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第31話 「僕は、ちょっと羨ましい」

 私は可愛いからモテるんじゃない。


 私は……見た目だけで好き勝手に解釈されて遊ばれているだけ。


 中学の頃の私は、比較的に臆病な性格だった。なのに……華奢な体つきに不釣り合いなたわわに実ったおっぱい。


 意図せず目立ってしまう。勘違いされてしまう。


『りいなちゃん〜。噂って本当? すぐにヤらせてくれるって』


『クソビッチ! いちいち男に色目使ってんじゃねーよ!!』


 投げられる言葉に私は、ただ怯えて、何も言い返せなくて、お姉ちゃんの後ろに隠れていた……臆病者。


 中学時代の私は、黒歴史。



 ………。

 ………………。

 ……………………。



 人目のつかない場所である、施設の外にある木で作られた椅子に座りながら、俺はりいなの過去の話を聞いていた。


 そして聞き終わり……。


「ふむ………」


 腕を組みながら頭の中で内容整理。


 りいなは、見た目で勘違いされやすい。そのせいで、中学時代はクラスメイトから陰口を叩かれたり、ビッチ扱いされたりと散々な学校生活を送っていた。

 また、中学時代は比較的内気な性格だったため、さらに言われたい放題。


 なので、高校では小悪魔キャラになった……とか。

 

 ゲーム中でも過去ストーリーとして流れていたが、本人の口から聞くと苦労したことがなおさら分かるな。


 けど……。


「やっぱり、なんで俺に話した?」


 いくら見た目が勘違いされやすいという境遇が似てるからって、過去を話されたところで、「そんな酷いことがあったんだなー」としか思うことしかできないんだが。下手に共感したり、慰めるのも……なぁ。


「もしかして……俺に解決策とか求めてる?」

「求めてない」

「なんだそりゃ」

「クラスに馴染めてないアンタに解決策求めたって……ねぇ……」

「確かに俺じゃ、解決策出したところで説得力ないけども! じゃあただ俺に話を聞いてほしかったわけか?」

「うん……。普段我慢しても、こう……吐き出したい時ってあるじゃん……」

「分からなくもない」


 悩みを解決するだけが全てじゃない。ただ話を聞いてもらえるだけでも……ちょっとだけかもしれないが気は晴れる。


 話し終わったりいなは、少しだけスッキリしたといった顔をしている。


 俺も、解決策や慰めという重役をする必要はないと感じ、真剣に聞く態度から少し足を伸ばしたりして楽にする。


「てか、前から思ってたんだけど」

「なに……?」

「俺と話す時、りいなさん。なんか話し方違くない? テンションとか雰囲気とか」


 普段は小悪魔キャラといったように、明るくて人懐っこく。たまに男子をドキドキさせ、勘違いさせるような振る舞い。


 しかし今は、落ちつきつつも……どのかダルげ。こういうのってダウナー系っていうんだっけ。


 バッタリ会った遊園地の時だって、


『なんでアンタがここにいるのよ!』

『アンタに無視されるのだけはなんかムカつく』

『はぁ? ゆいくんの友人以外の時はゆいくんのこと好きじゃないの?』


 だったしなぁ。明らかに普段接している小悪魔キャラと違う。


 りいなは、やや釣り目がちな瞳を細め、


「ずっときゃぴきゃぴしてるの、疲れるし……」

「やめればいいだろうが。そもそもなんで小悪魔キャラなんだ?」

「愛嬌がいい方が得するから。ニコニコ、明るく話せばみんな寄ってくるし、比較的いいこと尽くし。まあ白い目で見てくる女子やよく思わない人は少人数いるけど」

「朝みたいに恨みを買うこともしばしば……てか?」

「………」


 りいなは黙る。

 俺は続ける。


「朝の件。相当堪えたんだろ? それこそ過去を思い出すほど……。朝の件、実際はどうなんだ?」

「さあ?」

「さあ、って……」

「私は関係ないって主張しても、相手の受け取り次第ではどうとでもなるでしょ」


 りいなは、暗い声のトーンで話しながら立ち上がる。


「結局、見た目で判断されないなんて不可能なんだよ。私はそれを全部ダメとは言わない。だから私が少しでも得がする小悪魔キャラを演じて向き合う」


 そうだな……。俺もこの笠島雄二という強面顔と良くない噂と向き合って日々過ごしている。

 りいなのこういう前向きな姿勢はいいよな。


「本当は、見た目で判断する人たちにいちいち文句を言って回りたいけど。それに比べてゆいくんは……人を見た目で判断しない、カッコいい人」

「だから惚れたってわけか」

「そう。単純って思うけど……そういう人は、私が出会った中でゆいくんが初めてだった。ただ純粋に仲良くしたい対象として向き合ってくれた。……笠島だってこの気持ち分かるでしょ?」

「まあな」


 結斗はいい奴なのは、俺も実感している。優しくて思いやりがあって……強面顔の俺でさえ、仲良くしてくれた。

 彼は、見た目で勘違いされやすいという俺たちの大切な友達でもあり、心の支えだ。


「……やっぱりゆいくんのこと狙ってる?」

「狙うってなんだよ」

「ゆいくん優しくてカッコいいから……お姉ちゃんが恋愛の形は自由だって言ってし」

「意味がよく分からんが、俺は普通に女の子が好きだけど?」

「だよね。遊園地には美人な彼女と来てたんだし」

「は? 彼女って誰——へ……」

「へ?」

「へぶっしゅん!!」

「うわぁ……きたなぁ……」


 急に鼻がむずむずして……勢いよくくしゃみが出てしまった。


 誰もいない正面の方にしたつもりだが、りいなは嫌な顔をして露骨に距離を取った。

 

「二の腕らへんで口をふざくとかしなよ……」

「仕方ないだろ! 急に寒くなってきて……へっ……へぶっ!」


 今度は喉に突っかかり、中途半端なくしゃみが出た。やばい……鼻水も出てきそう……。


「髪乾かしてこないからでしょ……。そんなんだからモテないんだよ」

「それとこれとは関係ねえだろ! あと、男だったら自然乾燥なんだよ」

「そーいう考えがダサい。ちなみにゆいくんはちゃんとドライヤー使う。だから髪がサラサラ。清潔感もあるしカッコいい」

「結斗と比べるなよ! 俺じゃ金持ちってところ以外、勝てるところないんだから!」

「お金持ちってのも親のおかげだし完敗でしょ」

「うるせい!」


 悪役の俺じゃ、主人公にはスペックもボコボコに完敗ですよーだ。

 

 俺も立ち上がる。お互い、自然と施設の入り口に足を進める。


「今日は話聞いてくれてありがとう」

「別に話を聞くくらい、いつでもいいぞ。どうせ、結斗やまひろさんには話せないってことも俺を選んだ理由にあるだろうし」

「………やっぱり気づいた?」

「そりゃそうだろ。俺たち大して仲良くもないし」

「……それなのに話を聞いてくれたのはなんで?」

 

 りいなさんが足を止めた。俺も釣られて足を止める。


 なんで、と言われましても。無視したらのちの事に響くかなって思ったが半分で……


「りいなさんが暗い顔をしていたから」

「え……」


 小さく声を漏らし、りいなが目を見開き俺を見つめる。


「明日も楽しい楽しい林間学校なんだ。少しでも気晴らししてくれた方がいいだろう」


 俺はポケットに手を突っ込み歩き出す。


「ゆいくんが惹かれる理由がほんの一ミリだけ分かったかも……」

「え? なに?」

「なんでもない。早く部屋に戻らないと消灯時間きちゃう」

「あー、はいはい」

「でも……」

「ん?」

「興味がないって言ったのは謝るから」

「ああ、そう?」


 そんな事言ってたっけ? 


 なにかいい事でもあったのか、りいなは少し微笑んでいた。







「ただいま結斗ー」

「おかえり雄二くん。あっ、雄二くん実はね」

「悪い結斗」

「うん?」

「俺……めちゃくちゃ眠たい……」


 お風呂に入った後、りいなの話を聞いて……それらを終えたら急に睡魔がきたのだ。


「ほんと、ごめん……明日……明日に……」


 結斗はきっと、俺と遊びたかったに違いない……。だけど、睡魔に勝てる気がしない……。


「雄二くん、もう足取りがフラフラだよ! ほら、ベットに!」

「ありがとう……」


 結斗がベッドに誘導してくれる。

 ベッドにダイブしたら、すぐに意識が遠のいて……。




「すぅ…………」

「雄二くん寝ちゃった……。起こしたいけど、さっき寝た僕が起こすわけにはいかないし……」


 結斗は渡そうと思っていた雄二のスマホを見つめる。


「スマホどうしよう……。しかも雲雀さんからのメッセージがあって……。メッセージ的には、明日でも大丈夫そうだけど」


 結斗はとりあえず、雄二の枕元にスマホを置いた。


「はい。雄二くん忘れ物だよ。ふふ、雄二くんの寝顔……ちょっと可愛い」


 結斗が雄二の頬を、つんつんと軽くつくも、雄二はよほど眠かったのか熟睡して気づかない。


「それにしても雲雀さんともメッセージで会話するほど仲がいいんだね。雄二くんは一緒にいて楽しいもんね。家に帰ってからも雄二くんと一緒……ちょっと羨ましいかな」


 雄二くんは僕の初めての男友達。それだけではない。


 一緒にいたい、居心地がいいと思った人は、まひろちゃんやりいなちゃんの2人以外では……初めてだ。

 でも雄二くんは、まだ別に何か気ある気が……する。今はそれが何か分からないけど。


「メイドの雲雀さん。僕より雄二くんのこと知ってるんだろなぁ。一度お話してみたいかも」







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