第3話 悪役は好感度が低い
翌朝。
「雄二様、学園までお送りいたします」
「……えーと」
タワーマンションの広さに驚いていたのに、出た先に待っていた車は、映画とかでしか見た事が無いような高級そうな立派なリムジン。普通に生きていても中々お目にかかれないのに。
「雄二様お乗りください」
メイドの雲雀がドアを開けてくれた。チラッと見える車内の豪華さに唖然となり、固まるもすぐに悪役、笠島雄二になりきる。
「うむ」
いつも通りと、当然のように乗り込む。
「では、車を出させて頂きます」
「うむ」
あっ、雲雀が運転するのね！！ 美人メイドが運転手のリムジン……豪華すぎる。
「いってらっしゃいませ、雄二様」
学園前に車が止まり、雲雀が開けてくれたドアから降りると、とどん！と馬鹿でかく綺麗な建物が目の前に。それと新入生が学園に向かっている。保護者と一緒に。
「俺だけが保護者いないっぽいな……」
まあ両親が多忙で滅多に会わないってゲームでも言っていたから分かりきっていたことだけど。
「申し訳ございません、雄二様」
「え？」
呟いた声が聞こえていたようだ。
謝罪の言葉に驚き振り返ると雲雀が深々と頭を下げていた。
「どうして雲雀が謝って……んんっ。どうしてお前が謝る」
敬語を使いそうになったがなんとか立て直す。年上の、しかも美人にタメ語とか改めて住む世界が違うなと思う。
雲雀は申し訳なさそうな声で言う。
「私がうまく説得できなかったからこそ雄二様がお一人でいくことに……。どうぞ私に文句なりなんなり申し上げてください」
え、え……このメイド、責任感強いな……。
メイドだからこそ俺に対してこんなにも腰が低いのだろう。脅されている……ってわけじゃなさそうだし。
こんなに腰が低いと逆にこちらの対応に困る。俺は笠島雄二なのだ。ここは俺の立場を利用して……。
「雲雀、顔を上げろ」
「はい」
「文句か。文句なら……雲雀、お前のそのなんでもすぐに自分の責任にして謝る癖をやめろ。別に今日が俺1人でもなんとも思わない。それに学園に通うことになれば1人だ。他の生徒より早くそうなったと思えばいい」
「ゆ、雄二様……ですがっ」
「じゃ。送ってくれてありがとう」
反論される前に言いたいことをいい、さっさと学園の敷地に足を踏み入れる。
数歩進むと雲雀が追いかけてくる様子もなく、ほっとする。
雲雀の反応が気になるが……そのまま振り返らず早足でいく。
生意気なガキだと思ったら俺のいないところで罵ってくれよ！！！
「雄二様………なんで昨日からそんなに……」
◆
チラ、チラッ……。
「うーん……」
学園の敷地を普通に、目立つ歩いているはずなのに何故か視線を感じる。
「お、おいアレ……」
「大手笠島グループの息子……」
同じ新入生の会話が声が耳に入った。
俺はちょっとした有名人なのか？ 親の会社がデカいから息子も有名人って感じに違いな——
「ヤリチン笠島だろ。中学の頃、都内の中学生女子食い散らしたみたいな」
「しかも高級ブランドばら撒いて彼氏持ちのやつとまでヤったらしいぜ」
「そのほかにも、ドラッグの密輸とか買い占めとかに金出してるとか………」
「っっっっっっ！！」
こいつどんだけ悪役なんだよ！！！
いや、まだこの話が本当かは分からない。もしかしたらアイツらがただ勝手に妄想して言っているだけかもしれない。
しかしこれだけは分かった。
入学式も始まってないのに、早くも好感度が低いことが確定してる！ ダメじゃん！！ このゲームの悪役ハードモードすぎない！？？
「お、おいなんか頭抱えているぞ……」
「きっと今朝打った怪しい薬が効いているのかもしれない……」
今朝は雲雀が作ってくれた絶品料理を綺麗に完食しただけだわ！！！
ああ、俺の平和な学園……早くも危機……。
「「きゃぁぁぁぁぁ！！」」
「な、なんだ！？」
視線の先からわぁと賑わう。おかげで俺に視線を向けていた生徒の視線がそっちにいく。
生徒たちの熱い注目を受けるのは——
「やぁみんな。おはよう」
「おっはよ〜♪」
このゲームのヒロインである——美人姉妹である。
