第34話 悪役。犯人探しに協力する
「で、どうだったんだ?」
「……2人の荷物と部屋からは何も出てこなかった……」
俺と結斗の部屋を隈なく探した田嶋は、小さな声で言う。
「だろうな。俺と結斗はクラスから集めたプレゼント代が入った封筒なんて盗んでないんだから」
「………」
俺がそう返すも、田嶋はまだ疑っているといった険しい表情をしていた。
『お、お前だろっ。お金盗んだの』
田嶋にいきなりそう言われた時には何事かと驚いたが……後から追いついてきた同室のやつに事情を聞くと、クラスから集めたプレゼン代の入った封筒が紛失したらしい。
………ついに始まってしまったか。
ゲームのイベントの一つ。プレゼント代金紛失事件。
美人姉妹と仲が良い主人公のことを不快に思った笠島雄二が、主人公に罪をなすり付けようとしたあの出来事。
だが、今回俺は結斗を犯人にしようだなんて絶対思わない。ぜっっっったいにだ。バグが起こって、俺じゃない誰かが結斗に疑いをかけるなんてことがあればもちろん俺が違うと証明する。
「だから言っただろ。笠島はそもそも金持ちじゃねーか。なのに、たかが300円が25人分集まる封筒ごときを取るわけねぇって」
「い、言われてみれば……そうだな」
「だろ? アイツにとって7500円なんてはした金なんだよ」
おい、田嶋と同室のやつ。お前は俺をフォローしているのか、貶しているかどっちなんだ。まあでも、俺への疑いは晴れそうな方向だな。
「俺への疑いは無くなりそうか?」
「そ、そうだな……荷物も部屋も隈なくみたけどなかったし……第一、金持ちだし……」
金持ちってワードで随分冷静になったなぁ。疑われた瞬間、札束ビンタした方が早かったかもしれない。
「どうやら疑いは晴れそうだな。じゃあ……謝ることがあるよな? どうせ、俺の見た目とか、周りの勝手な噂を鵜呑みにして、犯人と決めつけてきたんだろ?」
さすがの俺と言われっぱなしで黙ってられない。ここは心と顔を鬼のようにして告げる。
腕を組んで見つめる俺に、田嶋もその連れも怯んだように……。
「……す、すまなかった。笠島を真っ先に疑ってしまって……」
「俺からもすまなかった、笠島。そして佐伯……」
2人は素直に頭を下げた。
結斗はすぐ許したが、俺の方はまだ言いたいことが山ほどあったが……まずは問題の解決が優先。
「田嶋」
「……あ?」
部屋から出ようとする田嶋に声を掛ける。不機嫌そうな声……犯人が別にいると分かり、焦りとイライラでまた視野が狭くなっているな。
責任を感じてしまうのは仕方ないが、今なら誰にでも突っかかっていきそうだ。下手すれば喧嘩に発展して林間学校が台無しに……。
「田嶋、お前。周りに突っかかっているけど、お前自身に落ち度はなかったわけ?」
俺の言葉に田嶋は数秒黙り……重い口を開けた。
「俺は……俺は部屋の鍵を掛けてなかった……」
「なるほど。だから誰かが盗んだと思っているんだな」
「ああ……」
「じゃあなおさら」
「……?」
俺は田嶋に手を伸ばして……
「——せいっ!!」
「ったぁ!?」
「雄二くん!?」
田嶋は、俺がデコピンをしたおでこを手で抑え、結斗は驚いた声。もう1人の連れはポカーンも口を開けていた。
「い、いきなりなにす——」
「田嶋、一旦落ちつけ。お金を管理していたお前が一番落ち着かないといつまでも解決しないだろうが」
「………っ」
少し大きめの声を出す。怒鳴るようにではなく、あくまで少しでも落ち着かせるように。
田嶋は俺の言葉を聞き、少し頭が冷えたようだ。
「大体、犯人が盗んだ理由がなにも金目当てとは限らないだろ」
「……は?」
「雄二くんどういうこと?」
みんなの視線が集まる中、俺は続ける。
「もし、金目当ての犯行なら俺の財布を取った方がいいだろ。金持ちなんだし」
「確かに」
確かだけど、そんなすんなり納得するんじゃねーよ、田嶋の同室のやつ! 名前が思い出せないから田嶋のおまけ扱いしてるけどさぁ!
「じゃあ……ん? 結局どういうことだ?」
「誰かが罪をなすりつけようとしてる……のかもしれない」
「罪をなすりつける……だと」
俺が本来その立場だった。それがなくなった今。バグが起こって、他の誰かがその役割を担っている可能性は十分にある。
「田嶋と……えと、誰だっけ?」
「里島だよ! 同じクラスだろ!」
「里島か。すまん」
田嶋と里島……なんか紛らわしいなぁ。
「田嶋と里島。誰かから恨みを買うような覚えはあるか?」
「恨み……」
「恨みかぁ……」
2人はしばらく考え、
「ないな」
「俺もないぞ。でも田嶋。お前はついこの間、彼女と揉めたただろ」
「ばっ、ここで言うことじゃねーだろ!」
「いや、別れ話は恨み買うだろ」
「あれは……し、仕方がないことなんだよっ」
彼女と揉めていた……? 別れ話……?
何やら聞き覚えのあるワード。必死に思い出していく。
確か………
『うるさいうるさい! とにかく私の彼氏がアンタと付き合うからって"別れ話"をしてきたの!! 絶対アンタがなんかしたんでしょ!!』
昨日、りいなに問い詰めていた女子生徒が似たよなことを言っていた。もしや……。
「田嶋、里島。とりあえず、男子には全員にはプレゼント代のことを一応聞いてこい。女子はまた後からだ。もし、犯人が見つからなくても……誕生日プレゼント代は俺が負担する。だから焦らず聞いてこいよ」
「え………」
「ほら、早くいけ。次のイベントが始まってしまうじゃねーか。里島も田嶋のことよろしくな」
「お、おう」
俺は急かすように田嶋と里島の背中を押して部屋から出させた。2人が歩いていたことを確認して、ドアを閉じる。
「さて……結斗。さっきは話についてこれなかっただろ? すまなかったな」
「うんん。大丈夫だよ」
「ありがとう。で、なんだが……協力して欲しいことがあるんだ」
「もちろん引き受けるよ。早くみんなの大切なお金が入ったプレゼント、見つけないとだからね!」
結斗は話が早くて助かる。
あの女子生徒がもし犯人なら、狙いは——
雄二と結斗の部屋を出た田嶋と里島。
ふと、田嶋が呟く。
「笠島って……意外と良いやつなのかもな……」
「あ? いきなりなんだよ、惚れたのかよ」
「アホ言ってんじゃねーよ! ほら、俺が一方的に犯人扱いしたのに……逆に犯人探しに協力してくれてさ」
「あー……なるほど。俺も笠島のことは、怖い顔で金持ちで良くない噂があって……嫌な奴だな、って決めつけていた。……つか、俺の方が散々酷いこと言っていた気がする……」
「お互いそこも反省だな」
「だな。……やっぱり笠島に惚れたのか?」
「これ以上言ったらお前を犯人として突き出すからな? さっさと聞いて回るぞ。……せっかくの林間学校。俺のせいで台無しにするわけにはいかない」
「ふっ。お供するぜ、友よ」
◆
———同時刻。女子部屋。
「ただいまりいな」
「ん、おかえり〜。お姉ちゃん、また別の部屋の女の子のところ行ってたの?」
「お呼ばれしたからね。りいなももう少し、人付き合いした方がいいよ」
「私は別に……」
「人付き合いをちゃんとしておいた方が、のちのち楽だと思うけど」
「はいはい、そーですねー」
「うん、全く聞く耳を持ったないね。りいなは特に、人と上手く付き合わないと恨みを買ってしまうんだから気をつけるんだよ」
そう言いながら、まひろは窓の鍵を閉める。
「……恨みなんて手遅れなくらい買ってるよ」
「ん?」
「はいはい。気をつけますよー」
りいなの顔は暗かった。




