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第97話 メイドは拗ねちゃうかも

 昼休み時間が残り10分ぐらいになった頃には、俺とまひろは解散した。


 とはいえ、俺はまた屋上に戻ってきていた。

 少し状況整理がしたかったからだ。


 今日は何故か、まひろに一緒にお昼を食べることを誘われて……。

 その流れでの放課後、付き合ってという誘いを断れなかった。

 断ったから、後が怖いし……破滅フラグにも関わるかも。

 

 そう、ここはあくまでゲームの世界。

 俺は悪役で破滅フラグがあることを忘れてはいけない。

 

 そして、バッドエンドではまひろたち美人姉妹に馬乗りされて、体力がなくなるまで酷い仕打ちを受けて……。

 思い出すたびに、ブルブルっと寒気がする。


「放課後付き合ってもらうって……呼び出しって意味か? それとも、俺とどこかに行くのか?」


 放課後の内容は詳しく聞いていない。

 まひろは、放課後になったら伝えるつもりだろう。


「とりあえず……昼休みの間に雲雀に連絡しておくか。放課後になったら、いつものように迎えに来てくれるだろうしな」


 雲雀とのトークアプリを開き、メッセージを打つ。


「今日の放課後はちょっと用事があるから帰るのが遅くなる。迎えはいらないから、と……送信っ!」


 画面に俺のメッセージが反映された。

 これで雲雀は「了解しました」との返信をしてくれる。

 それがいつもの流れだからな。

  

 事前に連絡もしたし、少しホッとしてポケットにスマホを入れようとした時だった。


 ブーブー、と振動が。

 それがやけに長く……って、これは着信音だ。


「電話か。珍しいな」


 スマホ画面を見れば……雲雀の文字があった。


「あ、はい。もしもし?」

『……何故、他人行儀なのですか雄二様?』

「いや……雲雀が電話くれるなんて珍しいなと思ってつい、改まった態度になったんだよ」

『そんなに私が電話をするのが変でしょうか?』

「変じゃないって。俺の反応が悪かったな。ごめんっ。それで、雲雀は電話で何か伝えたいことがあるんだろう?」

『……』


 雲雀は少し間を開けた後。


『……どうして、今日は帰るのが遅いのですか』


 声のトーンを落として雲雀はそう言った。


 あれ? それはさっきメッセージで伝えた気が……。まあ、いっか。


「放課後にちょっと用事が……まあ、遊んでから帰るんだよ」

 

『笠島くん。今日の放課後は、私に付き合ってほしいな』


 本当は、放課後にまひろに付き合うからなんだけどな。

 ……何に付き合うのか、分からなくて怖いけど。

 

 雲雀にそれを言うわけにもいかない。

 高校生だし、帰るのが遅い理由としては遊ぶっていうのが妥当だろう。


『遊ぶから、ですか。そうですよね。雄二様は高校生で、私はメイドで……』

「ん? 雲雀?」

『いえ……』


 雲雀の言葉は徐々に小さくなっていったが、最後は何もないとばかりに言葉を止めた。


 うーん? 雲雀の様子がなんか変だな?

 けどまあ、問いただしてその原因を探る……ってことはせずに。


「雲雀、もうちょっと話さない?」

『え……あ、はい』


 雲雀もそう言ってくれたことだし、俺は柔らかい口調で話を続けることにする。


「ちなみに、晩御飯のメニュー決まってるのか?」

『そうですね。本日はビーフシチューにしようかと思っています』

「ビーフシチュー! お肉はゴロゴロ系かっ」

『はい、お肉ゴロゴロ系です。それと、ライスではなくパンにしようと思っております』

「最高だ! 絶対美味いだろっ」

『ヨダレはちゃんと拭いて帰ってきてくださいね』

「って、今も垂らしてないわっ! でも、昼飯食ったばかりなのにもうお腹はなりそうだけどなっ」

『そうですか。……ふふっ』


 俺の分かりやすい反応が面白かったのか、雲雀の声のトーンが少し上がった気がした。


『夕食までには必ず帰ってきてくださいね』

「ああ、もちろん。雲雀の料理は出来たて熱々で食べたいしな!」


 今日はビーフシチューと聞いたら余計にな!

 絶対おかわりするぞ。


『楽しみにしていただいて嬉しいですが……。私の楽しみは……』

「雲雀?」


 何か言おうとしていると思ったが、電話越しの雲雀はこほんっと咳払いをした。


『それと、雄二様。用事が終わって帰る際には今から帰る、という連絡を……いえ。電話をもらえませんか?』

「お、おう。分かった」

『ありがとうございます。もし、それらを守ってくれないと……』

 

 ああ、なるほど。守らないと困るってやつだな。

 そりゃ、雲雀は料理しながら俺の帰りを待ってくれているからで……。


『私……拗ねますから』

「おう……え?」


 予想とは違った言葉が返ってきて、俺は間の抜けた声が漏れる。


『では、お時間ありがとうございました。失礼します』

「あ、うん……」


 俺は戸惑ったまま、電話が終わってしまった。

 けれど、時間が経つにつれて……微笑ましくなって。


「拗ねますから、か……。それじゃあ、できるだけ早く帰らないとな」


 もう通話の終わったスマホの画面を見ながら、俺はフッと笑った。


 ◆◆

  

 帰りのホームルームが終わる。

 クラスメイトたちが支度を始める中で、俺はさっさとと荷物を詰めて教室を抜け出し……屋上にいた。


 放課後の待ち合わせの場所として、まひろに屋上を指定されたからだ。


 おそらく、ファンの子たちを少しでも撒くためだし、俺と一緒だと昼休みの購買の時みたいにやけに騒がれるからな。


 しばらくすると、鞄を肩にかけたまひろが屋上に入ってきた。


「笠島くん、待たせたね」

「ああ……うん。思ったより待ったな」


 スマホの時間を見れば、帰りのホームルームから15分は経っていた。


「そこは、今来たと言ってくれた方が良かったな」

「悪いな。正直に言っちゃって」

「まあ、いいさ。私が悪いわけだしね。遅れてすまないね。じゃあ、場所を移動しようか」


 まひろは爽やかに言う。


 ふむ……場所を移動。となれば、俺を呼び出すだけでは終わりじゃない。

 俺をどこかに連れて行くつもりか。


「場所を移動するのはいいけど……。でも、俺と一緒に歩いたらまひろさんが悪目立ちするよ。目的場所を教えてくれれば1人で行くけど?」

「どうしてだい? 私と笠島君が一緒に歩いていたら何か悪いことがあるのかい?」


 まひろはきょとん、としていた。


「いや、だから……俺は悪い噂あるし、まひろさんにも迷惑掛かるのは嫌だしな」

「でも、その噂は違うんだろう?」

「ま、まあ……そうだが……」

「じゃあ、何も問題ないじゃないか」


 まひろはあっさりと言い切った。


「私もクラスメイトも、君のことを見た目だけで勘違いしたりしないさ。それに、周りが文句を言ったとしたら、こちらも堂々と言い返せば良いんだからね」

「ま、まひろさん……」


 その言葉は、妙に胸に響いた。


 そういえば原作でも、こんなシーンがあった気がする。

 

 まひろのファンが主人公で何かと一緒にいる結斗に対して嫉妬して嫌味を言う場面。

 その時も、まひろは今みたいに堂々と言っていた。


 こういうところはカッコいいし、憎めないヒロインって感じなんだよなぁ。


「とはいえ、君も気になっている放課後の件について先に伝えた方が良さそうだね」


 まひろのその切り出しに、俺はごくり……と唾を飲み続きを待つ。


「笠島くん。私と……結斗のお見舞いに行こうじゃないか」

「結斗のお見舞い……ああ、うん。もちろん行くよ」

「うん、ありがとう。昨日は行けなかったけど、今日は付き合ってほしいな。じゃあ、行こうか」


 そう言って、まひろは歩き出す。

 俺もその後をついていく。


 正直……ホッとした。

 結斗のお見舞いであれば、何も起こらないよなー。

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