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第32話 悪役はまだ知らない

 時刻は夜の10時35分。外はもう真っ暗になっていた。

 消灯時間が近づき、別の部屋に遊びに行っていた生徒が自室に戻ったり、歯磨きをして眠る準備をしている生徒がいたりする中。

 とある部屋だけは……何やら緊迫した様子だった。


「ない……ないないない!!」


 雄二のクラスメイトの田嶋は、部屋の中やボストンバッグの中を切羽詰まった表情で探す。

 その様子にただ事ではないと感じた同室の男は心配そうに問う。


「お、おい? 何がないんだよ……?」

「ないんだよッ! お金が!!」

「お金って……まさかっ」

「ああ、そうだよ……クラスから集めた竹林先生の"誕生日プレゼント代"だよッ!」


 キレ気味の田嶋は、さらに部屋の中を慌てて探し出す。


「俺も探したいのは山々だが……と、とりあえず見回りくるから寝よう……! 探すのはまた明日で……」

「はぁ!? んな悠長に行ってる場合かよ! クラスのお金をなくしたなんて大問題だろ!!」

「落ち着けって……。それに部屋中そんなに探し回っても見つからないんだから、きっと別の場所にあるんだよ。明日、また冷静になって探せば……」

「いや、だからッ!!」

「そもそも! 先生にサプライズする前にバレたら準備してきた意味がないだろっ」

「くっ……」


 強い口調で言われた田嶋は、納得いかない様子だったが……渋々ベッドに寝転がり、布団を被った。


 田嶋はブツブツ呟く。


「……なんでないんだよ、クソっ。ちゃんとお金は大切にしまっていたはずなのに……。思いたるところは全部探したはずなのに……。いや、もしかしたら……()()()盗んだんじゃ……」





 林間学校2日目。朝食はビュッフェスタイル。お皿におかずを好きなだけ盛り、結斗の向かい側に座る。

 なぜ隣に座らないのって? 結斗の隣は美人姉妹が座るに決まってるから。

 

「ふわぁぁぁ〜〜」

「雄二くん大きなあくびだね」

「ああ。ふぁ………ねみぃ……」


 あくびを噛み締めると涙も出てきた。


 りいなの話を聞いた後は、すぐ眠りについて熟睡できたと思ったが……中々スッキリした目覚めにはならないなぁ。


「そういえば結斗。昨日はすまんな。何か言いかけていただろ?」

「全然いいよ。雄二くんに言おうと思っていたのは、スマホを脱衣所に忘れていたから持ってきたよ、って報告」

「えっ、マジ?」


 今はジャージのポケットに入っているスマホ。朝起きた時、枕元にスマホなんか置いたかと疑問に思っていたが……結斗が脱衣所に忘れていたことに気づいて届けてくれたのか。しかも、俺が眠そうにしていたらからわざわざ翌日に伝えてくれて……。


「ありがとうな結斗っ。お前はほんと優しいな!」

「えへへー」


 喜ぶ結斗を尻目に、スマホを触ると……メッセージがきていた。


【雄二様。林間学校は楽しんでおられますか?】


 雲雀から。


 とりあえず【楽しんでるよー】と打ち……送信!!


「おはよう結斗。笠島くんも」

「ゆいくんおはよう〜♪ あと笠島」


 美人姉妹もお皿におかずを取り終え、こちらにきた。相変わらず俺はおまけ的扱い。まあ班の仲に入れてもらえるだけでありがたいと思おう。


「さてと……結斗。隣失礼するよ」

「うん」


 昨日みたいに美人姉妹が結斗の両端に座るんだろう、と眺める。それは俺以外も思っていて……隣の班は結斗の隣をわざわざ空けている。


 りいなも反対側に座ると思いきや……。


「おや? りいなは今日は笠島くんの隣に座るのかい?」

「まあ……たまにはこっちでもいいと思って」

「ふーん」


 なんと、わざわざ移動してきて俺の隣に座った。

 まひろは、俺とりいなを意味深に交互に見つめる。俺もびっくりだよ。


「勘違いしないで。私はただ……ゆいくん、あーん♪」

「あ、あーん」

「こうやって、ゆいくんにあーんしやすいからこっちにきただけ」

 

 俺に対してそう言ってきた。

 まあそんなことだろうと分かっていたが……俺も言いたいことがある。


「それならなおさら……あっちに座ってくれ。イチャイチャを隣でも始められたらたまったもんじゃない」


 別にイチャイチャするなとは言わない。だって、エロゲの主人公とヒロインは大勢の前でイチャつくものだからと理解しているから。

 ただ我慢するのはそれ以外の役割。


 昨日は目の前だったから、視線を逸らして、まだ耐えれたが……俺の隣でもイチャイチャされたら……もう耐えれない、かも。


「生意気」

「誰のせいだと思ってるんだよ! 大体いちゃつくなら他所でやれよ! 甘いんだよ! 口から砂糖吐きそうなんだよ!」

「意味わからないこと言わないでよ!」

「2人っていつの間に仲良くなったの?」

「「仲良くなってない!!」」


 結斗の質問に対して、りいなと声がハモる。


「ふふ、仲良いねー。それにしても、今日のりいなちゃんは……なんだが話し方が違うね」

「え………」

「なんというか……雄二くんと話す時だけ違うよな気がする」


 さすが主人公。好意には気づかないが些細な変化には気づく。


「そりゃ猫かぶ——っ!?」

「んんっ!」


 横腹ら辺に痛みが。隣を見ると……りいながニコニコした笑みを浮かべながら何かを訴えかけていた。


「雄二くん?」

「あー……あれだよあれ! 朝起きたばかりだとテンションが不安定というか、なんというか……そういう時ってあるじゃん……! 多分りいなさんはそうなんじゃない?」

「確かに、そういう時あるよね! 起きたばっかりだとこう、気分も上がらないし」

「そうそう! って、いたっ!」

「どうしたの?」

「あはは、なんでもないぞ……」


 ちゃんと誤魔化したはずなのに、りいなは俺の横腹をボスボスと殴ってくる。そんなに力をいれているわけではないが、地味に痛い、というやつ。


「りいなさんも座ったし、俺たちも食べようよ!」

「………」


 俺がそう切り出すと、ようやく地味に痛いパンチをやめてくれた。


 手を合わせて俺たちも班も食べ始める。


「結斗。この魚、少し骨が入っているようだから、骨を取り除いた食べやすい方と交換してあげよう」

「ゆいくん野菜もしっかり食べないとダメだよ〜」

「まひろちゃんもりいなちゃんも僕っ、1人で食べれるから大丈夫だよ〜」


 とほほ、と嘆く結斗。


 こういうイチャイチャを見ていると、ゲームの画面に映ってないモブたちが分かるわあ……。


 今日も賑やかな日になりそうだ。


 林間学校2日目。

 1日目を特に何事もなく乗り切った俺は、完全に油断していた。

  

 1日であんな濃い出来事が起こるなんて。






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