第56話 悪役は海パンを買いたい
幼い頃、私は身体が弱かった。
小学校に上がる頃には、激しい運動はおろか、 学校に通うこともままならないほどに衰弱していた。
1日のほとんどを家のベッドで、1人で過ごしていた当時の私は、友達を作る以前に、コミュニケーションを取り、仲を深めるということに苦手意識ができてしまった。
妹のりいなは、そんな病弱な私を気遣って、学校から早く帰ってきて話し相手になってくれたりと、いつも優しくしてくれた。
ほぼ学校に行くことなく、小5に上がった頃、体調が良くなることが多くなった。そして小6の頃には、休まず学校に通うことができた。
中学3年間はとても楽しかったことを覚えている。熱で学校を休んだことを悔やんだくらい。
勉強も運動も誰かと話せることも……病弱だった頃、できなかったことが楽しくて、夢中になって……気づけば全部を難なくこなせる『完璧人』というレッテルを貼られていた。
私は別に完璧人ではない。
でも表では、完璧にこなせていることが多いから、そう思われても仕方ない。
完璧人は隙を見せてはいけない。
だけど私は……まだ誰かに甘えたい。
◆
ゴソゴソ、ゴソゴソ……
「あれ〜? やっぱりないなぁ……」
夏休みに入った俺は、少し遅めに起きて朝食を済ませた後、自宅のマンション中を探していた。
何を探しているかというと……
「海やプールに行きたんだけど、海パンが見つからん」
そう、海パンである。夏といえば、プールや海。そこで遊ぶためには海パンは必須である。だが、学校指定の水着はあっても、私用で使う海パンが見つからん……。
「雲雀〜。俺の海パン知らない? 探してもないんだけど」
「雄二様の海パン。ブーメランパンツは見たことありませんね」
「ハーフパンツの方!」
ブーメランパンツはもっこりしちゃうからダメ!!
「探してもないのなら、私は知りませんね」
「そうかぁ」
笠島のやつ、海パンも持ってないのかよ。いや、金持ちだから毎年わざわざ変えてるとか……。
とにかく、海パンがないのなら、新しいのを新調するしかないな。
「明日は海パンおよび遊び道具でも買いに行くかぁ」
「雄二様。申し訳ありませんが、明日は用事がありますので送迎はできません」
「そうなのか……。分かった。俺のことは気にせず、用事とやらに行ってくれ」
「ありがとうございます」
雲雀にもプライベートはあるし、言ってくれれば、そちらを優先するように言ってある。
そうだ。雲雀にも夏休みと称してメイドお休み期間を作って自由に過ごしてもらおう。
「海パン選びは結斗でも誘っていくかぁ」
「…………」




