第33話 メイドのひとりは夕方まで
【楽しんでるよー】
「そうですか。楽しんでらっしゃいますか」
雲雀はスマホの電源を入れ、雄二からのメッセージを確認していた。
昨夜、迷いながら送ったメッセージ。わざわざ電源を切ったのに、それでも電源を入れて送ったメッセージ。
なのに、会話がすぐ終わってしまうような返答に、雲雀はまた何かメッセージを送ろうとしたが……スマホの電源を切った。
仕事用のスマホを持っているので、こちらのスマホを切っても問題はない。
「ひとりは今日まで……夕方までですしね」
何やら自分に言い聞かせるように呟き立ち上がる。
雲雀は、白と黒を基調とした清楚なメイド服に素早く着替えた。今日は長い髪を結わえて、肩から胸元に垂らす。
雲雀はキッチンで自分の朝食を作り始めた。作るのは昨日と同じで1人分。
しかし、今朝もうっかり2人分の料理が出来上がってしまった。今日もまた、作りすぎた分は昼食の分に回すことになるだろう。
朝食を食べ終わった雲雀は軽く掃除を始めた。
ここまで見てわかるように、雲雀は雄二がいない日でも実に真面目である。雄二がいない時くらいテレビでも見たり、出掛けたりすればいいものの……メイド服を着用して黙々といつも通りの仕事をこなすだけ。
そんな雲雀だったが、ふと動きが止まり、
「雄二様。いつも通りのまま、何も変わらぬまま帰ってこられますよね」
そう呟く雲雀の脳裏に浮かぶのは、ショッピングモールに行く前。結斗の隣でこちらを興味そうに見つめていた……美人姉妹の存在だった。
◆
朝食を終え、少し長めの休憩時間。その間、俺たちのクラスは竹中先生を施設の外に呼び出した。
理由はもちろん……
「お前ら……お前らありが……ぐすん、ありがとうぉぉぉ! うぉぉぉぉぉんん!」
サプライズである、1日遅れの誕生日プレゼントを受け取った竹中先生は大号泣。
ゲーム画面でもこういうシーンがあったが、実際に泣きながら大喜びしている先生を見ると……鼻水まで垂らし始めた姿き苦笑はするものの、こっちも嬉しい気持ちになるよな。
「先生喜んでくれたね」
結斗がこっそり話しかけてきた。
「そうだな。まあ計画してくれたのは別のやつだけど」
「計画立ててくれた人には感謝だね。それと、田嶋くんに300円届けにいかないと」
「そうだな」
次のイベントもあるので解散。
俺と結斗は部屋に戻って財布から300円を取り出してまた部屋を出た時だった。
「お、おい笠島……」
「ん?」
俺の名前を呼ぶ、か細い声が聞こえた。横を見ると、お金を渡そうと思っていた田嶋がちょうどいて……。
「田嶋くんちょうど良かったっ。今雄二くんと一緒にお金を渡そうと——」
「笠島……」
「ん?」
「お、お前だろっ。お金盗んだの」
「…………はい?」
田嶋は俺を疑うように睨んできた。




