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第38話 悪役はあくまでヒール

『俺たちが必死こいてみんなと平等に関わろうとしてんのに、邪魔するんじゃねぇぇぇぇぇ!!!』


 私だけのためにそう叫んでいるわけではない。ただ、本音を言っているだけ。

 

 頭の中ではそう分かっているのに……胸がどうしようもなく熱くなって、グッときた。




「これでよし……と」


 さすがに床に失神したまま放置していくわけにはいかず、田嶋の彼女をベッドに寝かせた。


 俺のやりたいことは終わった。

 結斗に終わった、と一言メッセージを送ればみんなにも伝えてくれるだろう。


 スマホを触りながら部屋から出た時だった。


「どえぃ!? びっくりしたぁ……!」

 

 思わず変な声が出てしまった。

 部屋を出てすぐ横の壁には、背中を寄りかけている、りいながいた。

  

「はい」

「え」


 何か差し出してきた。見ると……菓子パンだった。お腹が空いている俺にはナイスタイミングだが……。


「え、なに。慰め?」

「ついで」


 改めてりいなを見ると、手にはペットボトルを2本持っていた。


「昨日、飲み物を奢ってくれたお返しとでも思ってくれてもいい」

「なるほど。じゃあ遠慮なく……。いただきます」

「え、もう開けるの」


 本当に腹が減っているので早速、菓子パンの袋を開けてかぶりつく。


「む! うまーい!」

「良かったね」


 菓子パンは4口で食べ終わった。

 さてと……。


「りいなさん。実は話、聞いてたんじゃないの?」


 そうじゃなければ、わざわざ部屋の外で待っていないからな。

 

「………。話は全然聞こえなかった。最後のはさすがに聞こえたけど」

「まあドア越しにいるだけで中の話が丸聞こえだったらヤバいな。あー、最後のね。くっそ腹から声出したやつ」

「………どうして最後の言葉。アレだったの?」


『俺たちが必死こいてみんなと平等に関わろうとしてんのに、邪魔するんじゃねぇぇぇぇぇ!!!』


 あー、アレかぁ……。


 見た目で勘違いされるということを理解しようとせず、勝手にボロクソ言われるのはくそムカついたから、ってのもあるが……。


「あそこで俺が『人を見た目で決めつけるんじゃねぇぇー!』って怒っても……全然説得力ねぇなと思ってな」


 女子を部屋に閉じ込め、怒鳴る……やってることは、褒められるどころか、批判されること間違いなしの、見た目通りの行動。

 

「それなら、本音を言ってやろうと思っただけだ。それに昨夜、りいなさん言ってたじゃん」


『もしかして……俺に解決策とか求めてる?』

『求めてない』

『なんだそりゃ』

『クラスに馴染めてないアンタに解決策求めたって……ねぇ……』

『確かに俺じゃ、解決策出したところで説得力ないけども! じゃあただ俺に話を聞いてほしかったわけか?』

『うん……。普段我慢しても、こう……吐き出したい時ってあるじゃん……』



「俺には、物事を円満に解決するなんて無理だ。だってどんな解決案を出しても説得力なんて皆無……。それでも俺が行動したのは……この強面の顔と発言でビビらせて、その後のことを少しでも穏便に済ませようとしている……ただの頭の悪いやつだから」

 

 にしし、と歯を見せて笑ってみせると……りいなはプイッと顔を背け。


「最後の言葉……」

「ん?」

「ムカつくけど少しスカッとした」

「どっちだよ」

「笠島が勝手に作戦を立てた時はなんかムカついたけど、怒鳴り散らしてくれた時は少しはスカッとした」

「誰も詳しく教えろなんて言ってねぇ!!」

「うるさい」

「うるさくない!」

「………」

「………」

「ぷっ」

「ふふ」

「くくっ………はははっ!」

「ふふ、あははは!」


 お互いに言い合い……顔を見たらなんだか笑いが漏れた。


 小悪魔と呼ばれ、自分でも演じていると言っていたりいなだったが……この時の笑みは、歯を見せて思いっきり笑っていた。

 ゲーム画面越しで、そして今。俺が見る中で初めてのりいなの表情だった。






 

 田嶋の彼女の意識が戻ったあとは、田嶋とりいなを1人ずつ部屋に入れた。俺は一応見守り人。


 まずは、すべての根源ある田嶋。


「このっ、浮気者っっっ!!」

「ぶへぇーー!!」


 彼女に思いっきりビンタを喰らっていた。まあ彼女以外の女の子に惚れて別れ話をしたクソ野郎だからな。当然の報い。


 そして、りいなは。


「私、貴方の彼氏に色目とか使ってないから。ただ……私の見た目と振る舞い方でそう捉えたのなら、ごめん。でもそれなら貴方にも少しは非があるから」


 思っていることをハッキリと言った。


 田嶋の彼女は、りいなを前にすると終始落ち着かない様子だったが……。


「……すいませんでした」


 最後は素直に謝っていた。


 その後、自分の部屋へと戻っていった。彼女が今回のことを自分は悪くないという前提で、友達に愚痴を漏らしたり、噂を広めたりするかは……知らん。でも、しばらくは大人しくなるだろう。


 こうしてプレゼント代金紛失事件は、形上だけなら、一旦丸く収まったのであった。





「じゃあバスに乗り込んでいけよー」


 お世話になった施設の職員さんに挨拶したあと。担任の竹中先生の指示に従い、バスに乗り込んでいく。

 

「林間学校終わっちゃうね」

「そうだな」

「あっという間だったよー」

「楽しかったな」

「うんっ!」


 プレゼント代金紛失事件があったものの、本当に楽しかった。これも結斗が仲良くしてくれたおかげ……。


「ありがとうな、結斗」

「? うんっ」


 ほんと、いい奴だよ主人公……。


「なぁ笠島ー! 俺を慰めてくれ〜」


 俺たちの前に座る田嶋が、泣きそうな顔を座席から出して言ってきた。


「は? 嫌だ。お前はまじで反省しとけ」

「そんな〜。あの時はあんなに頼もしかったのに〜」

「それとこれは別だ」


 田嶋が彼女に別れ話さえしなければこんな面倒なことにはならなかったはずだ。


 ふと、美人姉妹の方を見ると、りいなは疲れたのか眠っていた。隣のまひろはスマホに釘付け。きっと俺が送った結斗の写真だろう。


 しばらくして、担任が声を張って言う。


「お前らー! 帰るまでが林間学校だからなー!」











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