第2話 悪役に美人メイドがいるとか
笠島雄二。
大手メーカーのボンボンで、金で全てを支配できると思っている男。
ゲームでは金で女をはべらせたり、主人公に不良をふっかけたり……王道の悪役って感じだ。
そんな笠島雄二に俺は転生してしまったらしい。そして今日は入学式前日。
カーテンを開けると外は暗い。時刻は7時……明日、目が覚めたらもう入学式。
「中学の頃の雄二はゲームでは明かされてなかったから分からないが、高校で明らかに変化したってのはチラッと言っていたような……。あー、ヤバイ。雄二のことバッドエンドシーンくらいしか頭に残ってない」
なにせ悪役なのでゲームの中でも掘り下げられてないし、悪役に興味は湧かないだろう。
とにかく中身が俺に入れ替わった以上、危ないことをする気はない。
「しかし、この部屋……綺麗で広い」
お金持ちの息子とあってそれなりに自室も広い。タワーマンションで一人暮らしらしい。にしてもあの悪人顔で金遣いの荒い雄二の部屋にしては綺麗だ。引き出しとか、服とかどんな高価なものが入ってるんだが……。
気になったがあとで探るとして俺は自室を出た。何故ならトイレに行きたくなったから。
「雄二様」
「うぉ！？」
扉を開いてすぐ人がいたので驚く。
「お食事の準備が出来ましたのでお呼びに来ました」
「あ、ありがとうございます……」
ここで初めて相手の容姿を見る。
メイド服を着た美人さん……おそらく雄二の専属メイドなのだろう。美人メイドなど創作物の中だけの存在だと思っていた。
手入れの行き届いた肩まであるストレートの黒髪。小さな顔の整った輪郭に大きな目に鼻筋の通った鼻。桃色の唇。言わずもがな美人だ。
「雄二様」
「は、はいっ！」
綺麗なメイドさんに上目遣いで見詰められて、思わずドキリとしてしまい変な声が出た。
「それと、旦那様と奥様はお忙しいので入学式にはご出席できないと先程ご連絡がありました」
「あ、そうですか……」
「？ 雄二様。今日はなぜそんなに弱腰なのでしょう？ どこか具合でも悪いのでしょうか」
「！？」
綺麗な人相手に思わず童貞丸出しの反応になってしまっていた。
俺は冴えないエロゲ中毒者ではなく、エロゲの悪役、笠島雄二なのだ。雄二はオラオラ系で乱暴な口調……。
「あ、あん？ なんでもねぇよ」
「そうですか」
ごめんなさい！ 美人にこんな口聞いてごめんなさい！！
「では私はこれで」
浅くお辞儀をしてメイドさんは去っていく。
背中を見ながら思う。
これから色々お世話になる人だし、何か一言言いたい。
かと言って雄二はそういうタイプでもないので、急に態度を変えるとまた怪しまれるかもしれない。
怪しまれず、それでいて伝える方法……体は笠島雄二……。
「メイド」
「はい、なんでしょうか雄二様」
「その……いつもありがとうな。高校入ってからも世話を頼む」
「…………」
プイ
メイドさんはすぐに反対側を向いてスタスタと歩いて行った。
「……あ、あれ？ ダメだった感じ？」
バッドエンドを回避する以前に女性との接し方をマスターしないと。
