第14話 悪役とメイド。ラブコメ始めました(?)
「ふぅ、食った食ったぁ〜」
「美味しかったですね」
「ああ」
食後のコーヒーでほっと一息。実に優雅な休日の始まりである。
「そういえば、今日は結斗様と一緒におられないのですね」
「そりゃ学園が休みだからな」
「お誘いはなかったのですか?」
「ないもなにも、大体連絡先も交換してないし」
「意外ですね」
「そうか?」
いくら友達になったとはいえ、連絡先を交換するのは別のハードルがあると思うし。
「……なるほど。お金は手渡し、と……」
「だから友達料金なんか払ってねぇ! あとメモ帳出してメモるなぁ!!」
「お、お客様……店内ではお静かに……」
「あ、はい。すいません……」
店員さんに注意されてしまった……。
ただでさえ静かなカフェで大声を出してしまったら、全員の注目がこちらに向く。まあ先ほどから視線はちょいちょい向けられているけどな。それも……
「あの人綺麗ー」
「すごい美人……。向かいの席の人って彼氏かな?」
「ないないw 顔面も雰囲気も怖いし。どっちかというと美人さんを金で雇ってるって方がしっくりくる」
そこの2人の女性客! 会話聞こえてますよ!!
ぐぬぬ……メイド雇うのにお金は払っているからあながち間違えではないが……。
「けっ、なんでもかんでも見た目で決めつけやがって……チクショウ!」
前世で読んだ、人は見た目が9割って本を、この世界にきてから痛感しまくりである。
「雄二様が悪い印象を抱かれるのは今に始まったことではないじゃありませんか。ん、ここのコーヒー本当に美味しい」
「そりゃそうだが……せめて俺を慰めるとかないのか!?」
「慰めたところで顔の怖さはどうにもできないので」
「正論だけどもさぁ!」
「でも」
「?」
「私は雄二様といて楽しいです」
「………」
コーヒーカップに伸ばした手が止まった。
……今、雲雀が楽しいって言った? いつも真顔でたまにしか感情が読めない雲雀が俺といて楽しいって言った?
「ひ、ばり……?」
思わず目を見開く。聞き返すようにそのまま雲雀をガン見していると、真顔で立ち上がった。
「……コーヒーも飲み終わりましたし、お店を出ましょう」
「え、あっ、ちょっ……俺まだコーヒー飲み終わってない! 待って! あと代金は俺が払うから伝票ちょうだい!」
残りのコーヒーを一気に飲み干して雲雀を追いかける。
砂糖を入れてないブラックコーヒーなのにほんのり甘く感じたのは、嬉しさからだろう。
雄二と雲雀が店を出からほんの数秒後。先ほど彼らのことを話題に上げていた女性客の1人が言う。
「やっぱりあの2人付き合っているんじゃない?」
「えっ。あんたマジで言ってる?」
「いやだって、あの美人さん。怖い人の後をついて行っている時、微かにだけど笑ってたもん。相手に自分が見えてない時にこそ本性が表れるんだから。なんとも思ってないなら隠れて嬉しそうに笑ったりなんてしないよ」
「そりゃそうだけど……じゃあマジで恋人関係って?」
「そうなんじゃない? それか美人さんが男の人に——」
◆
店を出ると少し日差しが強くなっていた。昼時にはもっと暑くなるだろう。
「それで、どこに行く」
ツッコミで忙しく行き先を決めるのを忘れていた。
「雄二様についていきます」
「ストーカーかよ。どうせなら雲雀が決めていいぞ」
「私ですか?」
「いつも身の回りの世話をしてもらっているし、日頃のお礼も含めて雲雀の好きなところ、好きな物を買うってプランに俺的にはしたい」
「私はメイドなので身の回りのお世話をするのは当然だと思います。それに、お礼として、いいお給料を貰っていますし」
「まあまあ。今回はそんなお堅い正論なんて捨てて、俺なりのお礼を受け取ってくれ。代金はもちろん俺が全部持つぞ」
「お金は旦那様からのお小遣いでしょうから心配はないとは思いますが……」
「ぐぬっ……お、お小遣いから出しても俺の奢りなんだから少しは格好つけさせてくれよっ!」
「分かりました。では雄二様のお礼、受け取らせていただきます」
「おうよ。じゃあ行き先をゆっくりでもいいから決めてくれ。俺はどこでもいいからな」
雲雀は考え込むように手を顎に当てた。
大人っぽい雲雀のことだからお洒落な香水売り場や洋服屋に寄るかもしれない。
「本当にどこでもいいんですね? 今日は私が雄二様を独占できますよね」
「お、おう」
もちろん雲雀の行きたいところに付き合うけど……後半のはなんだ? 独占って、2人っきりなんだから必然的にそうなるだろ。
また数秒考えたと思えば行き先が決まったようで顔を上げて、
「決まりました。では行きましょう。よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ」