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第37話 悪役は思う存分、悪役になることを決意する③

「はぁ……た、ただいまー。緊張したぁぁー……」


 集合場所として決められていた、まひろとりいなの部屋に、田嶋は緊張が解けたとばかりにため息をドッと吐きながら入ってきた。

 

 部屋には、結斗。まひろ、りいながおり……。


「おかえり田嶋くんっ。そしてお疲れ様っ」

「おかえり。それでどうだい?」

「笠島は作戦通り、理沙と2人っきりになったぞ……。ほんと大丈夫か? 下手したらアイツが……」

「覚悟を決めていないとあんな事言わないよ」


 部屋にいる4人は、雄二に言われたことを思い出す。



『まず、田嶋のメッセージで彼女を釣る。その間、万が一りいなさんのところへ寄った場合に備えて、残りの3人は部屋で待機していてくれ』

『お、俺はメッセージ送った後はどうすればいいっ』

『田嶋は彼女を部屋まで引きつけた後、適当な理由をつけて部屋を出ろ。いや、合図があった方が分かりやすいな……。俺が電話掛ける。それが部屋を出る合図だ』

『わ、分かった……っ』

『後は俺が彼女と2人っきりになる。……俺に任せろ。存分に俺の悪役ぷりで分からせてやるよ……クックックっ………』



「あの時の笠島くんの笑み……なんだか本当の悪役みたいでちょっと怖かったかも……。なんてね」

「あれはきっと演技だよ! 雄二くん自身はすっごくいい人だもん!」

「ふふ、そうだね。結斗の一番の男友達だもんね」

「うんっ!」

「それにしても、笠島がああいう事を率先してやるタイプだとは……思わなかったなぁ」

「雄二くんはすごくいい人だからね!」

「あ、ああ……もうそれは十分伝わってるぞ、佐伯……」


 たじたじになる田嶋。

 2人が会話している間、まひろは先程から静かなりいなに視線を向ける。


「…………」


 りいなはベッドに腰を下ろして、俯いていた。複雑な表情で。


「………」


 まひろはりいなに背を向け……結斗と田嶋に視線を向けた。


「でも笠島くんは、りいなを助けようとしているのとは……ちょっと違う感じがするよね」

「雄二くんには他の狙いがあるってこと?」

「まさかアイツ……俺の代わりに理沙に説教を……」

「そんな難しい理由じゃないと思うよ」

「「?」」


 結斗と田嶋は首を傾げる。その姿にまひろは微笑み、


「そうだねー。私もうまく纏められないけど……別にいい人になろうとしているわけではない。好感度を上げようと動いているわけではない気がするんだ。ただ……」

「ただ?」

「………ごくり」

「………」


 結斗と田嶋のみならず、りいなも次の言葉を待っていた。

 

 まひろは一息つき、


「――一言文句を言ってやりたい。……って感じじゃないかな。見た目で勘違いされやすくて、色々と苦労したことをその身で体験しているから」

「………。んー、んー?」

「まひろさん。……俺、よく分からん」

「はは、まあ私も言っていてよく分からないよ」

「分からないのかい!」


 なにやら緊迫した空気が、一気に軽くなった。3人は笑い合う。 

 ……ただ、りいなは。


「私ちょっと飲み物買ってくるー」


 りいなはいつも通りの明るく人懐っこい声で言い、立ち上がった。


「えっ、ちょっ!? りいなちゃん! 今部屋出たらダメだって!」

「じゃあついでに私の分も買ってきてよ。無糖の紅茶ね」

「………。はぁ〜い」

「えっ!? まひろさん、りいなちゃんを行かせていいの!?」


 戸惑う田嶋。

 りいなはそのままドアへと進み、出て行った。


「まひろちゃん。もしかしてりいなちゃんは……」

「そうだねー。あれは様子を見にいったねー」

「えっ!? 様子見ってことは笠島と理沙がいる部屋に行ったってこと!? ややヤバくないか!?」

「大丈夫だと思うよ。笠島くんも彼女を外へ出すつもりはないだろうし」

「で、でも!」

「私たち部外者はここで待っていよう。彼らの苦労は私たちには全部理解などできないのだから」





 俺の姿を見るなり、田嶋の彼女である理沙という女の顔が引き攣った。が、それも一瞬のことで、


「ア、アンタこそ人のなに部屋を勝手に覗いてんのよ!」

「俺? 俺は田嶋に用があってなー。そしたらたまたま部屋の鍵が掛かってなくて、開けたらたまたま見ちゃっただけ。それで、単刀直入に言うが……」


 俺は部屋の中に足を進め……ドアを閉める。

 女がキッと、警戒するように睨みつけた。その顔を見たとき、めっちゃ怖いとビビるより……


 ――ニマーっと、不穏な笑みを浮かべた。


「お前がプレゼント代が入った封筒を盗んだ犯人なんだよな?」

「は、はー? なんのことよ! 言いがかりもやめてくれない! てかさっさと出て行って!! 私は彼と、アイツに話があるの!」

「アイツって……もしや澄乃りいなさん?」

「っ……」


 唇を噛み締めた。

 図星……か。


「りいなさんに恨みでもあるんだろうが……やめとけ。見た目で判断しても、傷つけるのは違う」

「は、はぁー? なに言って……って

まさか私を嵌めたのっ。アイツらに頼まれてッ」

「ちなみ提案したのは俺な。勘違いするなよー」


 少し落ち着いて話がしたいので、俺は近くの椅子に腰掛けた。


「……アタシに説教でもしにきたのッ。澄乃りいなをいじめるなとかっ」

「……うーん、多分違う」

「多分って何よッ。じゃあ邪魔しないでよっ! アイツは! 人の彼氏に色目使って奪ったのっ!! 仕返しして当然じゃない!!」


 相変わらずの一方的な怒りだな。

 

「………それって本当にりいなさんがやったの? りいなさんが自分の口で色目使って彼氏を奪ったって言ったの? 実際に確認したのか?」

「それは……。そ、そうに決まってるじゃない! あのクソビッチはみんなからそういう人間だって思われてるんだからっ!!」


 女は怒る。

 少人数しか思ってないことを、まるで全員が思っているような口ぶりで怒る。

 そういう無意識的な言葉でどれだけ俺たちが苦しめられたか……。


 しばらく黙っていると、女はドアの方へと歩き始めた。


「つか、ほんと早く出て行ってくれない? それとも……アタシが今から部屋を出て、悲鳴でも上げよっか? そしたらアンタなんかお終いよっ。人生乙〜〜ww 」


 ギロッ


 俺が睨め付けると女は一瞬怯んだものの、すぐに調子を取り戻し、


「み、見た目だけで簡単に周囲に誤解されるアンタたちって可哀想よね〜〜w アタシはそうならなくて良かったぁ〜〜」


 女は勝ち誇ったような顔で高笑い。

 高笑い………か。


「ははは……」

「は?」

「はっはっはっはっ! はーはっはっはっ!!!!!」


 俺も便乗して思っ切り高笑いしてみた。女は困惑している。


「な、なによ……頭おかしくなったの……キモっ」

「そうだなー。元々頭がおかしいんじゃないかって陰口では言われてるなぁー」

「は、はぁー?」


 さらに困惑している様子の女に、俺は立ち上がって距離を詰める。


「言いたいことは山ほどあるが……俺が名言っぽいことを言って解決するとかは無理だし。大体俺って悪役だし」


 さらに足を早める。

 危機を察したのか、女は急いでドアノブに手を伸ばした。


 させないとばかりに、俺は女の腕を掴み……もう片方の手で女の肩をドンッ!! とドアに押し付けた。


「っ、たぁ!? ア、アンタついに本性現して——」

「………ごちゃこちゃうるせぇ。黙れ」

「……ッ」


 俺が今からすることは人に褒められることでもなく、好感度を上げるためでもない。

 自己満足と言ったらそうなるが……一言言わずにはいられない。


 だって、理解もしようとせず勝手にボロクソ言われるのはくそムカつくから。

 

 俺はすぅと軽く息を吸い、そして——


「お前に一言文句を言う」

「………っ、なに——」

「俺たちが必死こいてみんなと平等に関わろうとしてんのに、邪魔するんじゃねぇぇぇぇぇ!!!」


 腹から思いっきり声を出した。奥底に溜めていた感情をぶつけた。


 言い終わった後はなんかドッと疲れた。ただ一言言い終わっただけなのに、身体から力が抜ける感じがする。


「あ、ああ……あ………ーっ」


 よほど迫力があったようで女は、膝から崩れ落ち……失神した。


「あー……やっちまったかぁー」


 終わって後悔。

 まあでも、後のことは気にしない。

 女の意識が戻って、今やったことを言いふらされて、学園中から嫌われたってもうどーでもいい。


 俺のことを少人数でも理解してくれる人たちがいれば……それだけで心強い。


「あー、なんか腹減ったなー。結斗なんか食いもん持ってないかなぁ」







「……………」

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