 冷たい眼差しで見ても、効果はなし。


「ちょっと誠也く〜ん」

「置いて行かないでよ〜」


 ただでさえこの男で厄介なのに、後ろから人がきた。

 女性2人に男性1人だ。

 もしかしなくても……。


「アタシたちとデート中なのに、他の女の子をナンパしないでよ〜」

「浮気だよ〜?」

「ナンパじゃないって〜。この子は、高校時代の同級生なんだよ。雲雀ちゃんって言うんだ。うちのクラスじゃ高嶺の花でさぁ〜」

「へぇー。綺麗な人だね〜」

「ほんと〜。肌とかも綺麗〜」


 話が広がりそうでさらに厄介だと思っていたが。

 

「おい、迷惑だろ。早く行こうぜ」


 遅れて来たもう1人の男は良識があるようで……。

 3人に、早く去ろうと促していた。


「あ? 黙れよ。お前、誰のおかげで会社でいいポジションにいれると思ってんだよ」

「そ、それは……誠也のおかげだけど……」

「俺のおかげだよな? なら、この俺に口出しなんてしてんじゃねーよ」

「っ……。ご、ごめん……」


 この人たちの関係性がなんとなく伺えた。


 睨みを効かせていた男の表情が私の方を向くと、途端に貼り付けたような笑みになり、


「雲雀ちゃん今、何してるの?」


 話はまた続いた。


「貴方に教える必要ありますか?」

「知りたいから聞いちゃったっ。ダメ?」

「教えたくありません」

「雲雀ちゃんは相変わらず冷たいなぁ〜」

 

 冷たくしている理由をそろそろ察して欲しい。


 男はその場を離れようとせず、話しかけてくるばかり。


 ナンパというより……私を何がなんでも口説いて、この女性たちの一員に加えたいという感じだろう。

 

「せっかく誠也くんが聞いてあげてるのに答えないなんてね〜」

「見た目は良くても愛想が悪いのはねぇ」


 連れの女性2人の私を見る目が段々と厳しくなっている。


 私のことをよく思ってない、邪魔だなという態度が見え見えだ。


 高校時代もこういう態度をよくされた。


 クラスの人気者やカースト上位らしい男子。

 放課後よく遊びに誘われたり、告白されたり、ナンパされたり……そういうのがよくあった。


 しかし私はどれも興味がなかったし、嫌だったから断った。


 そんな正直な感情。


 しかし、周りから見れば違うように映るようで。


『ねぇ、あのサッカー部のエースの彼からの誘い受けないとか、私たちに対しての当てつけなの?』

『ちょっと顔がいいからって調子に乗らないでくれる?』


 それで女子から嫉妬や軽い嫌がらせをされたこともある。

 

 高校時代はいい思い出などなかった。


「じゃあ俺のこと話そっかなぁ。俺は今、親父の会社を引き継ぐ予定でさぁ。うちの会社、結構デカい会社でさ〜。西園寺グループって知ってるだろ? あそこあそこ! 俺、将来はあそこの社長になるんだよねぇ〜」

「そうですか」

「雲雀ちゃんも、職に困っているなら俺が雇ってあげるよ。まあ雲雀ちゃん可愛いから、俺の秘書かメイドになってもらうけど」

「結構です」

「遠慮しなくてもいいのに〜」

「ねーね〜誠也くんっ。こんな女なんかより、私のことをメイドにしてよー」

「アタシをメイドにしてよ〜。アタシ、めちゃくちゃ尽くす女だよ〜?」

「おいおい、お前ら。こんな人目があるところでくっついてくるなって。全く〜」


 女性2人が男に抱きつき、目の前でいちゃつかれる。

 ポツンと1人残った男は……気まずそうに棒立ちしているだけでだった。


 会話が途切れたこの間に逃げてもいいと思う。

 そもそも、いつもならめんどくさがってすぐに対処するのに。


 今日はどうしてか、そうしなかった。


 目の前の男の態度が、他人事のようには思えなかったからかもしれない。


『おい、メイド。さっさと飯を用意しろよ』 


 以前の雄二様だったら、もしかしたら目の前の男のようになっていたかもしれない。


 大手メーカーの息子という立場で、金で全てを支配できると思っている。

 金で女をはべらかしたり、人に暴言を言おうがなんとも思わない。

 

 そんな人物に、雄二様もなっていたかもしれない。


 でも今は違う。

 いや、あの方は違う。


「悪いけど、俺が先約してるんで離れてくれません?」

「!!」


 ぽん、と。私の肩に大きな手が置かれた。


 見上げれば、一番見覚えがある顔。

 

 第一印象は、間違いなく怖い男の人。

 睨れたりしたら、ほとんどの人はビビって逃げてしまうだろう。


 でも、その瞳と表情は意外にもコロコロ変わり、見ていて飽きない。

  

 そしてこの人は……無自覚に私の心を揺さぶる——悪い人。


『ぐだぐだと話してしまったが要するに……雲雀のことは俺が理解してる。俺のことは雲雀が理解している。だから……理解者同士お互い遠慮なし、我慢なしの関係でいようぜ!』


 あの時も。


『美人で身体もすごく綺麗だし……そんな雲雀に、俺みたいな男はこれ以上されてしまうと、心臓が持たないのですよ……』


 あの時も。


『雲雀だから優しくするんだよ』


 あの時も。

 

「雲雀、大丈夫か?」


 そして今も。


 声を掛けられるだけで、何故か鼓動が早くなってしまう。


 自分らしくない発言や自分らしくない感情が溢れ出す。


 でも、嘘ではない。


 嘘ではないとしたら、それはもう……。

 私の雄二様への見方は、もう変わっている。


『雄二様。私に対してそんなに気を使わなくとも……貴方の隣なら私はいつでも一緒にいたいですから』


「お前誰だよ。あの西園寺グループの次期社長の俺に口出してんじゃねーよ」

「俺は、笠島雄二だけど」


 その人は————私の、好きな人。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 内心がとっても可愛くてニヤニヤしてます! [気になる点] このデレデレ状態から何があって日記の最後に書かれていたことになるのか一体何があったんでしょうね?とても楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ